中央魔法局(3)
朝になり、窓から入る朝日の光で目を覚ます。私は身体を起こし、ベッドから出た。服を着替え、部屋を出る。そのタイミングで、リュイも部屋から出てきた。
「おはよう、リュイ」
「おはようございます」
「よく眠れた?」
「いえ、緊張でいつもより早く起きてしまいました……」
リュイはふわぁとあくびをして、目をこすっていた。いつものように朝食を摂り、出かける準備をした。
「リュイ、中央魔法局は街と比べたら何倍も遠いところにあるの。だから、今回はこれを使おうかと思っているの」
「これをですか?」
私は昨日大きくした馬のおもちゃを押して、大きな窓から外に出した。リュイも後を追って、玄関から庭に出た。
私はもう一度馬のおもちゃに魔法をかける。馬のおもちゃは少し大きくなり、二人ほどは乗れる大きさになった。私はその背中に座り、リュイを呼ぶ。
「リュイ、私の前に座って」
「は、はい」
リュイは恐る恐る木の膨らみに足をかけ、私の前にゆっくりと座った。私が付属している紐を握ると、馬のおもちゃはふわりと森の木よりも高く浮かんだ。
「わわわっ……」
「リュイ、大丈夫? 安定はしていると思うのだけれど」
「だ、大丈夫です。初めてなので、少し慣れないだけです」
リュイは少し震えながら、苦しそうに笑っていた。
「じゃあ、最初はゆっくり進むわね」
「お願いします」
馬のおもちゃはゆっくりと進んでいく。リュイが少し慣れたころ、私は確認を取り進むスピードを上げた。顔に当たる風が少し冷たく感じる。髪はフワフワと空中を舞っていた。
中央魔法局がある地域が近付いてきた頃には、リュイもすっかり慣れてあたりの景色を楽しんでいた。
「サラ、見てください!」
リュイは遠くに見える街を指さす。私がまっすぐそちらを見ると、リュイは言葉を続けた。
「凄く大きな建物が見えます!あれが中央魔法局ですか?」
「そうよ。他に何か分かることはある?」
「うーん……。レミナ先生がいる街とは、雰囲気が違うような感じがします」
乗っている馬のおもちゃは、街に入り中央魔法局の横を通る。
「この建物は、色々な魔法がかけられているのよ」
「だから雰囲気が違うんですね……」
そう言ってリュイは、じっくりと中央魔法局の建物を見ていた。馬のおもちゃはゆっくりと下降し、地面から数センチのところでフワフワと浮いている。私とリュイが地面に足をつくと、馬のおもちゃは元の大きさに戻った。
「帰りもこのおもちゃを使うんですか?」
「そうね。今持っている中で一番安全に帰れるのはこれくらいしかないから……」
そう言って、私は転がるおもちゃを拾い鞄の中に入れた。
「大きな門ですね……これが出入口ですか?」
「違うわよ。ほらドアがいくつかあるでしょう? 受付で貰った鍵が、用事がある場所に繋いでくれるのよ」
私たちは受付に行き、届いた文書を出した。その間、リュイは少し離れた場所で待っていた。
「サラとリュイです。文書は二通あります」
「はい、確認しますね。……鍵は一つですね。こちらをどうぞ」
私は鍵を受け取り、リュイを呼ぶ。リュイは受付の魔女に頭を下げ、こちらに走ってきた。
「ここには普通の魔力を持たない人間はいるんですか?」
「いないわよ。ここにいるのは全員魔力がある人だけよ」
リュイは驚いたような表情を見せた後、私の服の裾を握った。不安になったのだろうか。リュイの様子を見るが、そこまでの感情は分からなかった。
鍵をドアのカギ穴に差し込むと、キィと音を立ててドアが開いた。私たちはそのドアの中に足を踏み入れる。
ドアの先には、色々な花が咲き乱れる中庭のような場所が広がっていた。庭のまわりは大きな建物に囲まれている。その中には、数名の人が歩いているのが見えた。




