表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの花に名前を付けるなら  作者: 蜜咲
4章 
19/46

別れ

 街に着くと、ほとんどのお店が開店準備をしていた。私たちに気付き声をかけてくれる人たちが大半で、リュイや私にはもちろんヘランにも何人かは声をかけていた。

「街の人たちはヘランさんの事を知っているんですか?」

「昨日酒場で少し盛り上がったからな」

「酒場で何かしたの?」

「ん?少し得意なアレを見せただけだ」

 ヘランが言うアレはおそらく魔法だろう。昔何度か見たことがあるが、ヘランは架空の動物や実際にある物体を、想像することさえできればそれを火で形作ることが出来る。あれを初めて見た時は、私も凄いなと思った。


「でも、あまり街中で派手に魔法を使うと怒られるわよ?」

「今は自由の身だから怒られることはないだろう? 楽しけりゃそれでいいんだ」

 そう言って、ヘランはケラケラと笑っていた。

 三人で街中を目的地に向かって歩いた。途中まではリュイも道を知っているので、ヘランに右や左など言いながら楽しそうに進む。少し奥まで来たところで、道の説明は私に代わった。


 しばらく歩くと、古そうな見た目の店が見えてきた。店主のおじいさんが店の前をきれいに掃除している。私たちの存在に気付くと、ニコリと笑った。


「やあ、サラちゃん。久しぶりだね」

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「サラちゃんの薬のおかげで、まだまだ元気に仕事ができそうだよ」

「それは良かったです」

 店主は私の後ろにいるヘランとリュイを見て、挨拶をする。

「やあ、お二人さんも魔力持ちかい?」

「ああそうだ。爺さんは普通の人間だよな?」

「ああ、魔力は持たないよ。君もかい?」

 そう言って、店主はリュイに視線を移した。

「はい。僕も魔力持ちです。リュイっていいます」

「リュイ君か。もしかして、最近噂になっていたレミナ先生のところにいた子かい?」

「はい、そうです」

「そうかそうか。君だったんだね、リュイ君」

 そう言いながら店主は優しい目でリュイを見ていた。

「おじいさん、今日お店は営業していますか?」

「ああ、今開けるところだよ。今日は誰がお客さんかな?」

「俺だ、よろしくな!」

 ヘランはそう言って、店主に手を差し出した。店主は差し出された手を握り、ヘランを見上げる。


「君は背が高いね。そのもさもさした髪はどれくらい切っていないんだい?」

「いや―、時間に疎くてな。覚えていないんだ」

「そうかそうか。まあ、三人ともどうぞ中へ」

 私たちは案内された店内に入り、並べられた椅子に腰かけた。棚や壁には他国の本やどこかの写真、絵画などが飾られている。リュイは興味深そうにそれらを見ていた。私も本を手に取り、パラパラとページを捲る。


 しばらくして、奥から店主が出てきてヘランは奥の部屋に呼ばれた。どのくらいの時間が経ったのだろうか。しばらくして、足音が聞こえ私とリュイは顔を上げた。

 もさもさだった髪は整えられ、髪の下にあった良く知った顔が目に入る。彼の懐かしい赤い目がキラキラとこちらを見ていた。


「あら、髪が綺麗にまとまっているわね」

「おう! あの爺さん腕が良いな!」

「久しぶりにあなたの顔を見たわ」

「俺もまだまだ変わらないだろう?」

 私たちがそう話していると、リュイが少し興奮したようにヘランに声をかけた。


「ヘランさん、格好いいです!」

「リュイは俺のこと良く分かっているな! サラ、リュイは良い子だな!」

「リュイ、褒め過ぎるとヘランは調子に乗るわよ?」

「いえ、本当に格好いいですよ。ヘランさんは、さわやかな顔立ちだったんですね。僕はおじさんのような見た目を想像していたので、とても驚きました!」

 その言葉に、私はクスクスと笑いが零れた。

「ふふっ、おじさんって……」

「リュイの中で俺はどういう立ち位置だったんだ?」


「えっと……僕何か変なこと言いましたか?」

「いいや、いいんだ。リュイありがとうな」

 ヘランが、そう言いながらリュイの髪の毛を撫でる。私たちは店主に代金を支払い、店の外に出た。時間はお昼前と言ったところだろうか。


 ヘランは街中で、食べ物や服など色々と買って袋に詰めていく。その様子を私とリュイは、店で買った飲み物を飲みながら眺めていた。

 しばらくして、手を振りながらヘランは私たちを呼んだ。

「色々世話になったな。今からまた別の地域に移動するから挨拶だけしようと思ってな」

「あら、もう行くの?」

「ヘランさん、行っちゃうんですか?」

 私とリュイの言葉が重なる。


「ああ、色々と見てまわりたいんだ。また会おうな」

「はい。寂しいですが、また会えるなら待ってますね。次会う時は、今より大きくなっておもてなしします」

 リュイはそう言いながら、ヘランに手を差し出した。ヘランはその小さな手を握り、ニカっと笑う。

「じゃあまたな! リュイ、サラ!」


 そう言いながら、街から遠ざかっていくヘランを私たちは手を振りながら見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ