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あなたの花に名前を付けるなら  作者: 蜜咲
4章 
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別れの後

 ヘランを見送った私たちは、街へ戻りリュイの持つ本を返しに図書館へ向かった。読み終わった本を返却用の箱に入れ、新しい本を借りる。リュイは、ワクワクしたような楽しそうな様子で新しい本を抱えていた。

「リュイ、本を読むのは楽しい?」

「はい! 知らないことが分かるようになると楽しいです」

「なら良かった。無理はしないでね?」

「大丈夫ですよ!」

 リュイはそう言うと、楽しそうに歩みを進める。私は、レミナにヘランの事を伝えていないことを思い出した。


「あっ! リュイ、少しレミナのところに寄ってもいいかしら?」

「レミナ先生ですか? 僕は大丈夫ですけど……」

「ヘランの事を、レミナに伝えるのを忘れていたわ」

「確かに、ヘランさんが訪ねてきてから忙しかったですし。今日も朝早くから家を出てきましたから、仕方ないですよね……」

「レミナももしかしたら、会いたかったかもしれないわ」

「とりあえず、レミナ先生に会いに行ってみましょう!」

 リュイはそう言うと、本を片手に持ち直して私の手を引いてレミナの家まで走った。レミナの家に着くと、表のドアが開いていた。

 中を覗くと、患者が数人待合室の椅子に座っている。患者の一人が私たちに気付き、声をかけてきた。


「サラさんじゃない? いつもお薬ありがとうね」

「いえ、お役に立てて嬉しいです。薬は効きましたか?」

「ええ、体調がすごく良くなったのよ。今日はその報告もかねてここに来たの」

 私が彼女と話していると、リュイも別の患者に声を掛けられていた。どうやらその患者はリュイの事を知っているらしく、リュイもニコニコと話を続けていた。奥から名前が呼ばれ振り向くと、レミナが手招きをして私を呼んでいた。


「レミナ、今日は伝えたいことがあって来たの」

「そうなの? 内容を聞きたい気持ちはあるんだけれど、今少し薬が足りなくて……手伝ってくれない?」

「えっ、それは大変ね。すぐに作るわ」

 私はリュイのほうを向き、身振り手振りで伝えた。きちんと伝わったか分からないが、リュイが頷いたので私はレミナと奥の部屋に向かった。


「この紙に書いてある薬、作れそう?」

「ええ、大丈夫よ」

 私はレミナの指示通りに、薬を作り机に並べていく。レミナはその薬を確認しながら患者に渡した。すべての患者の対応を終え、一息ついているとリュイが顔を覗かせた。私が手招きをすると、周りを確認しながら近くの椅子にリュイは座った。


「サラ。レミナ先生にヘランさんの事伝えましたか?」

「あっ、そうだったわ。ねえ、レミナ……」

 私に名前を呼ばれたレミナは、クルっと振り返った。


「数日前、ヘランが訪ねてきたわよ」

「ヘラン? 懐かしいわね。元気そうだった?」

「昔より元気だったわよ。今旅をしているらしいわ」

「そうなの? 国は平和なのね。それとも辞めさせられたのかしら」

「そこまで詳しく聞いていないから分からないけど……」

 そして、私とリュイはレミナにここ数日の事を伝えた。レミナはニコニコと笑いながら私たちの話を聞いていた。


「もう、街から出たのね」

「ええ、伝えるのが遅くなってごめんなさい」

「別にいいのよ。気にしないで」

「ヘランはまた来るって言っていたから、その時はすぐに連絡するわ」

「そう?」


 その後、疲れたのか眠たそうなリュイの手を引いて私たちはレミナの家を後にした。家に着き、静かな室内に少し寂しい気持ちになる。今では、あの笑い声すら懐かしく感じた。


「リュイ、二階には自分で上がれそう?」

「はい、大丈夫です。すみません、凄く眠くて……」

「患者さんの相手で疲れたのよ。部屋に入ったら、すぐに寝るのよ?」

「分かりました」

 そう言って、リュイは手に持っていた本を近くの机に置き階段を上がって部屋に入った。私はリュイが部屋に入るのを確認した後、自分の部屋に戻る。


 ベッドに横になり、明かりを消すとすぐに身体が沈むように重くなり私は眠りに落ちた。深い眠りの中、私は懐かしく感じるような昔の夢を見たような気がした。

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