魔力と卵
レミナの言葉に、リュイは少し焦った様子で身振り手振りで答えた。
「えっと……。はい、出来るとは思います。でも、今日の朝も魔力を卵に吸収させているので絶対出来るとは……」
「え?ああ、ごめんねリュイ。無理にとは言ってないのよ? ただ少し見てみたかっただけなの」
レミナはそう言うとリュイの頭を撫でた。リュイのフワフワな髪がレミナの指に柔らかく絡まる。リュイは少し困惑した様子でしばらく撫でられていた。そして、リュイは口を開いた。
「レミナ先生、さっきのお話挑戦してみます。全力でとはいけませんが、少しなら体調にも影響でないかなって思うので」
「まあ、リュイに何か影響が出そうになったら私が全力で止めるわ」
私がそう言うとレミナは少し考えた後、頷き椅子から立ち上がった。そしてリュイの横に行き目線をリュイと合わせる。
「じゃあ、リュイ……出来る範囲でお願いするわ。体調に変化が出たらすぐにやめてね」
「分かりました」
リュイはそう言って、卵を自身の目の前に持ってくる。手をかざし、小さく息を吐いた。
淡く優しい光が卵を包み込む。しばらくするとその光は、ゆっくりと卵の内部に吸収されていった。光が吸収された後、卵は嬉しそうな子供のようにコロコロと転がり、その動きはゆっくりと止まった。
「えっと、こんな感じでどうでしょうか?」
「最高ね! リュイ。こんな貴重な機会初めてよ! ちょっと待っててね……」
そう言いながらレミナは、手持ちの紙に何か色々とメモを取っていた。それをまとめ終わると顔を上げ、こちらに視線を移した。
「レミナ先生、何か新しく分かったことってありますか?」
「そうね、まずこの卵の中には確実に何かが存在しているわ。それと、さっき私が触れて感じた雰囲気と今のリュイの魔力を吸収した後の雰囲気は全然違ったわね」
「雰囲気が……?」
「私に対しては、感情がないっていう感じかしら。でもリュイに対してこの卵はどこか嬉しそうな雰囲気だったわ」
「私から見てもそう感じたわ。リュイはこの卵にとって育ての親みたいな認識なのかもしれないわね」
私は飲み物の入ったコップを机に並べながら、自分の考えを伝えた。
「そうそう、そんな感じがするわ! リュイはどう思う?」
レミナはリュイに視線を移し、じっと見つめながら話しかける。
「僕は自分の魔力に集中するのに精一杯で、そこまでは気付きませんでした。もう少し慣れたらレミナ先生やサラみたいに何か分かるといいなって思います」
リュイはニコニコしながら卵を撫でていた。レミナが触れた時には動かなかったその卵は、今はリュイに撫でられてコロコロと転がっている。その様子を見ながら、私とレミナは顔を見合わせてクスクスと笑った。
「ねえ、レミナの時とは態度が違うわね……この卵」
「本当ね。少し失礼じゃない?」
レミナはそう言いながら、飲み物に口を付けた。その後は卵を箱の中に戻し、しばらくお菓子を食べながら談笑していた。
窓の外の光にオレンジ色が混じる頃、私はある事をふと思い出しレミナに話しかけた。
「そういえば、レミナ……今日の予約は大丈夫なの? もうこんな時間だけれど」
そう言うとレミナは窓の外に視線を向けて、ガタっと椅子から立ち上がった。
「いけない! もうすぐ患者さんの予約の時間だわ!」
「間に合いそうなの?」
「あと十五分くらいかしら。急げば間に合うわね」
「じゃあ、レミナ。はい、これを持って帰ってからゆっくり食べてね」
そう言って、私はお菓子をまとめたものをレミナの手に持たせた。
「ありがとう、サラ。このお菓子本当に美味しいわ。家に帰ってゆっくり楽しむわね!」
「レミナ先生、今日はありがとうございました!」
「私の方こそ、貴重な体験が出来てよかったわ。ありがとう、リュイ」
レミナはそう言った後、テキパキと自分の荷物をまとめ急ぎ足で玄関のほうに向かった。その後を私とリュイも付いていく。庭に立って、魔法を使い、街に戻るレミナを私とリュイの二人で見送った。
強く吹いた風で、草花や私たちの髪の毛も舞い上がるように揺れていた。
その後、私とリュイはそれぞれ自分の部屋に戻った。明日にでも、街の図書館に行こうかと考える。まだ見ていない棚にこの卵の手がかりがあるかもしれない。レミナが言っていた、卵を知る魔女の事も気になる。
あの卵から何かが生まれてくるまでに、少しでも情報が得られればという思いだった。