収穫祭
中央魔法局から呼び出されてから数日が過ぎたころ、季節としては花の季節が終わり、実りを喜ぶ木の実の季節の中頃に移っていた。
この木の実の季節はもともと実りの季節といわれていたらしい。しかし今から数百年ほど昔、地区同士の争いが原因で名前が実りの季節から木の実の季節に変更したと聞いている。まだ幼かった頃は、どうしてそんな理由で……と思ったが長く生きると大人の事情とやらを理解してまあ仕方ないかと考えるようになった。
この時期になると、このあたりの地域は収穫祭を行う。季節の実りに感謝してみんなでそれを祝うお祭りだ。お酒を飲んだり、歌ったり、踊ったり……みんなが楽しみにしているお祭りの一つだと思う。
そういえば、リュイはまだこの収穫祭の事を知らないのかもしれない。そう思って、私はリュイに声をかけた。
「リュイ、今時間大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ! 何かありましたか?」
リュイは読んでいた本を閉じてそれを机の上に置いた。視線をサラに合わせ、期待に満ちた目で私の話を聞いている。
「収穫祭って知っているかしら? リュイの地域にもこういうお祭りってあるの?」
「僕のいた地区は長い雨の期間と、気温が高く暑い期間とあとは涼しくなる少しの期間だったので、収穫祭は知りません。そもそも、土地が痩せていたので収穫物が少なかったことも原因かもしれませんが……」
「そうなの……。でもこの地区の収穫祭はとても楽しいと思うわ。リュイも楽しめると思うし、期待していてもいいわよ」
「本当ですか! 楽しみだなぁ……」
リュイは悲しそうだった表情から、少し元気になりリュイのまわりの空気は楽しそうな雰囲気のものに変化していた。
リュイに収穫祭の話をした次の日に、村ではその収穫祭の準備が始まった。私は毎年、家の裏の木から採れる木の実をお裾分けしている。今年はリュイもいるので、いつもより多く渡せそうだと朝から張り切っていた。
「サラ、おはようございます! 今日はなんだかご機嫌ですね」
「ふふっ……だって今日から収穫祭の準備が始まるのよ? 楽しみだわ!」
「準備って何するんですか?」
「この家からは毎年木の実を持って行っているの。家の裏の木からたくさんの量・種類が採れるのよ!」
「それって僕も参加してもいいんですか? 準備期間も楽しそうです」
「大歓迎よ! それにリュイももう村の一員として認められているわ」
「じゃあ、朝食が終わったら準備してまたここに戻ってきますね」
私たちは朝食を済ませ、リュイが準備をしている間私は片づけを終わらせた。裏口のところで待っていると、リュイが動きやすそうな服で下りてきた。
それからは裏に広がる木々を揺らしながら、大量の木の実を袋に詰めた。リュイが手伝ってくれたので去年の倍の量の木の実を集めることが出来た。
「たくさん採れたわね」
「そうですね。こんなに落ちてくるとは思いませんでした」
「去年はこの半分だったのよ。今年はリュイがいてくれたからこの量採ることが出来たのね!」
私の言葉にリュイは少し照れながら笑っていた。
「じゃあ、これを村の広場に持っていくわね」
「あっ! 待ってください。半分は僕が持ちますよ!」
「あら、いいの? ありがとう」
そうして、私とリュイは木の実の入った袋を持って収穫祭の準備をしている村の広場に向かって歩いた。
広場に着き、その場にいた村の人たちに木の実を渡すとみんな嬉しそうに受け取ってくれた。
「今年もたくさん採れたのね!」
「リュイ君も頑張ったのね~。偉いわ!」
「この木の実で何か作ったら、持っていくわね」
私たちは村の人たちから色々な言葉をかけられながら、収穫祭の準備に混ざり作業を手伝った。村の人たちとおしゃべりをしながら作業をしていると、遠くに見かけない子供が泣いているのが見えた。
「あの子この村の子ですか?」
「ああ、あの子は最近この村に引っ越してきた家族のとこの末っ子だよ」
「そうそう、いつも泣いてて理由を聞いても教えてくれないんだよね……」
村の人たちは、その子について知っていることを色々と教えてくれた。その話を聞き、私は作業を中断して泣いているその子の元へ向かった。




