中央魔法局
私は机の上の赤い封筒に手を伸ばし、中の書類に傷をつけないように封を開ける。封筒の中には一枚の手紙が入っていた。
手紙には、条件があるため直接話をしたいと書かれていた。私は少し面倒に感じ、小さなため息を吐いた。
「サラ、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。リュイは何も心配しなくていいわ」
「そうですか?」
リュイはじっと私の目を見た後、視線を床に落とし自分の服をぎゅっと握っていた。
「何もない僕を助けてくれた、レミナ先生とサラには感謝しています。サラは僕には何も求めないと言ってくれたけど、僕は自分の意志でサラの力になりたいと思っています」
そう言ってリュイは顔を上げ、私の目に視線を合わせた。リュイの目には心が動かされそうなそんな熱い感情を感じた。
「そんな事を思ってくれていたのね。ありがとう。でも、今回は本当に私一人で大丈夫だから……」
「いえ……僕のほうこそすみません」
「謝らなくていいのよ。リュイの言葉、嬉しかったわ」
そう言うとリュイはえへへと照れながら笑っていた。本来の感情を取り戻しつつあるリュイは見ていて飽きない、そう感じた。
「私はこの手紙に指示がある通り、中央魔法局に行ってくるわ。私が家にいない間は自由に過ごして大丈夫よ。ただ念のため、家の外には出ないで欲しいわ」
「分かりました。夕飯の時間までには帰れそうですか?」
「多分……としか返事は出来ないけれど」
「じゃあ、僕が夕飯を作って待ってますね」
リュイはニコニコと笑ってそう言った。
「ふふっ、それは楽しみだわ。材料は好きに使ってくれて大丈夫よ」
「はい! じゃあいってらっしゃいですね!」
私は久しぶりに言われたその言葉に、胸が温かくなるのを感じた。微笑みながら私は答えた。
「リュイ、いってきます」
中央魔法局は名前の通り、この国の中央に位置する大きな街の中に建物がある。この村からは歩いていける距離ではない。私は庭にある大きな木から一枚の葉を取り、その葉に言葉を唱えた。葉は人が一人乗れるくらいの大きさになった。
「ありがとう。私を中央魔法局まで運んでくれる?」
そう伝えると、葉はふわりと浮かんだ。私がその上に乗ると、まるで風の流れに乗ったかのようにぐんぐんと上昇しながら進んでいく。中央魔法局には三十分ほどで到着することが出来た。
中央魔法局に着くと葉は元の大きさに戻り、吹いてきた風によってどこかに飛ばされてしまった。
「久しぶりね……」
私は少し遠くにある受付に向かった。この場所ですれ違う人たちは全員魔力を持っている人たちばかりだ。ここの敷地内には魔力を持つ人しか入れないような、そんな魔法が書けてあると昔聞いたことがあった。おそらくそれは現在もなのだろう。
「すみません、サラです。こちらに来るように言われているのですが」
「はい。サラさんですね。少しお待ちください。確認させて頂きます」
私が手紙を渡すと、受付の女性はその手紙を鍵に変えた。そしてその鍵を、私の目の前の受け皿の中に置いた。
「確認が取れました。どうぞその鍵であちらのドアを開けてお進みください」
「ありがとうございます」
私は鍵を手に取り、入り口にある扉に鍵を差し入れドアを開けた。中に入ると多くの魔女や魔法使いがこちらに視線を向けた。何か言っているように聞こえたたが、私はそれを無視して目的の部屋を目指した。あの人に会うと思うと、気が重くなる。
「サラです。入室の許可をお願いします」
私は扉を叩き、中にいるであろう人物に声をかけた。
「どうぞ」
返答の後扉はゆっくりと開いた。部屋の中に私が入ると、扉はバタンとしまった。
「久しぶりだね、サラ」
「そうですね……中央魔法局の局長様」
「つれないな。ルカと呼んでくれていいんだよ」
そう言いながら彼は私に近付き、髪に触れた。私はあまりの嫌悪感に彼の手を軽く振り払った。私は顔をひきつらせたような笑みを浮かべながら、彼に用件を伝える。
「先ほどの手紙を受け取り、こちらに来ました。リュイを弟子にする事に必要な条件とは何でしょうか?」
おそらく私は上手に笑えてはいなかっただろう。
「ああ、その事か。サラが作っている薬をここにも流してくれないか? 僕的にはサラがここで働いてくれた方が嬉しいんだけれど」
「ここでは働かないと何度も伝えています。薬は一日に作れる量に限りがありますがそれでも大丈夫ですか?」
「ああ構わないよ。こうしてサラが会いに来てくれたことだし」
私はこのルカという男が昔から苦手だった。私がまだ幼いころから、彼は時々私を呼び出しては私にここで働けと言う。周りの魔女からは羨ましい等色々言われたが、私は彼の私に向けるねっとりとしたような視線が苦手だった、。
「じゃあ、交渉成立ということで弟子申請のほうは僕が国のほうに伝えておくよ」
「ありがとうございます」
私はそう言い部屋から出ようとした。しかし扉を開けることは出来なかった。これもいつもの事だと私は自分の気持ちを抑え込んでニコリと笑う。
「ルカ様、私この後用事がありますので失礼します」
「そうだったのか。引き留めてすまなかったね。でも君の口から僕の名前が出てくるのはとてもいい気分だ。じゃあね、サラ」
彼がそう言うと扉は自然に開いた。私は足早にその場を後にして、リュイの待つ家まで帰宅を急いだ。
家のドアを開けると、リュイの姿が見えた。リュイもこちらに気付いたようで振り返って私を見た。
「サラ、おかえりなさい」
「ただいま、リュイ」
私はあまりの疲れでその場にしゃがみ込む。パタパタとリュイが近付いてくるのを感じた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。お腹が減ったわ」
そう言うとリュイはくすくす笑い、私の手を引いて立ち上がらせてくれた。
「夕食できていますよ」
私はリュイが作ってくれた夕食を食べながら、一日の疲れを癒した。