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彼女を愛したい公爵子息

作者: 堕多雫

「勘違いなさらないで、別に異性として愛して下さらなくてもいいの。家族愛でも友愛でもいい。側室を作ってくださっても構わないわ。ただ一つ最も愛する人と同じ量、愛してくださればいいの。」


あっけらかんとした様子でとんでもないことを言った彼女に目を見開く。

そして同時に主の言わんとしたことがわかった。


(これが彼女の欠点か)



婚約が決まる数ヶ月前、主である王太子に呼ばれ執務室に向かったリアムは疑問に首を捻らせることとなった。


「リアム、ミア=ランセル嬢と結婚してくれないか」


「…殿下、今なんと」


「すまない。日々令嬢たちの相手に辟易しているお前に無理やり結婚を勧めたくなかったのだが、そうもいかなくなった」


次期国王として申し分ない聡明さを持ち、部下である者にも尊敬される彼。そんな王太子が頭を悩ませている問題を自分が結婚することで解決できるのなら、断る選択肢はなかった。


「リアム、これは機密だ。王家の中でも知っている者は少ない。」


ミア=ランセル。ランセル伯爵家の一人娘であり、跡取り。両親にはそれぞれ愛人がいるが後継者争いが起きている様子もなく、ここまではいたって普通の貴族だ。


だが、ランセル家にはある遺伝があった。


「ランセル伯爵家は、正確に言うとランセル家の女性にはある能力が備わっているんだ」


「能力…?」


「彼女たちは人の感情が読めるのだ」


ランセル家の祖先は異国の巫女の血が入っており、その能力が判明したのは数世代前に遡る。

昔、王家に嫁ぐ令嬢に仕えていたランセル家の女性はある時使用人に紛れていた暗殺者から令嬢の命を救った。暗殺者は殺気を隠すように訓練している。更に次期王太子妃を狙ったことからその暗殺者はかなりの腕であった。

だが、ランセル家出身の侍女は誰も気が付かなかったその殺気を読み取ったのだ。


「研究によると心を読むこととは違うらしい。読心術のより、より正確に確実に対象の感じている感情を全て読みとることができる」


「それは、むしろ王家が欲しい人材では?」


「全てのランセル家の女性がそうではないのだ。そして能力持ちの女性にはそれぞれ欠点がある」


強い力には必ず代償がある。その証拠に能力を持って生まれた彼女たちには様々な欠点があった。


「ミア=ランセル嬢の曾祖母も能力持ちだった。しかし彼女は家の中もまともに歩けないほど病弱だったそうだ」


「身体の異常だけですか?」


「曾祖母はな。祖先には精神の年齢が幼かったり、記憶力が異常に乏しかったり、身体のどこかが欠損していたりとその全てが女性でランセル家の能力を持っていた」


「欠点があれど、彼女たちの能力は得がたいものだ。王家も側室としてランセル家の令嬢を迎え入れたことがある。だがその側室の産んだ娘の欠点は倫理観が欠如していることにあった」


「そのような話、聞いたことありません」


「当たり前だ、醜聞だぞ。生き物を平気で殺す王女を表に出すわけにはいかない」


ここまで聞くとリアムは王太子が苦悩している理由がわかった。

ランセル家の能力も欠点も間違っても他国に渡すわけにはいかない。だが、放っておくには問題がある。滅ぼすにはその能力は惜しい。

なるほど、頭を抱えるのもわかる。


「…もしや殿下、そのミア嬢も能力持ちなのですか?」


「おそらく、だが確信に近い」


下手に家格の低い貴族と婚姻を結ばせると、欠点を隠せるかわからず、平民にまでいってしまえば王家がランセルの血筋を辿れなくなる。だが王家の場合は醜聞になってしまう恐れがあり、政略結婚として他国へ嫁がされることなど珍しくもない。

飼い殺しのような状況のランセル家は近親婚が続き、子も生まれにくくなってしまった。


「能力者の可能性が高い以上、管理下に置いておきたい。だが私が娶るわけにはいかない」


「それで、私ですか」


「そうだ、信頼する忠臣のお前に任せたい」


婚約者を作らずにいたつけがここに来るとは。だが親友である彼の頼みだ、それに機密を聞いて断るということは許されないだろう。


「それで、彼女の欠点とはなんなのでしょうか」


「わからない。パーティーで見る限り、身体の欠点ではなさそうだ」


「それでは何故能力者であると?」


「ある詐欺師を捕まえたという事件があっただろう」


「たしか…未亡人に取り入ってパーティーに参加している貴族を対象に詐欺を働いていたという。実に巧妙で証拠を残さないため、今の今まで捕まえることができなかった男ですね」


「その逮捕に一役買ったのが彼女なのだ」



『ねぇ、貴方。騙そうと思っているでしょう?』


優越感、怒り、怯え。彼女は読み取った感情をそのまま口にし、最終的にはその詐欺師の知られたくない過去までたどり着いた。

自分の頭を覗かれているような恐怖は言葉には言い表せない。一種の拷問だ。


「一度、彼女と会ってみるといい。情報も渡す」



王太子からもらった資料を見ると、彼女は意外にも人助けをしていた。飲み物をかけられそうになった令嬢に話しかけたり、タチの悪い貴族の矛先を別に向けたりとなんとも自由気ままにパーティーに参加していた。

デビュタントから自分磨きに余念がなく、一見欠点はないように思える。唯一気になる点を言えば、先日聞いた彼女の詐欺師への態度だ。まるで他人にあまり関心がないような。


リアムはミアに興味、好奇心を抱いた。



(まさか、側室を勧められるとは)


愛への異常な執着。彼女は人の感情が読み取れるこそ、他人の愛には期待できなかったのだろう。結果、自分で自分を愛することにした。そう考えれば自分磨きに余念がないのも頷ける。

そして自分を愛することに夢中な彼女は他人に関心を向けることがなくなった。


さて、どう答えるべきか。

口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返しまずは確実なことを言った。


「…とりあえず、側室は作りません」


「まあ、私との間に子が産まれなかったらどういたしますの?」


「弟もいますので!親戚もおりますし、養子にすればいいです!」


どんだけ、自分に興味がないのだ。

自分に好意を抱いていない女性は多々いたが、ここまでの無関心は初めてである。


「そうですか、わかりました。ところで先程の質問は」


無垢な表情でこちらを見つめるミア。他人の感情が読み取れるなかでこのような顔ができるのは、無関心さ故だろう。


ふと、リアムは彼女を愛してみたいと思った。これは紛れもなく政略結婚。だがもし彼女の愛の器が自分の愛で満たされたのであれば、彼女はどんな顔をするだろう。


「…ええ、愛します。愛してみせます」


決意に溢れたリアムの顔を見たミアはきょとんと小首を傾げたが、やがて満足気に微笑んだ。


「それはとても嬉しいですわ」


ランセル家の能力は情報操作により、飼い殺しのために家族であっても知る人は限られました。

見た目でわかる能力でもなかったので本人でさえ、少し感が良いだけだと気づかなかった場合がありました。

また気づかなかった場合、能力を持っている本人が悪用しないよう、能力持ちであることを秘匿されています。

特殊な家のため、監視対象です。


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