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#1-02 転入生//第2話

 それから、ちらほらと普通科の制服を着た人と遭遇したが、私はずっと下を向いて歩き続けた。


『自分の靴の爪先を描きなさい。』


 今そう言われたら、多分見本がなくてもスケッチくらい性格に描ける。

 それくらい、ずっと爪先だけを見ている。


 私の顔を見られたくなくて。

 冷たい視線を浴びたくなくて。

 悲しい現実から、目を背けたくて。

 ただただ、下だけを見て歩いた。


 住宅街を抜け、半分くらい散ってしまった桜の木が並ぶ桜並木を早足で通る。

 そして、やっと芸能科の校門の前にたどり着いた。


 その校門をみて唖然としてしまう。

 普通科のと同じデザインのお洒落な校門だが、大きさが比じゃない。

 おそらく外部から沢山人が来るイベントを行う事があるからだろう。

 私は勇気が出ず行ったことはないが、ハロウィンや七夕、バレンタイン等のイベントが有名だ。


 駅から此処までのほんの15分くらいが、途方もなく長く感じられた。

 芸能科と普通科の校門は別で反対方向にあるため、此処で普通科の生徒と会うことはない。

 ひとまず安全地帯(?)と言う訳だ。


「…………ねぇそこの(石ころ)、邪魔なんだけど?」


 ほっと息をついていると後ろからぽんと肩を叩かれる。

 ……前言撤回。

 この世に私にとっての安全地帯はなさそうだ。


「は?ねえ無視なの?え何無視なの?何様のつもりでその態度取ってるの?」


 とんとんとんと一定のペースで肩を叩く力がどんどん強くなっていく。

 明らかに機嫌の悪い相手の声に振り返る。


「……(石ころ)のせいで疲れたよ~。」


 怠そうに欠伸をしているのは、1人の男子だった。

 ――――凄く綺麗。背、高い――――

 白いブレザーを見るまでもなく、「絶対芸能人でしょ?」って感じの美形だが、一応服装を確認する。


 薄水色のシャツは上のボタンを鎖骨が見えるくらい開けていて、私物なのであろう指定の物とは違うデザインの黒いネクタイは締めてないんじゃないかというほど緩い。

 白いブレザーはボタンを閉めていない。

 学年カラーの星型のピンバッジはサファイアのような深い青色だから3年生、つまり先輩。


 背は190cm近くありそうで、見上げなければ顔が見えない。

 寝癖なのか所々跳ねた絹のような卯の花色の髪。

 鋭い深緋色の瞳は血のようで冷たい。


 冷たく鋭いガラスのような美形だ。

 目つきが鋭いから、睨んでいるように見える。


「ナンなの?人の顔じろじろ見て失礼な後輩(こーはい)だね。マジ不快~。」


 鋭い目が更に鋭く細くなる。

 本当に睨まれているようだ。


 怖いし相手は不快に思ったようなので慌てて1歩横にどき、頭を下げる。


「へぇ~。『ごめんなさい』はできるんだね。ま、今回は許してあげる。俺イケメンだから見とれちゃうのも無理ないしぃ?寛容な心の持ち主~♪あっはは……。」


 確かに美形だが、自分で自分のことを“イケメン”と言うとは。

 そんなに自分の容姿に自信があるのだろう。

 自分に自信があるのはいいことだ。私は全然だから、羨ましい。


 此処にはモデルやアイドル、あるいはそれを目指している生徒も多くいるはずだ。

 もちろんそんな人達は凄く顔が整っている。

 そんな環境で自らを“イケメン”と称するとは、凄い度胸だ。


「…………でも、」


 棒読みで笑っていた男子生徒はふっと真顔になる。

 ガラスのような冷たい表情にゾクリとした。


「もう二度と俺の道を妨げないで。……次はないから。」


 紅い瞳を鋭く光らせ言うと、「……そういうことだから。じゃあねぇ。」と欠伸をしながら校舎の方へ歩いて行った。


 …………何だったんだろう?


 嫌な絡まれ方した。

 何というか、野生猫のような人だった。

 まあ、今のは私が真ん中にいるのが悪いんだけど。


 まずは職員室に行かないと。

 どこだっけ?


 確認するためにスマホを取りだし来々星アプリを起動する。

 これは生徒にインストールが義務づけられた学園が運営するサイトアプリで、学園敷地内のマップやお知らせ行事予定等が見れる。

 宿題が配信されることもあるから毎日確認しなければならない。


 他にも生徒と教師しか見ることができない安心の“校内SNS”や、匿名で色々語れる“校内掲示板”などがあって結構面白い。


 …………あれ?


 ページが変わっていた。

 今までは紺色の夜空を背景に大きな星にメニューのようにリンクが並んでいた。

 だが今私のスマホ画面に表示されているのは夜空の紺色ではなく真っ白だ。


 絹のように真っ白な背景の両端に、プレゼントのように黒いリボンがかかっている。

 黒いリボンの縁には細かい白いレースと金のテープがついていて、よく見ると黒いリボンには複雑な模様が描かれている。

 黒いリボンから下がった大小様々な星と月のチャームは本物の金属のような光沢が表現されている。


 …………何か、めちゃくちゃ細かくてお洒落なサイトになってる!?


 左上の生徒名をみる。

 ちゃんと“山田未無未”だ。

 ん?

 “芸能科2年A組 山田未無未”?


 …………ああ、なるほど。

 芸能科に登録が変わったのか。

 サイトが芸能科用に変わったみたいだ。


 “校内〇〇”と言っても芸能科と普通科は別サイトになっていて、互いの書き込みは見ることができない。


 校舎、校門、校則共に全く違って、もはや別の学園。

 一部の行事を除き交流もほとんどない。


 よくよく考えてみれば普通科のページで芸能科のマップ見れないじゃん。

 切り替わっててよかった。

 ……まだ私クラス聞いてないのに2-Aって書いてある……。

 ちょっとしたネタバレを喰らった。


 またさっきみたいに絡まれないように、道の端によってマップを確認する。

 前方を確認すると校舎までの長い桜並木道を歩く沢山の生徒の中に、卯の花色の髪の長身が見える。


 怠そうに体を伸ばしながら、ゆっくり歩いている。

 …………追いついたら嫌だし、ちょっと時間置いてから進もう。





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