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#1-04 転入生//第4話

 ぴょこぴょこと跳ねた短い緋色の髪。

 ほんのりと紅潮した健康色の頬。

 星屑を散りばめたようにキラキラとしている、明るい陽光のような黄色い瞳。

 ボタンを開けた制服のブレザーの下に不言色のパーカーを着ている。


 人懐っこい笑みを浮かべた美少年は、真っ直ぐに私を見ると、その瞳を更に輝かせた。


「ずっと待ってたんだよ、みなみん!!よーこそ芸能科2年A組へ!」


 ニカッと笑って少年は両手を大きく広げ、飛びついて来る――――直前でピタリと静止した。

 正確には、後ろにいる1人の少女によって静止させられた。


 女の子らしいふわふわしたピンクのリボンでツインテールにした、ふんわりとした栗色の髪。

 ぱっちりとした萩色の瞳を縁取るくるんとカールした睫毛。

 平均的な私よりも低い身長。

 ブレザーの下には、可愛らしい淡紅色のセーターを着ている。

 女の子のお人形のように整った顔立ちの可愛らしい少女は、華奢な手で少年のフードを掴んでいた。


「もーっ、なおくん!だれふり構わずハグしちゃだめって言ってるでしょ?」


「あはは……。ごめんくるみん。」


 軽く頬を膨らませて言う少女に少年は苦笑して謝る。

 少女は私を見ると、にっこりと笑った。


「はじめまして!山田未無未ちゃん……よね?わたしは“RePeat's(リピーツ)”の関 繰来(せき くるみ)。見たことないと思うけど、一応アイドルなの。なおくんもわたしも、あなたに会えるのを楽しみにしてたわ!」


 さすがアイドル!って感じの極上のスマイルを浮かべて少女――――関さんは言った。

 可愛いな……。これがアイドルスマイルというやつか。

 関さんは隣に並んだ少年に「ほら、なおくんも自己紹介して?」と囁く。


「ホントだ!自己紹介、忘れてたー。おれは”RePeat's”の気陽 直輝(きよう なおき)!くるみんと同じユニットのアイドルなんだ~。直輝って呼んで!あだ名があれば、そっちの方が面白くていいけど!」


 キラキラ笑顔でハイテンションな自己紹介。

 関さんには「自己紹介を忘れるなんて、アイドルなのにだめでしょ~?」と突っ込まれている。


「わたしは“くるみん”って呼んでほしいわ。仲良くしましょ!」


「仲良くしようねみなみん!!」


 愛想よく笑って言う関さん――――くるみんと心から嬉しそうに笑って言う少年――――直輝。

 2人とも裏はなさそうで、心から私を歓迎してくれているように見えた。


 ところでみなみんとは、私のことだろうか?


「席に案内するよ!こっちこっち、おれの後ろの席だよ~!」


 直輝は私の手を引いて、窓際の後ろから2番目の席に案内してくれる。

 なんたる偶然。普通科の時と同じ席。

 直輝は私の前の席に座り、くるみんは直輝の隣に座る。


「わたしは斜め前なの!なおくんはもうみなみんって呼んでるけど、やじゃない?よかったらわたしもみなみんって呼ばせてほしいのだけど…………。」


 別に嫌ではない。

 あだ名で呼ばれるの初めてだからびっくりはしたけど。(しかも初対面)


「ありがとう。宜しくね、みなみん!わたしは“くるみん”で、みなみんは“みなみん”だからお揃いね!」


 私が頷くとくるみんは嬉しそうに言った。

 そんなくるみんの発言に直輝は唇を尖らせる。


「2人だけお揃いずるいよー。おれもなおみんとかにしようかな……?」


「“なおみん”だと“なおき”じゃなくて“なおみ”みたいよ、なおくん……。」


 漫才のような仲のいい2人のやり取りに、思わず少し笑みが零れてしまう。

 やばい。失礼になったかも…………?

 せっかく仲良くしようとしてくれたのに…………。


 直輝とくるみんが一斉に私の方を見る。

 そして、同時にぷっと吹き出した。


「あははっ……。やっと笑ってくれたね、みなみん!」


 …………え?

 楽しそうに、面白そうにキラキラとした笑顔で直輝は言った。


「わたし達ね、“ミラクルスター発見スカウト”見て、なんとなくみなみんとは仲良くなれそうな気がしたの。『あの子と同じクラスになれるかな?』『あの子に会ったら絶対話しかけよう!』って勝手に盛り上がって、今日を楽しみにしてみなみんを待ってたのよ。」


 少し照れたように、それでも嬉しそうに笑いながらくるみんは打ち明けてくれた。

 私を、待ってた?

 私なんかとは次元の違う、キラキラした、大衆の憧れの的のような2人が?


「でもね、みなみん、ずっと表情がぎこちなくて、何かを怖がってるみたいに見えたから…………。『あれ?もしかしておれ達と話すの嫌かな?』とか思えてきて…………。」


 ずっと笑顔だった直輝の表情が曇る。

 でもそれも一瞬で、すぐに明るい太陽のような笑顔になった。


「でも今、みなみんは笑ってくれた!楽しそうに、嬉しそうに!」


「クラスメイト1人笑顔にできないだなんて、アイドル失格だもの!でもね――――。」


 くるみんの言葉の続きを、2人は息ぴったりに口にした。


「「友達1人笑顔にできないだなんて、もっとアイドル失格でしょ!!」」


 裏も表もない、ありのままのその言葉は私の心の奥まで響くようだった。

 きっと、2人の心の奥からくる言葉だから、私の心の奥まで届くのだろう。

 心に心地よく言葉が突き刺さるような、不思議な感覚……。


「あれ?勝手に言っちゃったけど、おれ達と友達になる……ってことでいいよね?」


 少し不安そうに、控えめに私に問うてくる。

 誰かの気分を害さないように、無害な空気のように振る舞っていた私の態度が、逆に2人を不安にさせていた。

 それはつまり、私の存在を認識し、2人が“山田 未無未”という人間と向き合おうと思ってくれているということの、他でもない証拠だと思う。


 別に疑う訳じゃない。でも、やっぱり私も何処かで不安に思っていたんだ。

 転入生だから興味をもっただけで、きっとすぐに飽きてしまう。

 心の何処かでそう思っていたのかもしれない。


 ――――でも、違う。

 この2人は、他でもない“山田 未無未”と仲良くなりたいと思ってくれたんだ。

 他の誰でもない、空気でもない、もし新入生じゃなくても、人間の私と。


 他の人には当たり前なのかもしれないその事実が、私には物凄く嬉しかった。


 私は大きく頷いた。しかも何度も。

 ほとんど使われず、弱りきった声帯からでる細い声よりも、こっちの方がちゃんと伝わるように思えた。


 一般的には小さな、でも私にとっては大きな“答え”の意思表示はちゃんと2人に伝わったようだ。

 2人は「「宜しくね!!」」とキラキラの笑顔を浮かべ、大きく頷いた。

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