中央魔法局へ行く前に
何日か過ぎた暖かな日の朝、私は中央魔法局から依頼されていた魔法薬を作り終えた。合間にはリュイに基本的な魔法を教えていたので、いつもより少し遅れたが期限内なので彼らは何も言わないだろう。
「それにしても、量が多かったわ。中央の地域は薬が必要な人が大勢いるのかしら」
私は、最近図書館へ行っていないため他の地域の情報は耳に入っていなかった。他の地域で何も起きていなければいいけれどとそんなことを考える。
「サラ、おはようございます。今日は早いですね」
二階からリュイが目元を手でこすりながら、階段を下りてくる。リュイはすっかりこの家や村にも馴染み、最近はニコニコと色々な人と触れ合っていることを見かけることが多くなっていた。
「おはよう、リュイ。今日は魔法薬の最終確認があったから、早く起きていたの。もしかして起こしてしまったかしら?」
「いいえ。僕は今起きたところですよ。窓から日が差し込んでいたので、眩しくて起きちゃいました」
リュイはそう言うと、あははと照れながら笑っている。
「リュイ、今日はこの魔法薬を中央魔法局に持っていくのだけれどあなたはどうする? 途中街に寄って、図書館にも寄ろうと思っているのだけれど……」
「図書館ですか! そうですね、新しい本も借りて読んでみたいですし……僕もついて行ってもいいでしょうか?」
「もちろんよ。でも街までは徒歩になるけれど大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」
そう言うとリュイは、支度をすると言って一旦部屋に戻った。私はその間に、朝食を準備してリュイが下りてくるのを待った。
パタパタと着替えたリュイが、借りていた本を持って降りてきた。そして玄関の棚にそれを置くと朝食を摂るために席につく。
「じゃあ、頂きましょうか」
「はい! サラ、朝食を作ってくれてありがとうございます!」
そうして、朝食を食べ後片付けまで終えると二人そろって玄関に向かった。ドアを閉め、街に向かう。
花の季節の暖かな風が背中を押すように、ふわりと後ろから吹いた。
「サラちゃん、おはよう! リュイも元気そうだな!」
「サラさん、今日はうちにも寄っていきなよ!」
「サラさん、リュイ君。おはよう~」
街の人たちは、朝から活気があり元気な声で私たちに話かけてくれた。
「この街の人たちはみんな優しくて元気ですね!」
リュイはニコニコと笑いながら、私にそう言った。
「そうね。ここの人たちは昔から私やレミナを受け入れてくれていたわ」
「そうなんですね! ……あっ図書館が見えてきました!」
リュイは図書館が見えると、扉まで走っていった。図書館の扉の前に立ち、こちらを見ている。どうしたのかと私はリュイに声をかけた。
「リュイ? どうしたの?」
「あの! 僕が扉を開けても良いですか?」
その言葉に私はクスクスと笑う。リュイは少し頬を膨らませて、少し拗ねたような表情になった。
「笑うなんてひどいです! 少し気分が上がってはしゃいでしまったくらいで……」
「あら、良いのよ? だってリュイはまだ子供じゃない?」
「子供でも、笑われたら少しは拗ねるんですよ!」
そうやり取りをしているうちに、私はリュイの横に立った。
「開けないの?」
「開けます!」
リュイはそう言うと、見た目がかなり重そうな図書館の扉を軽く押して開けて見せた。扉を開けた瞬間のリュイは、照れたような少し歯を食いしばったようなそんな表情だった。
図書館の中に入ると、管理人が入口の近くで本の整理をしていた。彼女は私たちに気付き、挨拶をする。私たちも彼女に軽く頭を下げ、基本的な魔法が載った本のある棚のほうに向かった。
「リュイ、返したい本はここに入れるのよ」
私は通路の途中にある箱を指さし、リュイに教えた。
「そうなんですね。よっと……」
リュイは重そうな本を、その箱の中に入れていった。入れた本は最初からそこにあったように、本棚へと戻り並んでいる。
その光景を見たリュイは。目をキラキラと輝かせているように見えた。
リュイが新しい本を数冊選んでいる間、私は最近の出来事をまとめた書類に目を通していた。中央の地域では、特に変わったことはないようだった。だったらあの魔法薬はどこで使われるのだろう……そう考えていると、後ろからリュイが私を呼ぶ声が聞こえた。
「サラ、本は選び終わりました」
「あら、もういいの?」
「はい。少しずつ読んでいこうかと思って」
「なら、外に出ましょうか」
私たちは、管理人に挨拶をして図書館から外に出た。扉を開け外に出ると、視線の先にレミナが歩いているのが見えた。
「レミナ先生!」
リュイがそう言うと、レミナもこちらに気付いたようで私たちのほうに振り返った。
「あら! サラとリュイじゃない! 久しぶりね」
「こんにちは、レミナ先生!」
「こんにちは、リュイ。サラも元気?」
「ええ、元気よ。……レミナ、リュイのこと少し見ていてくれないかしら?」
「いいけど、何か用事でもあるの?」
「今日は中央魔法局に魔法薬を届けないといけないの。あそこはリュイに悪影響を与えそうでしょう?」
「そうね……。確かに子供が行く場所には少し早いかもね」
そんな私たちの会話をリュイは不思議そうに見つめていた。リュイは見た目よりも賢いので、内容は理解しているはずだ。
「リュイ。このあと少しレミナと一緒にいてくれないかしら?」
「はい。分かりました」
レミナはその様子を見て、ニコニコと笑っている。
「じゃあリュイ、この後は私と買い物でもしてサラの帰りを待ちましょうね」
「はい! レミナ先生、よろしくお願いします!」
リュイは元気な声でそう言い、レミナと一緒に中央魔法局へ行く私を見送ってくれた。