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図書館(2)

 私は今までに見たことがない本が並ぶ本棚を選び、数冊の本を手に取った。遠く見えるリュイの姿は基礎から応用まで揃った棚の前にあった。

 私はリュイのその姿を確認した後、近くにあった椅子に座りその手に取った数冊の本に目を通した。

 どれほど時間が過ぎたのだろう。その数冊の本を読み終える頃には、お腹から空腹を知らせる音が小さく鳴っていた。特に収穫のなかった本を、返却用の箱に入れ私はリュイの元へと向かった。

「リュイ、そろそろお昼ごはんにしない?」

 私の声にリュイは振り返った。

「サラでしたか。そうですね! 僕もお腹が空きました!」

 リュイはそう言うと自分のお腹を押さえる。そこから私と同じように空腹を知らせる音が小さく鳴っていた。


 私は奥にあるドアを開け、そこから図書館の庭に足を踏み出した。リュイも私に付いてその庭に入る。庭には綺麗に咲く色々な花々や小さな川があり、奥の方は森の入り口のようになっている。空気は澄んでいて、注ぐ光は暖かい。

「一度来たことはあったけれど、久しぶりだとこの綺麗な空間はやっぱり素敵ね……」

「わあ! 本当に綺麗ですね! 図書館の庭とは思えません!」

 リュイは興奮した様子で、目をキラキラと輝かせながらそう言った。


「じゃあ、あの木の下でお昼にしましょう?」

「はい!」

 私たちはその綺麗な図書館の庭でお昼を済ませ、しばらく花を見たりしながら休憩時間を楽しんだ。

「リュイはここの庭、気に入ったかしら?」

「はい!」

「うちの家の庭ももう少し綺麗にしてみようかしら……」

「その時は僕もお手伝いします!」

「リュイも手伝ってくれるなら、きっと綺麗な庭が出来るわね」

 そう話しながら私たちは図書館内に戻り、引き続き自分たちの興味のある棚へ向かった。私はまた数冊の本を取り、本を読み始めた。


 図書館内のほとんど音がない静かな空間に、私が本のページを捲る音だけが響いている。数ページパラパラと捲っていると、イラストとその説明が載ったページが何ページか続いていた。

 さらに数ページ捲ったところで、リュイがルカから預かった卵によく似たイラストが載ったページがあった。次のページには説明文が載っている。


「ところどころ文字が欠けているわね……」

 説明が書かれたページは少し破れたり、文字自体が消えていたりで読み進めるのがとても難しくなっている。

「あ……れは、もり……の?」

 文章の最初から、欠けている文字のせいで読むのに時間がかかる。しかし、現段階で妖精という言葉は一つも出てきていない。

 文章の半分ほどに目を通した頃、私は自分の前に人が立っていることに気付いた。勢いよく顔を上げ、その姿を確認する。


「おねえちゃん、こんにちは!」

 そう言って笑う小さな女の子は、綺麗に二つに結われた青い髪を揺らしながら私の目の前に立っている。

 見た目はリュイよりも幼く見える。


「えっと……? こんにちは」

 私が挨拶を返すと、その女の子は天使のような微笑みを私に向けた。

「私はエリサって呼ばれているわ。おねえちゃんはなんていう名前なの?」

「私はサラよ。はじめまして」

 そう言うとエリサはふふっと笑い、言葉を続けた。


「おねえちゃんはどんな本を読んでいるの?」

「えっと、わ……たし……?」

 エリサと話している途中で、私は自分の意識が薄れていくのを感じる。この図書館は魔力のあるものしか入れないはずだ。エリサも魔女だということに気付いた時には、私の意識はもうほとんど残っていない状態だった。手に持っていたはずの本は、音を立てて床に落ちる。

 そんな状態の中、エリサの最後の言葉が私の頭に響く。


「サラおねえちゃん……本当の名前はそんな簡単に知らない人に教えちゃ駄目だよ?」

 その言葉を聞き終わるのと同時に、私の意識はプツンと切れた。

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