#1-06 転入生//第6話
――――キーンコーンカーンコーン…………
「それでは、ここまでとします。次回までに復習をしておくこと。委員長、号令を。」
「起立、礼、ありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
委員長の好昇さんに続いてみんな声を揃える。
大きな声だったが、疲れたのはみんな同じなようで元気が感じられない。
かくゆう私もそれは同じで、号令が終わった途端また椅子に座り、ノート達を片付けることもせず机に顔を伏せた。
…………つ、疲れた…………。
私の記念すべき(?)芸能科の授業1日目。
今4時間目が終わったところだ。
今日これまでの時間割はこう。
1時間目:数学A
2時間目:言語文化
3時間目:ダンス
4時間目:声楽
1、2時間目はまだよかった。知っている授業だから。
芸能科は普通の授業に加えて芸能関係の授業もあるので、その分授業スピードが速い。
普通科では成績が中の下だった私には、この先ちゃんとついていけるか不安だ。
それよりも問題は3、4時間目だ。
ダンス?声楽?無理、意味不明。
専門用語なのであろう聞いたことのない単語だらけで、まったく意味が分からなかった。
ただひたすらに板書をノートに写してただけだった。
それでも、実技じゃないだけまだましだったのかもしれない。
実技はもう絶対できない。
「わーい!みなみん、昼休みだよ!お腹すいたー。……ってみなみん?どうしたの?」
私とは正反対で疲労のかけらも見えない元気な直輝がぽんぽんと軽く私の頭を叩く。
痛くはないけど恥ずかしいからやめてほしい。
「ちょっとなおくん!みなみんがやめてほしがってると思うわよ。みんながみんななおくんくらい元気なわけじゃないんだから。」
直輝の手が離れたので少し顔を上げると、くるみんが直輝の手首を掴んでいた。
口調こそ注意している大人のようだが、可愛らしい顔に浮かんでいるのは楽しそうな笑みだ。
『みんながみんな直輝のくらい元気なわけじゃない』と言っているが、くるみんもかなり元気そう。
……二人とも、体力あるな……。
「そっか。ごめんね、慣れない授業ばっかりで疲れちゃうよね。でも大丈夫!!すぐ慣れたから!」
自分のことのように得意気に言う直輝。
なんで自分のことのように言えるんだろうと思ったけど、実際に自分のことなのかな。
きっと自分が1年生だったときのことを言っているのだろう。
「気陽さん、適応力も人それぞれよ……。」
苦笑しながらやってきたのは好昇さん。
ようやく少し落ち着いてきた私が顔を上げると、好昇さんが「大丈夫?」と笑いかけてくれた。
「因みに、明日の3時間目は演技の実技があるわよ?」
うわ……。
あからさまに顔を顰める私を見て、くるみんと直輝がぷっと噴き出す。
こんなに嫌だという気持ちを表に出したのは久しぶりな気がする。
「まあ、頑張ってね。」
「明日のことより今のこと!みなみん、お昼食べに行こう!」
ぱんっと手を叩いて分かり易く話題を変えた直輝は、わくわくしたように言った。
……あ。
お昼ご飯のこと、忘れてた……。
普段は自分で作ったお弁当を持っていくのだが、今日はお弁当を作っていないし、コンビニで買ったりもしてない。
お金はあるけど、購買ってあるかな?
普通科にもあったし、天下の芸能科にもある……よね?
「山田さんはまだなにも分からないでしょうし、学食に連れて行ってあげて。校内の案内も宜しくね。」
「分かった!どうせおれも学食で食べるしね~。くるみんは今日もお弁当?」
「ええ!学食に持っていって食べましょう!」
そういうとくるみんは一度自分の席に戻って可愛らしい小花柄のお弁当包みを持ってくる。
可愛い包みだなー女子力高!
私はそんなに可愛いお弁当包み持ってない。
まあ、持っていたところで私には似合わな過ぎて使わないけど。
「うん!いこー。今日は何食べようかな?大盛り塩ラーメンか、大盛り味噌ラーメンか、大盛り醬油ラーメンか……。」
楽しそうに直輝が呟いている。
何故候補が全部大盛りラーメン?
「気陽さん、自分のお昼も重要でしょうけど、ちゃんと山田さんを案内してね?」
「分かってる分かってる♪俺にはくるみんもついてるから大丈夫~。」
「もう、なおくんは人任せなんだから。」
困ったように眉を下げて言うと、くるみんは嬉しそうに笑った。
なんか、くるみんと直輝はカレカノとか新婚夫婦に見えたけど、姉弟にも見えるな……。
お姉ちゃんに頼ってばかりの弟と、頼られることが嬉しい姉――みたいな。
「さ、みなみん、はやく学食いこー!案内もしないとだし、ご飯も食べなきゃだし!」
直輝は私の手を掴み、教室の外に走り出そうとする。
「ちょっと待ちなさい気陽さん!」
そんな直輝を好昇さんが止めると、直輝は不思議そうに首を傾げた。
好昇さんは呆れたように肩を竦める。
「……まずは机の上を片付ける時間をあげなさいよ。」
「あ……。ごめーん。」
直輝は指で頬を掻きながら笑った。
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