魔法の属性
花の季節の穏やかな風に吹かれ、私が乗る葉はリュイとレミナが待つ街へ無事につくことが出来た。乗っていた葉は元の大きさに戻り、風に吹かれて何処かへ消えていった。
私は少し早足でレミナの家に向かった。レミナの家のドアは夕方の淡い光に包まれている。
「レミナ?」
ドアを開け、誰もいない部屋に向かって言葉を零す。奥のほうからガタガタと音が聞こえ、部屋の隅にある棚が動いた。
「サラ、遅かったじゃない! リュイは良い子で待っていたわよ」
「レミナ、リュイのこと見ていてくれてありがとう。今そっちに行くわね」
私は棚の奥に続く部屋に入り、ソファに寝ているリュイを見つけた。
「リュイは寝ているの?」
「そうよ。少し魔力を使わせちゃったから疲れたのかも……。もうすぐ起きると思うわ」
「魔力って何をさせたの?」
「え、待ってサラ怒っているの? 違うわよ? リュイの魔力の属性を調べたのよ」
レミナが少し大きな声でそう言うと、リュイの目がゆっくりと開いた。
「リュイ?起きた?」
「あれ、サラ……帰ってきたんですね!」
そう言うと、リュイは勢いよくソファから身体を起こした。
「リュイ、体調は大丈夫?」
「あ、レミナ先生……はい、大丈夫です。僕、いつの間にか寝てしまっていたんですね」
「ごめんね、リュイ。まだ魔力使うことに慣れていなかったのに」
「いえ、これからこういうことにも慣れないといけないと思っていたんです。大丈夫ですよ?」
私はレミナのほうをじっと見つめる。怒ってはいないのだけれど、慌てているレミナは久しぶりに見るのでなんだか少し面白く感じた。
「ね! サラ、この通りリュイは無事よ!」
「分かっているわよ。慌てているレミナを少し観察していただけよ」
「サラの方こそ、そんな風に笑うのは久しぶりね」
「お互い様ね」
そう言って笑い合う私たちを、リュイは不思議そうな表情で見ていた。
帰宅の準備をして、私たちはレミナに見送られながら夜になった街を後にした。街を出てからすぐ、私はリュイにレミナと過ごした時間の事について聞いた。
「リュイ、レミナから聞いたのだけれど今日は魔力を使ったの?」
「はい。えっと、僕の魔力の属性を知りたかったらしくて……見たことがない不思議な道具に手をかざしました」
「もしかして、木でできた少し複雑な構造をした道具じゃない?」
「はい! 多分サラが考えている道具で合っていると思います」
リュイが見た道具は、おそらくかなり昔からある魔力を測定したり属性を調べたり……他にも色々な事を調べることが出来る道具の一つだろう。レミナがそれを持っていることを私は知らなかった。
ということは、ここ最近手に入れたのだろう。
「レミナ先生は風、サラは花ですよね?」
「そうね。リュイはどうだったの?」
「僕は火と光に少し反応が出たようです。レミナ先生は、僕がまだ子供なのと魔力を使い慣れていないから反応が弱いんだろうと言っていました」
「まあ、そうね。リュイはまだ基礎を覚えて日が浅いし仕方がないのかもしれないわ」
リュイの言葉に、私は少し考えた。私が思うに、リュイは光の属性に傾いているような気がしている。光の属性の魔力を持つ人たちは、優しくて明るい人が多い。
それに私が昔読んだ本に、光の属性の魔力を持つ者の中には瞳が金に輝く者がいると書かれていた。リュイの瞳は金ではないがそれに近い色合いである。
そんなことを考えていると、リュイが心配そうな表情で私の顔を覗き込んできた。
「サラは大丈夫でしたか? 少し疲れているように見えます」
「そうね。ルカ……局長様と話をするのはとても疲れるわね。でもリュイの笑った顔を見たら、なんだか気持ちが軽くなる気がするわ」
私がそう言うと、リュイは少し照れたように笑っていた。
「あっ! サラ家が見えてきましたよ!」
リュイは走り出し玄関のドアの前止まってこちらを見ていた。私も急いでリュイの元へ駆け寄った。
「えへへ、サラおかえりなさい」
「ただいま、リュイ」
家のドアの鍵を開け、まだ暗い室内に光を飛ばし明かりをつけた。長かった一日を終え、私たちは住み慣れた家に戻って休息をとった。
リュイが部屋に戻った後、私は暖かい飲み物を準備し椅子に座る。ルカから渡された依頼に目を通す。何年前か何十年前かそのくらい前は、彼に様などつけていなかったなとそんなことを考えていた。