変化
リュイが眠るベッドのまわりに、次々と見たことがない道具が置かれていく。どうやらレミナはこの道具を一から試してみるらしい。
「レミナ、これ全部使うの?」
「うーん、全部は使わなくていいかもしれないわ。でも、準備することに越したことはないでしょう?」
「昔から、こういう道具を集めることが好きだったわよね」
「だって、使ってみたら一番正確なんだもの! やっぱり昔の道具には魅力があるのよね!」
レミナは一通り準備を終えたのか、道具に手をかざしてリュイの状態を調べていた。半分ほど道具を使った段階で、レミナは何か考えているような仕草を見せた。
「どうしたの? 何か分かった?」
「今ね、リュイの魔力量を調べていたんだけれど……二倍、いや三倍くらいに力の大きさが増加しているわね」
「この前の、属性を調べた時より?」
「そうね。もしかしたら、ヘランの魔力が影響してリュイの中の魔力の核のような部分に変化があったのかもしれないわ」
「そんな事ってよくあるの?」
「少なくとも、私は一度も見た顔とがないわね」
レミナはそう言うと、属性を調べる用の道具をリュイの近くに移動させた。その台座のような部分に、眠っているリュイの手を置く。道具に付属する針のようなものがクルクルと回転し、ピタリと止まった。
「ほら、サラもこの道具は見たことあるでしょう?」
私がレミナに近付き、その針の先を確認する。針の先は光の属性を表す絵をまっすぐに指していた。
「リュイって光か火の属性って聞いていたけれど……」
「魔力の量が大きくなったことで、属性が安定したんじゃないかしら」
レミナは、珍しそうにそれを見ながら紙にメモを取っていた。彼女から見ても、とても珍しいものだったのだろう。
「それで、リュイはどうなの?」
「この魔力の量に身体が慣れるまで待つしかないわね」
「そう……薬とかも効かない感じかしら?」
「効かないわね。今までの症例でも、時間が経たないと何もできなかったわ」
そう言って、レミナは広げた道具を綺麗に片付けていた。
「街に戻るの?」
「今日は患者さんが何人か来る予定なのよ。また時間が空いたらすぐに来るわ」
「分かったわ。今日はすぐに来てくれて助かったわ……ありがとう」
「いいのよ。それにサラの大切な弟子でしょう?」
「そうね。もうリュイは私の家族だわ」
その言葉を聞いて、レミナはニコニコと笑いながら私のおでこにコツンと手をあてる。
「サラは変わったわね。私はその変化が嬉しいわ」
「そうなのかしら……?」
私は触れられたおでこを押さえながら、レミナを見つめた。
「じゃあ、一旦帰るわ! 何かあったらすぐに呼んでね」
「分かったわ」
レミナのまわりに風が集まり、庭の草花が大きく揺れる。その風の中心で飲み込まれるようにレミナは姿を消した。
レミナを見送った後、私は自分の部屋に戻りリュイの部屋で渡されたこれまでの症例が載った紙を見返していた。もちろんその中に、後天的に魔力を持った人間についての記述はない。私はレミナの言葉を信じ、時間が経つのを待つことにした。
一日のうちに何度かリュイの部屋を訪れる。静かに眠るリュイは、穏やかな表情だった。スースーと寝息だけが部屋の中に響いていた。
「ねえ、リュイ……早く起きてくれないと本も読めないわよ?」
私のその言葉も、眠っているリュイには届いていないのだろう。この現実を受け入れるための時間とリュイが目覚めるまでの時間はどちらのほうが早いのだろうと、私は考えていた。
その夜、レミナが時間が出来たからとリュイの様子を見に来てくれた。リュイに特に変化はなかったが、レミナは私の事を心配していたようでその日はこの家に泊まっていってくれた。
誰かと一緒に眠る夜は、子供の時以来だった。