レミナの到着
リュイが村の子供たちとの遊びから帰ってきて少し時間が経ったお昼過ぎに、庭の草花が強い風に吹かれザアザアと揺れた。私は玄関のドアを開け、レミナに声をかけた。
「レミナ、来てくれてありがとう」
「いいのよ。次の予約の時間まで時間が空いていたの」
「さあ、入って。こっちよ」
私はそう言って、レミナを家の中へ迎え入れた。リュイはレミナに気付いたのか、二階から卵を持って下りてきたところだった。
「レミナ先生! こんにちは」
「こんにちは、リュイは元気だった?」
「はい。今はもう安定しているので大丈夫です」
「そう? 良かったわ」
レミナはリュイが両手で持っている箱に気付いたのか、それを指さした。
「サラ、あれがそうなの?」
「ええ。あれが中央魔法局からの預かりものよ」
レミナはリュイに近付いて、その箱をじっと見つめた。
「レミナ先生、箱開けましょうか?」
「え、いいの? お願いするわ」
リュイは箱のふたを開け、中身の卵をレミナに見せていた。レミナはそれをじっくりと観察するように隅々まで見ていた。
時々卵に手をかざし、何かブツブツと呟いている。
「サラ! ごめんなさい……。あまり力になれないかもしれないわ」
「レミナでも、分からないものなの?」
「この卵の話自体は聞いたことがあるのだけれど詳しいことはお手上げね」
「そう……」
「でも、実際にこの卵の存在を見たことは初めてよ。とても珍しいわ。おとぎ話のような存在だと思っていたくらいなの」
それから、レミナは何か思い出したようにあっと言葉を零した。
「そういえば、この卵を預かった時にルカは何か言ってなかった?」
私は、卵を受け取ってすぐに強制的に出入り口に飛ばされたことを思い出した。そういえばこの卵については、彼から何も聞いていないに等しい。
「私とリュイの二人とも、話の途中で強制的に出入り口に飛ばされてしまったの……。だから、ほとんど情報は聞いていないわ」
「それは、もしかしたらサラに会わせたくない人が部屋の近くに来たのかもね。彼はあなたには特別に優しいから」
「あの行動は優しさなの?」
「サラには違う見え方で見えたしまうから、まあ仕方がないわよね」
レミナはそう言って小さく笑った。私は色々と疑問に感じながらレミナに出す飲み物の準備をしていた。
リュイは箱から卵を出し、机の上に置きじっとそれを見つめている。
「リュイはこの卵が気になるの?」
レミナはリュイの隣の席に座ってそう問いかけた・
「はい。気になりますね……僕にはまだこの卵が良いものなのか悪いものなのかも分からないので」
「それは私にも分からないわね。でも攻撃をしてくる気配はないし、悪いものではない可能性のほうが高いと思うわ」
レミナはそう言いながら、リュイの前に置かれている卵をツンと押した。卵は転がらずまるで机にくっついているかのように動かない。私もその光景を珍しいなと思いながら見ていた。
「不思議ね……。昔の記憶を思い出すわ。顔も覚えていない魔女の話だけれど、彼女の話していた内容とその卵は凄く似ているの」
「レミナが顔も覚えていないって珍しいわね」
私がそう言うと、レミナは少し笑いながら自分の頭を撫でていた。
「そうね……。おそらく私の記憶に何か細工をしたんでしょうね。この細工……魔法は私にも解くことが出来ないの。魔法のかけ方が複雑すぎて、手に負えないわ」
リュイは心配そうにレミナのほうを見ていた。私も初めて聞いた話だったので、ついじっとレミナの事を見てしまう。
「二人とも見過ぎよ」
そう言ってレミナは楽しそうに笑っている。
「レミナ先生、大丈夫なんですか? 身体のほうに影響とかは……?」
「大丈夫よ。体調に問題は全くないの。おそらくその魔女は、私に卵の事を伝えたのが自分だということを私に覚えていられると困るんじゃないかしらあ」
「そう言ったことってよくあるわよね……」
「よくあるんですか?」
リュイはそう言って心配そうな視線を私とレミナに向けてくる。
「まあ、よくあるけれど影響はそんなにないから心配しなくて大丈夫よ!」
レミナは笑いながらそう言って、リュイの肩にポンと手をのせた。そして、レミナはその手で卵を指さして言葉を口にした。
「リュイ、今からその卵にあなたの魔力を吸収させることは出来る?」
突然のレミナの真面目な顔に、部屋の中は少し緊張したような空気が漂った。