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あなたの花に名前を付けるなら  作者: 蜜咲
10章
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収穫祭(2)

 走っていった先に女の子は座って泣いていた。私はその女の子の近くに座り声をかけた。

「こんにちは」

 ぐすっぐすっと女の子は泣きながら顔をこちらに向けた。涙で溢れた瞳は太陽の光でキラキラと輝いている。

「おねえちゃん……だあれ?」

「私はこの村に住んでいるサラよ」

「わたしはヨシュっていうの」

「ヨシュね。ねえ、ヨシュこのお花を見ていてね」

 そう言って、私は落ちていた小さな白い花に魔法をかけ大きさを手のひらサイズまで大きくした。

「わあ、サラおねえちゃん凄いね!」

「これは魔法っていうのよ」

「そのキラキラした髪の毛も魔法なの?」

 ヨシュはそう言って私の髪に触れた。

「魔法じゃないわ。生まれた時からこの髪よ。長さは変わるけれどね」

「サラサラいいなぁ」

 そう言ったヨシュの色は赤茶色で、髪質はクルクルとした髪の毛だった。その髪の毛をヨシュは指でクルクルと巻いている。


「ねえ、ヨシュはどうして泣いていたの?」

「お兄ちゃんからね、髪の毛クルクルって笑われたの」

 そう言って涙目になったヨシュの髪に、私は大きくした白い花をいくつか飾った。くせ毛の髪の毛には花が乗せやすかった。


「こんなに可愛いのにね。ほらヨシュこの水たまりを見て?」

 そう言われたヨシュは水たまりを見て、ぱあっと笑顔になった。水たまりに映る自分を色々な角度から見ている。

「ね?ヨシュの髪の毛はフワフワで可愛いわ」

「ありがとう、サラおねえちゃん!」

 ヨシュは満面の笑みで私にお礼の言葉をくれた。しかし数分後には少し悲しい表情になっていた。

「ヨシュ、どうしたの? 他に何か悲しいことでもあった?」

「あのね、サラおねえちゃん……魔法で病気って治せる?」

「病気を無くすことは出来ないけれど、軽くするお薬を作ることは出来るわ」

「じゃあ、お母さんにお薬作って!」

 ヨシュのお母さんは流行り病が治らず体調を崩してしまいこの村に来たらしい。街での生活が苦しくなり、比較的にお金のかからない生活ができるこの村に引っ越したのだという。ヨシュのお父さんはこの村から街まで通っているとヨシュは話してくれた。


「そうね。私の友達に病気を診てくれる魔女がいるから、お話を聞いてみるわ」

「本当? ありがとうサラおねえちゃん!」

 私はヨシュと手を繋ぎ、収穫祭の準備をする作業場に戻った。作業場にいた人たちは花で飾られたヨシュの髪を見て、ヨシュに色々と声をかけていた。

 その言葉を聞き、ヨシュは嬉しそうに私たちに混ざって収穫祭の準備の手伝いをしてくれた。

「ねえ、ヨシュはいくつなの?」

「もうすぐ四歳!」

「四歳でお手伝いできるなんて偉いわ!」

「ヨシュちゃんこれ、お菓子なんだけど食べる?」

「食べる! ありがとう!」


 ヨシュがすっかりこの場に慣れたころ、作業場は夕日のオレンジ色に照らされていた。そろそろ変える準備をと作業場の人たちは荷物をまとめ始めた。

 私はヨシュを家の近くまで送り、その帰りに別の作業場にいたリュイと合流した。帰り道で私たちは今日あったことを色々と話しながら帰った。

「ヨシュっていう女の子が最近この村に引っ越してきた家族の子だったわ」

「そういえば、僕のいた作業場にも見たことのない子がいましたよ」

「その子、もしかしたらヨシュのお兄ちゃんかもしれないわ」

「じゃあ、もし今度その子がいたら声をかけてみます」


 話していると家までの道のりが短く感じた。私とリュイは家の中に入り、夕食の準備をした。いつも通りに夕食を済ませ、私とリュイはソファに座って本を読んでいた。

「そういえば、リュイは明日時間はある?」

「ありますけど、収穫祭の準備ですか?」

「いいえ。明日は街の方の収穫祭を見に行かない? 街のほうはもう始まっているはずよ」

「そうなんですか! 行ってみたいです!」

 リュイはそう言うと、調理場のほうに走っていき数分後戻ってきた。

「どうしたの?」

「レミナ先生にも木の実のお裾分けをと思って……」

 リュイの手には、持ち切れずに置いておいた木の実が一人分袋に詰められていた。私は楽しそうなリュイの表情をクスクスと笑いながら見ていた。

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