質疑応答
ルカが立ち上がると、周りの魔女や魔法使いたちは一斉に頭を下げた。リュイはその様子に驚いたのかビクッと肩を揺らす。リュイの腕に触れ、小さな声で言葉を伝える。
「大丈夫よ、リュイ。あれはいつもの事だから気にしない方が良いわ」
そう言うとリュイは無言で頷いた。
ルカは少し前に進み、カツンと足音を鳴らす。静かな空間にその音が響き渡った。
「それでは、こちら側の魔女・魔法使いたちを証人に質問を始める。リラックスして答えてくれても構わないよ」
ルカは笑顔で私たちにそう言った。そしてレミナに視線を移した。
「レミナ、まずは君に質問しよう。君がサラを診た時、どういった状態だったのか教えてくれるかい?」
「はい。私がサラの状態を確認した時彼女は仮死状態でした。まだそれほど時間も経っていない様子だったので、処置を始めました」
「サラは、もし君が来なかったら危なかったのかい?」
「そうですね。あのまま長く処置されないまま時間が過ぎていたら、彼女は永遠に目覚めることはなかったでしょう」
レミナが答えると、ルカのまわりは少しざわつく。また、数人が質問の内容をメモしているように見えた。
「では、次にリュイ。君がサラを見つけたということで間違いはないかな?」
「はい。僕が倒れているサラを見つけました」
「君はどうしてサラの元に行ったんだい?」
「えと……。サラが見ていた棚の近くで、本が落ちるような音を聞いたからです。あと、何か雰囲気が嫌な感じがしたので、様子を確認しに行きました」
「そうか。答えてくれてありがとう。そんなに緊張しないでくれ」
そう言って、ルカはリュイに笑顔を向けた。
「では、次にサラ。君は気を失っていたのだろう?何か覚えていることはあるかな?」
「断片的になら記憶があります」
「その内容を分かる範囲で教えてくれないか?」
「まず、昼食を済ませたところまでの記憶は完全にあります。棚から本を取った後の記憶はほとんどありません。覚えているのは、私が見ていた本のページに卵のイラストが載っていたことです」
「君はそれについて調べていたのかい?」
「はい。しかし、その本で見たはずの内容は記憶に残っていませんでした」
「そうか……」
ルカはメモをしている魔法使いに視線を送ると、その魔法使いは頷き何かを書き加えているように見えた。そして何か印鑑のようなものを押している。
「では、最後に図書館の管理人であるエマに質問だ。図書館の防御魔法に異常はなかったか分かるかい?」
「はい。こちらの調査の結果、防御魔法に手を加えられたような跡はありませんでした。魔力を持たない人間が入った痕跡もありませんでした」
「報告書に記載されていた、紛失した本について何か分かったことは?」
「すみません。そちらは特に変化はありません。現在も本の特定が出来ていない状態にあります」
「まあ。その件はこちらからも調査の依頼をかけてみるよ」
私たちへの質問が終わり、ルカ側はメモを見ながら何か話し合っているようだった。私たちは黙ったままその様子を眺めていた。
十分ほど経ったとき、魔法使いの一人がこちらに向かってきた。私たちの前でピタリと止まり言葉を発する。
「今日はお忙しい中、中央魔法局の呼び出しに応じて頂き感謝いたします。今回の質疑応答はこちらで終了となります。サラ様、リュイ様は引き続きこちらでお話の続きがあります。レミナ様、エマ様は後ろのドアより退室願います」
魔法使いはそう言うと、ルカの元へ帰っていく。私とリュイはそのまま椅子に座ってドアのほうに向かうレミナと管理人を見送った。
「サラ、リュイ。外の馬車の中で待ってるからね」
「分かったわ。終わったらすぐに向かうわね」
そう言いながら私は部屋から出ていく二人に手を振った。二人がドアを通るとそのドアは今までなかったようにスッと消えた。
視線をルカたちの方へ戻すと、先程までいた大勢の魔女や魔法使いはいなくなっていてルカ一人だけがその場に立っていた。