別れ
街に着くと、ほとんどのお店が開店準備をしていた。私たちに気付き声をかけてくれる人たちが大半で、リュイや私にはもちろんヘランにも何人かは声をかけていた。
「街の人たちはヘランさんの事を知っているんですか?」
「昨日酒場で少し盛り上がったからな」
「酒場で何かしたの?」
「ん?少し得意なアレを見せただけだ」
ヘランが言うアレはおそらく魔法だろう。昔何度か見たことがあるが、ヘランは架空の動物や実際にある物体を、想像することさえできればそれを火で形作ることが出来る。あれを初めて見た時は、私も凄いなと思った。
「でも、あまり街中で派手に魔法を使うと怒られるわよ?」
「今は自由の身だから怒られることはないだろう? 楽しけりゃそれでいいんだ」
そう言って、ヘランはケラケラと笑っていた。
三人で街中を目的地に向かって歩いた。途中まではリュイも道を知っているので、ヘランに右や左など言いながら楽しそうに進む。少し奥まで来たところで、道の説明は私に代わった。
しばらく歩くと、古そうな見た目の店が見えてきた。店主のおじいさんが店の前をきれいに掃除している。私たちの存在に気付くと、ニコリと笑った。
「やあ、サラちゃん。久しぶりだね」
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「サラちゃんの薬のおかげで、まだまだ元気に仕事ができそうだよ」
「それは良かったです」
店主は私の後ろにいるヘランとリュイを見て、挨拶をする。
「やあ、お二人さんも魔力持ちかい?」
「ああそうだ。爺さんは普通の人間だよな?」
「ああ、魔力は持たないよ。君もかい?」
そう言って、店主はリュイに視線を移した。
「はい。僕も魔力持ちです。リュイっていいます」
「リュイ君か。もしかして、最近噂になっていたレミナ先生のところにいた子かい?」
「はい、そうです」
「そうかそうか。君だったんだね、リュイ君」
そう言いながら店主は優しい目でリュイを見ていた。
「おじいさん、今日お店は営業していますか?」
「ああ、今開けるところだよ。今日は誰がお客さんかな?」
「俺だ、よろしくな!」
ヘランはそう言って、店主に手を差し出した。店主は差し出された手を握り、ヘランを見上げる。
「君は背が高いね。そのもさもさした髪はどれくらい切っていないんだい?」
「いや―、時間に疎くてな。覚えていないんだ」
「そうかそうか。まあ、三人ともどうぞ中へ」
私たちは案内された店内に入り、並べられた椅子に腰かけた。棚や壁には他国の本やどこかの写真、絵画などが飾られている。リュイは興味深そうにそれらを見ていた。私も本を手に取り、パラパラとページを捲る。
しばらくして、奥から店主が出てきてヘランは奥の部屋に呼ばれた。どのくらいの時間が経ったのだろうか。しばらくして、足音が聞こえ私とリュイは顔を上げた。
もさもさだった髪は整えられ、髪の下にあった良く知った顔が目に入る。彼の懐かしい赤い目がキラキラとこちらを見ていた。
「あら、髪が綺麗にまとまっているわね」
「おう! あの爺さん腕が良いな!」
「久しぶりにあなたの顔を見たわ」
「俺もまだまだ変わらないだろう?」
私たちがそう話していると、リュイが少し興奮したようにヘランに声をかけた。
「ヘランさん、格好いいです!」
「リュイは俺のこと良く分かっているな! サラ、リュイは良い子だな!」
「リュイ、褒め過ぎるとヘランは調子に乗るわよ?」
「いえ、本当に格好いいですよ。ヘランさんは、さわやかな顔立ちだったんですね。僕はおじさんのような見た目を想像していたので、とても驚きました!」
その言葉に、私はクスクスと笑いが零れた。
「ふふっ、おじさんって……」
「リュイの中で俺はどういう立ち位置だったんだ?」
「えっと……僕何か変なこと言いましたか?」
「いいや、いいんだ。リュイありがとうな」
ヘランが、そう言いながらリュイの髪の毛を撫でる。私たちは店主に代金を支払い、店の外に出た。時間はお昼前と言ったところだろうか。
ヘランは街中で、食べ物や服など色々と買って袋に詰めていく。その様子を私とリュイは、店で買った飲み物を飲みながら眺めていた。
しばらくして、手を振りながらヘランは私たちを呼んだ。
「色々世話になったな。今からまた別の地域に移動するから挨拶だけしようと思ってな」
「あら、もう行くの?」
「ヘランさん、行っちゃうんですか?」
私とリュイの言葉が重なる。
「ああ、色々と見てまわりたいんだ。また会おうな」
「はい。寂しいですが、また会えるなら待ってますね。次会う時は、今より大きくなっておもてなしします」
リュイはそう言いながら、ヘランに手を差し出した。ヘランはその小さな手を握り、ニカっと笑う。
「じゃあまたな! リュイ、サラ!」
そう言いながら、街から遠ざかっていくヘランを私たちは手を振りながら見送った。




