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図書館(4)

 リュイの涙を拭いていると、管理人がパタパタと走って戻ってきた。

「それで、本の在庫状況は?」

 レミナが管理人に聞くと、管理人は息を整えながら答えた。

「『国の歴史と成り立ち』という本が、現在所在不明です。この図書館内にもなく誰かに借りられた記録もありませんでした」

「それは、どういった本なの?」

「管理システムに名前しか登録されていなかったので、相当昔のものと思われます。ここ三百年ほどは内容の一部も記録されているので」

「そんなに昔の本が何故……?」

「私も最後にその本を見かけた時は、表紙もボロボロに近い状態だったので丁寧に棚に入れた記憶があります。あの年代の本は、魔法で綺麗にしたりできないので……」

「そう……」


 レミナは管理人との話が終わると、床に座ったままの私の前に立つ。レミナは私に視線を合わせるようにそこに座った。

「サラは今の話を聞いていて何か思い出しそう?」

「いいえ。全然駄目ね。かなり強力な魔法なんじゃないかしら?」

「禁書に載るレベルだと私は思うわ。まあ、禁書の中は私たちじゃ閲覧できないのだけれどね」

 私がレミナと話している間、リュイは涙を手で拭って心配そうにこちらを見つめていた。


 しばらくして、身体も軽くなったので私は椅子に座りなおした。リュイは何も言わず、私の横にある椅子に座った。リュイは無言のまま私を見つめている。


「リュイ? もう大丈夫よ?」

「……本当ですか? どこも痛くないですか?」

「ええ。レミナがきちんと処置してくれたからもう今までと変わらないくらい身体も動かせるわ」

 私は腕をまわしたり、手を見せたりして体が動くことをリュイにアピールした。

「でも記憶がないんでしょう?」

「そうね。記憶の事は仕方がないわ。あれはかなり強力な魔法だもの」

「魔女を仮死状態にする魔法なんてあるんですか?」

「あったみたいね。今回の私の事例が初めてかもしれないけれど」

 そう言うとリュイはまた黙ってしまった。レミナと管理人が話しているのが遠くに見える。

 そちらに視線を向けていると、レミナがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「レミナ、何を話していたの?」

「管理人さんと今後の事について話していたのよ」

「今後……?」

「そう。この図書館の管理システム……まあ防御魔法の一種を国に頼んで強化してもらうらしいわ」

「それは良いことね。私以外に被害が出たら大変だもの」

「でも、今回の事の詳細な内容も国の中央魔法局に報告することになったわ」

「中央魔法局に? それってルカ様の耳にも入るってことよね?」

「そうなるわね。というか、サラって今は彼の事を様付けで呼んでいるの?」

「だって、立場上仕方がないじゃない?」

 私の言葉を聞いて、何故かレミナは笑っていた。それからレミナは咳払いをして、話を戻した。


「今日はとりあえず家に戻った方が良いわね。家に戻ったら、ちゃんと休むのよ?」

 レミナがそう言うと、先程まで黙っていたリュイが勢いよく立ち上がった。

「僕もそう思います!」

 リュイは大きな声でそう言った。


「リュイがそこまで言うならそうするわ」

「絶対ですよ!」

「大丈夫よ。今日はちゃんと大人しくしておくわ」

 私とリュイがそんな話をしていると、レミナが私たちに声をかけた。


「今日はあなたたちの家まで、私が送るわ」

「あら、いいの?」

「心配しないで? 最近良い乗り物を買ったのよ」

 そう言ってレミナは私たちに向かってウインクをした。


 色々な処理が終わり、私とリュイはレミナの家に向かった。レミナの家の前には馬車のような乗り物が置いてあった。その乗り物の後ろから、レミナが顔を出す。

「待っていたのよ。さあ、中に座って」

「これどうしたの?」

「とある人から譲ってもらったの。なかなか良いものでしょう?」

 私たち二人とレミナも乗り込み、その馬車はふわりと宙に浮いた。

 そのまま、風に乗り私たちの村まではあっという間の時間で着いた。私たちはレミナにお礼を言って、家の中に入った。

「サラ、部屋でちゃんと寝てください」

「分かっているわ」

 リュイは私が自分の部屋に戻り、ベッドに横になるまでずっと見ていた。私がベッドに入ると、リュイは安心したような表情で私の部屋のドアを閉めた。

 ベッドに横になってすぐにとろりとした眠気がきて、私はそれに逆らうこともなくゆっくりと目を閉じた。

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