サラの一日
柔らかな日差しが部屋に降り注ぐ。チチッと鳥が鳴きながら窓辺に近づく。ふわりと風が吹くと遠くから花の香りがした。
50を超えたあたりから数えなくなった、何度目かの花の季節が今年も巡ってきた。
母がこの世を去った後、父も後を追うようにこの世を去った。
父も最期はあの魔法を望んでいたため、私は感謝を伝えながら笑顔の父を見送った。2人を見送った後も私はこの家に住み続けている。多くの思い出があるこの家に……。
私は魔力を持って生まれてきた、魔女という存在だ。今は魔法薬を作りそれを売って生活をしている。
「今日もいい朝ね。魔法薬の在庫をチェックしたら、薬草を取りに行けそうないい天気になりそうね」
呟きながら、鏡を見て髪を束ねる。
父と母の死から50年は経っていたが、見た目はそれほど変わらなかった。髪が伸びたくらいで、顔つきや体つきは10代後半くらいだ。
「サラさーん! お願いしていた薬は出来たかしらー!」
お隣の家の奥さんが元気な声で訪ねてきた。
「はーい! 出来てますよー!」
私は在庫チェックをしていた倉庫の窓から顔を出し、奥さんにこちらへと家のほうに案内した。
「サラさんの薬本当によく効くわね! おばあちゃん凄く元気になっちゃった!」
「それは良かったです! また何かあったら言ってくださいね!」
お隣さんにはこの村最年長のおばあさんがいる。最年長といってもサラとそれほど変わらない年齢である。良く遊んでいた昔のことを思い出し懐かしさを感じた。
「おばあちゃんとサラさんってお友達なんでしょう? おばあちゃんが言っていたわ!」
「ええ、そうなんです! また会いに行こうかと思っていたところで……」
「ぜひ、会いに来てください。伝えたらもっと元気になってくれるはずよ」
その日はお昼までお隣の奥さんとの会話を楽しんだ。
「じゃあ、そろそろお昼だしお暇するわね。おばあちゃんにサラさんのこと伝えておくわ!」
「はい、お願いします」
私は玄関から、姿が見えなくなるまで手を振って隣の奥さんの帰りを見送った。
太陽の光がキラキラと降り注ぐ、そんなお昼の風景を私は楽しみつつ家の中に戻った。
私は薬草を取りに行く前に、昼食を済ませ準備を進めた。
裏口を開けるとその先は森が広がっている。この森を抜けた先が、薬草が調達できる場所である。採取する薬草は色々あるが、私が魔法を使う時に欠かせないものは花である。
薬草を集めつつ私はいくつか花も集める。
「今日は久しぶりに来たから、薬草も花もたくさんあるわね」
口に出した言葉は、花の香りがするふわりとした風に流されたように消えていった。
ザクザクと土を踏みつつ、家に帰るとタイミングよくカチャンカチャンと玄関の呼び鈴が鳴った。
「サラさーん、お届け物でーす」
「はーい、今行きます!」
私は駆け足で玄関に向かい、荷物を受け取る。
魔法薬を作るために注文した道具といくつかの手紙が届いた。
手紙は薬で病が寛解したお礼と感謝の手紙だったり、新たな魔法薬の注文の手紙だったり、専属の薬師への誘いだったりと様々だ。
全てのものに目を通し、魔法薬の注文の紙だけ机に残し残りの手紙は棚にしまった。
「もうこんな時間ね……」
空は綺麗なオレンジ色が広がっていた。あたりもうっすらオレンジ色に染まり綺麗だなと思いつつカーテンを閉める。
私は花の季節は毎日同じように、50年以上繰り返し今日のような1日を過ごしてきた。
「明日は街に出てみようかしら……」
ベッドの中でそう言葉を口にし、私は深い眠りに落ちた。