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リュイ

 レミナが部屋の隅の薬品が入った戸棚をずらすと階段が見えた。

「こっちよ、この先がその子供がいる部屋なの」

 手招きされ、私も小走りで階段のほうに向かう。私が階段のある空間に入るとレミナは指を振り玄関と裏口の鍵を閉めた。それほど内密なのね……と思いながら階段を上がっていくレミナの後を追った。


 ガチャっとドアを開ける。そこには1人の少年がいた。ベッドに座ってこちらを見ている。

「起きていたの? 体調はどう?」

「だ……大丈夫、もう痛くない」

「そう、良かった。紹介するわ、彼女はサラよ。彼女も魔女なの」

 少年はこちらをじっと見ている。

「はじめまして、私はサラ。向こうに見える山の麓の村で暮らしているの。レミナとは……友達よ。」

 友達という言葉にレミナは含んだような笑顔だった。

 少年は、何か考えているようだったけど、少し時間をおいて自分の名前を口にした。

「リュイ……です。」

 リュイが名前を言うまでの間、私はリュイを観察していた。

 茶色のフワフワな髪に蜜のような綺麗な瞳、私より背丈が小さく表情はどこか寂しげだった。腕や足には傷跡があり、ちょっとした事情はこれのことかと私は思った。

「リュイ、ね。響きが良い名前だわ」

「聞きたいことがあるの、あなたが魔力を使えるということは本当かしら」

 その言葉を聞くと、リュイはひどく怯えポロポロと涙を流し頭を抱え込んでしまった。

 私は慌てて謝るが、彼には私の声は届かないようだ。

「後で夕飯、持ってくるわね」

 レミナの言葉に、少し落ち着いたリュイは頷いた。


「ごめんなさい、リュイは大丈夫かしら……」

 謝る私に、レミナは少し思い出しただけよとここにリュイが来るまでの経緯を話してくれた。

「そんな……、ひどいわ」

 リュイの両親は、簡単に言えば後天的に魔力が発現したリュイを国に売ろうとしたらしい。しかし、リュイは検査の際に上手く魔力が使えず家に帰されてしまい両親はそのことに激怒したらしい。暴言・暴力に耐えられなくなったリュイは、家から逃げ出しこの街の近くで倒れていたところを保護され今に至る……といった内容だった。


「最初から魔力を上手に扱うなんて、無理よ。私だって花の季節中ずっと練習していたくらいなのに……」

 レミナは私を見つめながらずっと言葉を聞いていた。


「レミナ、私明日も会いに来て良いかしら」

「そうね。サラ、あなたなら多分大丈夫よ。明日も待っているわ」

 レミナは微笑みながら私を見送ってくれた。


 その日は早めに寝て明日に備えた。夕方にリュイのために集めた花で作った花束を見ながら眠りに落ちる。仲良くなれると良いな……と考えながら。


 早朝に目が覚めると同時に、いつもより早めに支度をした。花束と魔法薬を手持ちのカゴに入れ、街へ急いだ。

 街につくといつもより活気がなくどこか静かな雰囲気だった。近くのお店の店長に話を聞くと、朝早く多くの役人がこの街に訪れたらしい。魔力を持った子供を探しているようだった、と教えてくれた。

 その話を聞き、私は自分に認識を阻害する魔法をかける。街中にいる役人も、いつも声をかけてくれる街の人たちも誰も私には気付かなかった。

 早くレミナに知らせなければ、その一心で私はレミナの家に急いだ。

「レミナ、いるの?」

 私はレミナの家に入り声をかける。この建物のドアすべての鍵を念のため魔法で閉じる。

「いるわよ、こっちこっち」

 薬品が入った戸棚の後ろから声がする。急いでそちらに向かうと、階段のほうに腕を引っ張られた。ギィと戸棚は元に戻る。

 階段を駆け上がり、リュイの元へと急いだ。勢いよく開いたドアに驚いたのかリュイはビクッとしこちらを見ていた。


「リュイ、単刀直入に言うわ。私の家に来てくれないかしら」

「えっ……」

 リュイは困惑しているように見えたが私は続ける。

「私はあなたに何もしないし、何も求めない。建前的には、弟子……というのはどうかしら?」

 建物の周りが騒がしくなってきた。もう後は時間の問題だ。

「必要な手続きならなんとかするわ。村はね、とても綺麗で優しい人たちばかりよ」

 私は笑顔で、お願いと言った。


「う、うん……分かった。ありがとう、サラさん」

 リュイが答えてくれた。

「サラ、もう時間がなさそうよ。どうするの?」


「移動するわ。すべての痕跡を残さずね」

 持っていた花束を地面に置く。レミナに感謝を伝え、リュイの手を握る。

 辺りに花の香りが広がる。ふわりと暖かな光が広がると同時に床に吸い込まれるように全てのものが、痕跡までもが綺麗に部屋から消えた。


 サラの家の中に花が舞う。その花びらが床に散らばると真ん中に2人と、リュイの荷物などが落ちていた。

「驚いた?ごめんね、結構力技になってしまって……」

「だ、大丈夫」

 リュイは驚いているが、まだ拙い笑顔で返事をしてくれた。


 これから少し面倒な書類を作らないといけないな……と考えながら、リュイと散らばった花びらを2人で綺麗に掃除をした。

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