#1-03 転入生//第3話
長身の先輩が見えなくなったのを確認してから歩き出す。
広い運動場。
綺麗な桜並木。
広場に噴水。
凄く綺麗な景観だ。
学校というより、大きな公園みたい。
キョロキョロと周りを見回す。
やはり美男美女だらけ。
うわー私場違い。
「わー!綺麗な桜だね。」
「昨日も見たけどね。お花って毎日姿を変えるから、ずっと見ていたくなっちゃう。」
すぐ近くからそっくりな2つの声が聞こえた。
ほぼ無意識にそっちを見ると2人の女の子が桜の木を見ている。
緑がかった色のスカートだから、1年生。
サイドテールにした同じくらいの長さの黄褐色の髪に、一重梅色のぱっちりとした瞳。
声だけでなく、見た目もそっくりだ。
背丈も肩幅もほとんど同じ。
……双子かな?可愛い。
顔もそうだけど新入生らしい初々しい感じが可愛い。
まあ、私も芸能科1年生みたいなものだけど。
「お~ねぇだけいいなー。此処、桃の花もないかな?」
「ん~どうかな?中庭とか庭園もあるらしいし、そこにあるかもよ?また見に行ってみよう。」
「うん!」と元気よく頷くとそっくりな2人は校舎へ駆けていった。
…………仲良しなんだなぁ。微笑ましい。
「…………ねぇ、そこの転入生。」
少し和みながら2人の1年生を見ていると、まだ声変わりしていない高い男の子の声がきこえた。
転入生って、私?
まあ私しかいないか。
私が転入してくることをみんな知ってるって、嫌だなぁ。
無視する訳にも行かないので声の主を探してキョロキョロと辺りを見回す。
「んっふふ~♪探してるねー。でも、ボクは見つからないかなぁー?」
上から声が降ってきている気がする。
まさか、木の上!?
「違いまぁ~す。」
ばっと上を向くと煽るような声が帰ってきた。
じゃあ、何処にいるんだろう?
「キミ、2年でしょ?ボク、会いたい人がいるんだよね。」
キョロキョロと見回す私をほぼスルーして話を続ける。
「だけどその人、なかなか会えなくてさ。“魅琴”って人なんだけど。キミ、もし会ったらボクが会いたがってたって伝えてくれる?」
ほとんど分からないまま話が進められていく。
魅琴さん?誰?
「同じ2年だし、あの人もキミに興味があると思うから、捕まると思うよ~?……じゃ、宜しくね。」
一方的に告げると、それ以上声は聞こえなかった。
…………何だったんだろう?
よく分からないが、一応覚えておこう。
それから職員室で一通り説明を受け、やっと2年A組の教室前にたどり着いた。
敷地も校舎も広いから、凄く大変だった。
廊下を歩いてたら、発声練習とか歌の練習とかしてる生徒が沢山いて、芸能科って感じがした。
生徒も教師もなんかキラキラしてる。
『此処は確かに芸能科だけど、ほとんど名ばかりだよ。実際は8割以上の生徒がアイドル志望で、ほとんどアイドル科って感じになっちゃってる。』
さっき説明してくれた百鬼 神志先生はそう言っていた。
だからほとんど美男美女だったのか。
教師も元アイドルが多く、職員室も美男美女だらけだった。
現役アイドルもいたりするらしい。凄いな。
TVとかで見たことある人が多かったけど、百鬼先生は見たことがない。
少しキリッとしているが(さっきの先輩と違って)全く睨んでいるようには見えない墨色の瞳と同色の髪。
整った顔立ちの美男だが、少なくとも私が知ってるくらい有名な芸能人ではないはず。
普通科とあまり変わらない造りの、でもやっぱり少しお洒落なドアに手をかける。
…………急に緊張してきた。
入ったら、クラスの人達は楽しく思い思いに過ごしているだろうか?
きっと一斉に私を見るだろう。
その目は、その表情はどんなものだろうか?
想像しただけで怖い。
話しかけてくる人はいるだろうか?
場違いな私を嘲笑うだろうか?
善意で話しかけてくれる人はいるだろうか?
仲良くできるだろうか?
不安しかない。
でも、ずっと此処に立っている訳にもいかない。
仕方ないのでガラガラっと勢いよくドアを開けた。
――――――太陽だ――――――
ドアを開けるなり私に笑いかけてきた彼を見た時、ふとそう思った。
憂鬱な気分でやたら重く感じるドアを開けた先に、初めての日の光が差した。
何もかも分からぬ新しい場所で見つけた目印。
明るい雰囲気の少年は、人懐っこい笑みを浮かべて私を新しい世界に導いていく。
その眩しい程にキラキラした笑顔は、太陽そのものだった。
明るく暖かい、輝くような笑顔。
太陽に照らされて温まるように、その笑顔を見ているだけで、自然とこちらまで笑顔になってしまうような、元気をもらえるような笑顔。
何時か出会った少女は、こんな事を言っていた。
『“太陽のような人”とは、ただ明るい人を言うのではない。
太陽に照らされて私達が温まるように、月や星々が太陽の光を反射して輝くように。
自らだけでなく、周りの人達をも明るく輝かせてしまうような人。
そんな人の事を“太陽のような人”と言うのだと思う。』
と。
まさにその通りだ。
そして、彼はそんな人な気がする。
だって今、確かに私の心に温かい光が射したのだから――――――。
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