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サラの魔法

 リュイに基本的な魔力についての知識がついて三日ほど経った頃、私にある依頼の知らせが届いた。依頼人はこの村の住人だった。私は依頼の書かれた手紙を読みながら、身支度を整える。花の季節では珍しく、雨の降る朝だった。キラキラと光る雨粒は庭の草花たちに生きるための水を与えていた。

「依頼として希望してくれたのだから、応えないとね……」

 私はそう呟き、部屋から出た。

「サラ、おはようございます!」

 リュイは部屋から出た私に気付くと、調理の手を止め振り返った。

「おはよう。リュイ」

「今日は僕が朝食を作ってみました。サラの分も準備してます! 食べますか?」

「ええ、頂くわ。ありがとう」

 私の言葉にリュイはえへへと少し照れたようだった。その様子を見ながら、私は今回の依頼についてリュイに話すか迷っていた。


「出来ました!食べましょう!」

「美味しそうね」

 私たちは朝食を口に運び、静かに食べ進めていた。その途中、私はリュイに依頼の事を伝えようと、スプーンを机の上に置いた。


「リュイ、少し話したいことがあるのだけれどいいかしら?」

「……?大丈夫ですよ。何かありましたか?」

「リュイに見せておくべきか迷っている魔法があるの」

「どういった内容でしょうか……」

 私は自分の特殊な魔法である、人間の命を花に変える魔法について両親のことを含めリュイに話した。リュイは真面目な表情で話を聞いてくれた。


「つまり、今回の依頼でこの村の人を花に変えるということですか?」

「そうね。よく食べ物をお裾分けしてくれるおばさんがいたのだけれど、その旦那さんがもう長くないらしいの。それで、私に最後を看取って欲しいと手紙が届いたわ」

「サラはその場に僕を連れていくか悩んでいたんですね……」

 私は小さく頷いた。リュイはしっかりしているがまだ子供なのだ。精神的に辛い経験になってしまうかもしれないとそう思った。


「僕は大丈夫ですよ。昔いたところは、暑い日差しの中倒れてもそのままで放置されていました。そういうのを見てきているので、僕は大丈夫です」

 その言葉に私が視線をリュイに向けると、悲しそうな笑顔がこちらを見つめていた。

「放置されるより、綺麗な花になった方が幸せなんじゃないでしょうか? と言ってもこれは僕の考えなので普通とは少しずれているかもしれません。でも僕は、自分からそう望んだ最期をこの村の一員としてサラと見送りたいです」

「リュイがそういうのなら、今日の午後その家に一緒に行きましょう」

「はい」

 リュイは少し寂しそうなでも温かい笑顔でそう返事をした。

 朝食を終え、椅子に座り本を読むリュイを気にかけながら朝食の後片付けをした。午後までの時間はあっという間に過ぎていく。いつの間にか外の雨は上がり、庭の草花たちはキラキラと雨粒を輝かせていた。


 午後になり、私とリュイは依頼人であるチェリさんの家まで歩いていった。雨上がりということもあり、あちらこちらに水たまりがありどれも太陽に照らされて輝いていた。依頼人のドアを叩き、声をかける。

「サラです。手紙を受け取りました」

「あら、来てくれたのね。嬉しいわ。リュイ君もいらっしゃい」

「こんにちは」

 私の横にいたリュイは、丁寧に頭を下げた。


「サラさん来てすぐなんだけれど、もう時間がないと思うの。あの人の願いを叶えてやってくれないかい?」

 そういうと彼女は私たちを奥の部屋に案内した。そこには大きめのベッドがあり、瘦せ細った彼女の旦那さんが苦しそうに息をしていた。


「彼女からお話は伺っています。花の中で最期を迎えることを希望されますか?」

 彼は小さく頷き、苦しそうな息のまま小さな声で返事をした。

「はい。よろしくお願いします」

 リュイはチェリさんと一緒にこちらを見ていた。私はその視線を確認しつつ、彼女の旦那さんの胸に手をあてる。手に魔力を込めると、あたりがふわりと光に包まれた。


 彼の身体は花びらが待っている中、段々と花になっていく。最後の花が生み出される前に彼の最期の言葉が部屋の中に響いた。

「幸せだった。ありがとう」

 その言葉に、チェリさんは泣き崩れリュイは彼女と共に泣いていた。


「こちらをどうぞ」

 私は彼の身体から生まれた花を花束にまとめて、チェリさんに渡した。彼女は私たちに少し悲しそうな笑顔で感謝を伝え、家の中に戻っていった。それを見送り、私たちも家に戻る。

「リュイ、大丈夫?」

「大丈夫です。それに、彼は最期とても幸せそうでした。サラはやっぱり凄い魔女です」

「凄くはないのよ……。私が偶然この力を持っていただけ」

「でも、その偶然を他人の幸せのために使えることは凄いです」

 涙を拭いながら、リュイはそう言った。それから数時間、温かい飲み物を用意してリュイの気持ちが落ち着くまでゆっくりと過ごした。

 私はこの魔法を本当に必要としてくれている人たちにしかもう使わないと、心に決めている。花から生まれた魔女の中でも、ごく一部……もしかしたら今は私だけかもしれないこの魔法を私は誰かに伝えることは決してないだろう。

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