預けられたもの
ルカの声にリュイが怯えているのを感じ、私は彼に怒りの感情を向けた。それに気付いたのか彼は少し後ろに下がる。
「サラ、君はあまり怒らないんじゃなかったのかい?」
「私の大事な家族をデータ呼ばわりするからよ」
「怒りの感情は君に関しては、毒のようなものだろう?」
その言葉を聞いて、私は黙るしかなかった。ゆっくりと呼吸をし感情を落ち着かせる。ふぅっと息を吐き笑顔を作った。
「サラは、感情が豊かになったね。それが良いことなのか悪いことなのか僕には分からないけれど」
「関係ない話はやめましょう。それで、ルカ様がリュイに聞きたいことは何ですか?」
私は後ろに隠れるリュイを守るように、ルカとの間に立ち彼に問いかけた。
「そうだな。まずはリュイの姿を上から下まで見てみたいかな」
「それって必要な事なんですか?」
「容姿の確認は大事なことだよ。それで属性や傾向なんかも分かるじゃないか」
私はリュイのほうを向いて、声をかけた。
「リュイ、ルカ様はああいっているけれど大丈夫?」
「はい……。大丈夫です」
リュイはビクビクとしながら、私の横に立ちルカのほうに顔を向けた。
「これはこれは……。リュイの属性は光だね。その瞳の透き通り具合、良いね。最初からこの色だったのかい?」
「十日過ぎるくらい寝て起きたらこの色に変化していたの」
私はリュイの代わりにルカの質問に答えた。
「十日も……面白いね。何かきっかけがあったのかい?」
私は少し考えた後、鞄から小さな木箱を出してそれをルカに渡した。
「この木箱を見て何か分かりますか?」
「木箱って……ん? もしかして、この木箱の持ち主はヘランか?」
「そうです。やはり見分けは付くんですね」
ルカは木箱を持ったまま、少し慌てたような表情を見せた。
「彼は今どこにいるんだ?」
「ヘランは色々な地域を旅しているそうですよ? 現在地は私にも分かりません」
「ならいいんだ……。ということは彼の魔力の影響で寝込んだのかい?」
「その可能性が一番高いです」
ルカは顎に手を当て、しばらく何か考えているようだった。
「あの……」
リュイが何か言葉を口に出そうとした時、部屋にパンと乾いた大きな音が鳴り響いた。リュイはビクッと小さな肩を揺らした。その音は、ルカが手のひらを合わせたことにより出た音だった。
その音が部屋に鳴り響いた後、部屋の中にいた他の魔女や魔法使いたちは一列に並んでいた。その中から一人の魔女がルカの横に歩いてきた。手には布に包まれた何かを持っている。
「いやあ、面白い。こんなに楽しくてワクワクする気持ちは久しぶりだ」
「えっと……?」
「リュイ、君に興味がわいた。これを君に預けることにするよ。手を出してくれ」
リュイは恐る恐る両手をルカの前に出した。横に立っていた魔女がリュイに近付きその両手に布に包まれた何かを置く。
「これは何ですか?」
「その布を外したら分かるよ」
リュイは布をゆっくりと外した。中から黄色い卵のようなものが出てきた。
「卵?」
「そう。これは卵だ。でも普通の卵じゃない。……これは妖精の卵だ」
「どういうことなの?」
私がルカに問いかけると、彼はニコリと笑い答える。
「リュイのその魔力、まだ子供の彼には負担が大きすぎる。なら、この卵に負担になっている分魔力を与えればいいんだ」
「魔力を……?」
「彼の負担は減り、私もその中に何が入っているか知ることが出来る。お互いに利益しかないじゃないか」
「あなたの魔力じゃ駄目なのかしら」
「残念ながら、その卵は光の属性にしか反応を示さないんだ。それに、ここにいる魔女や魔法使いに余分な魔力は存在しない」
「リュイはちょうどいい存在って訳ね……」
「そういうことだ。……時間がきたみたいだ。今日はこれで解散だよ」
そう言ってルカは私とリュイに手を振った。いつの間にか後ろに現れた扉に身体が吸い込まれる。
「その卵、大事にしてくれ」
最後にその言葉が聞こえ、気付いた時には私たちは受付近くの出入り口のドアの前に立っていた。リュイの手には先ほどの黄色い卵が布にくるまれた状態で握られていた。