収穫祭(3)
次の日、私はいつもより早く目が覚めた。着替えをしているとリュイも起きたのか二階から物音がする。街に行く荷物を持って部屋から出ると、リュイも二階からパタパタと駆け足で下りてきた。
「おはよう、リュイ。卵のお世話はもうしたの?」
「はい。起きてすぐに魔力を吸収させています。今日のための準備はばっちりです!」
リュイは嬉しそうにそう言って、着替えた服や鞄の中身を見せてきた。
「じゃあ、出発しましょうか」
私がそう言うと、リュイは嬉しそうに後をついてくる。今日の遊ぶための資金はもちろん全て私が出すことになっている。昨日の夜、リュイは自分の分は自分で出すと譲らなかったが数時間かかって何とか説き伏せることが出来た。リュイには今日一日遊び尽くして貰おうと思っている。
「うう、寒い……」
「季節が変わってからもう何日も経ったものね」
木の実の季節の朝は、花の季節の朝より寒く顔に当たる風も冷たい。私とリュイはいつもより着込んで家を出て街へ向かった。
街の入り口が遠くに見える頃、活気のある声が聞こえてくる。その声は街に近付くにつれて大きなものへとなっていった。
街の入り口は色とりどりの花で飾られていて、とても綺麗だった。その飾りを見るために大勢の人が集まっている。
いつもはあまり見かけない観光目的の人や、数人の魔女や魔法使いも紛れている。
「サラ、見てください! 大きな花がありますよ!」
「ちょっと待って、リュイ。あまり遠くに行くと見失ってしまうわ」
リュイは入り口の飾りに向かって走り出していた。私は見失わないように後を追いかけて飾りの方へと向かう。
「わあ! 近くで見るともっと大きいですね!」
「リュイ、あなた足早いのね……」
リュイに追いつくころには、私の息は上がっていた。呼吸を整えつつ、その入り口の飾りに視線を移す。そこにはリュイの身長程の大きな花がいくつも飾られていた。
「これって魔法でしょうか?」
「おそらくそうでしょうね。普通の栽培方法でこの大きさの花は作れないわ」
「僕も庭の花をこのくらい大きくしたいです!」
「一輪だけなら練習に使っていいわよ」
私がそう言うと、リュイは嬉しそうな顔で大きな花を見つめていた。
入り口で止まっているリュイの手を引っ張り、街中へ入るとまだ朝の早い時間帯にも関わらず、全てのお店が開いていた。魔女か魔法使いが魔法を使っているのか、空中には花びらが舞い、街の人たちはその花びらの下で手を取り合って踊っていた。
「綺麗ですね! それに街の人たちもみんな楽しそうです」
「そうね。……リュイ、今から夕方まで遊び尽くしましょう」
「はい! 僕、入り口の近くにあったお肉が食べたいです」
「分かったわ! すぐに買いに行きましょう!」
それから私たちは街中で、食べ物や飲み物を買って食事をしながら踊っている人たちを見たり収穫祭で安くなった服や毛布を買ったりしてお祭りを全力で楽しみながら過ごした。
お昼頃、食事を摂っていると図書館の管理人が私たちに話しかけてきた。普段とは違い、ワンピースを身に纏った管理人さんは凄くきれいな女性で一瞬誰だか分からなかった。
「サラさん、リュイさんお久しぶりです。収穫祭、楽しんでいますか?」
「管理人さんですか? ワンピースとても似合っています!」
「収穫祭、何度来ても楽しいですね。本当に良くお似合いですよ」
「お二人ともありがとうございます。では、会えた記念にこちらをどうぞ」
そう言って管理人さんは、私とリュイにそれぞれ花を一輪プレゼントしてくれた。
「この街の収穫祭では、相手の幸せを願って花をプレゼントするようになったらしいんです。素敵ですよね」
管理人は少し照れながら、そう言った。その後私たちはお礼を言って管理人とは別れ、街の中の色々な場所を探検するように歩いた。リュイはいつ見てもニコニコと笑っていて楽しそうだった。
夕方になる頃、溢れるようにいた観光客は帰ったのか街の中は少し落ち着いた雰囲気になっていた。私はもう一つの目的のためにレミナの家へ向かった。
「サラ、レミナ先生のところに行くんですか?」
「そうよ。少し相談したいことがあって」
「僕もこの木の実をレミナ先生のところに持っていきたかったのでちょうど良いですね」
少し歩くとレミナの家の前の小道に出た。リュイはレミナの家の玄関のドアを軽くたたいた。
「はーい……サラにリュイじゃない! いらっしゃい」
「こんばんは、レミナ先生。あの、これ収穫祭のお裾分けです」
「わあ、美味しそうな木の実ね。さあ、上がって?」
私とリュイはレミナに促されるまま、彼女の家に上がらせてもらった。
しばらくの間、今日の事をレミナに話していたリュイが疲れでウトウトとし出した頃に私はレミナにヨシュのことを話した。
「レミナ、村に新しく引っ越してきた家族がいて……その家族の末っ子がさっき話したヨシュなの」
「お母さんが流行り病にかかったっていう?」
「ええ。薬を作ってあげたいのだけれど、私じゃきちんと診ることが出来ないから一度村に来て診察してくれないかしら? 支払いは私がするわ」
「診察代はさっきの木の実でいいわよ。あの木の実の中に結構貴重なものが入っていたから」
「いいの? できれば早めに来て欲しいんだけれど」
「明日はこっちの予約が入っていないから、明日なら行けるわよ」
「ありがとう、レミナ」
レミナの言葉に私は感謝を伝え、横で眠っているリュイの肩を揺らす。リュイはぐっすり眠ってしまったようで起きなかった。
「リュイが起きないわ……。抱えて移動も難しいし」
「うちに泊まればいいじゃない? 明日村に行くんだから、その時に一緒に村に行けば問題ないんじゃない?」
「いいの? ……じゃあ、リュイは寝てるし今日は久しぶりに二人で語りましょうか」
「いいわね! 待ってて。お酒と食事を持ってくるわ」
レミナはそう言うと部屋の奥から、お酒と料理を持ってきた。その夜はリュイをベッドに運んだあと、私はレミナといつもより遅い時間帯まで起きて色々な事を話して過ごした。