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#1-20 期待の新星//第10話

とってもお久しぶりですすみません(;^ω^)

内容を忘れちゃったよーという方はぜひ読み返してみてください。

 そんなこんなで私達は双子ちゃんも交えて5人でお昼を食べた後、校舎前の広場でチラシ配りを開始した。


 昼休みは運動場で体を動かそうとする生徒やライブを見に行く生徒等で賑わっていて、広い広場にも沢山の人がいた。

 広場でお弁当を食べたり談笑している人、何処かに行く途中の人。


 こんなに沢山人がいるのに私はまだ、1枚もチラシを配れていない。

 こうなる予感は薄々どころかひしひしと感じていたが、やはりこうなってしまった。

 当たり前のことではある。

 少し離れたところで配っているくるみんを見てみる。


「“イースターマーケット”は今週の日曜日!ハンドメイドのお店の出店がメインだけど、素敵なライブもあるの。どっちも楽しめるはずだから、来てね!」


 大きな声で宣伝しながら、積極的にチラシを渡しに行っている。

 突っ立ってるだけの私とは違って、あの人のところ、この人のところと走り回っている。

 双子ちゃんも同じような感じだ。

 一方直輝は、通る人の胸辺りに、文字通り押し付けるようにしてぱんぱんとテンポよく配っている。


 ……それは、ちょっと積極的すぎじゃない?


 私が見ていることに気が付いたのかたまたまなのか、直輝がこっちを向いた。

 目が合うと、直輝はニッと白い歯を見せて眩しい笑顔を浮かべた。

 パクパクと動いた口は、“頑張って”と言っているように見える。


 小さく頷くと、直輝はチラシ配りを再開した。

 私も、再開しよう。配れる気はあまりしないけど。


 皺にならないギリギリの力でチラシをぎゅっと握ったのは、頑張ろうという気持ちの表れ。

 視界に映る手は小刻みに震えていたけれど、きっと同じように唇も震えていたのだろうけど。

 それでも、私は誰かの役に立ってみたい。直輝とくるみんに近づきたい。


 大きな声で宣伝出来たら、それが無理でもせめて自分から通行人に近寄って行ったら、それだけでチラシは減るだろう。


 でも、ここを通る人は何か目的があってここを通っているわけで、暇なわけじゃない。

 そんな人達の邪魔をしてしまうようで、有限な昼休みを少しでも無駄にしてしまっているようで、申し訳なく思ってしまう。


 直輝とくるみんは、笑顔であんなにも沢山のチラシを配っているのに。

 年下の双子ちゃんですら、にこにこと笑ってあんなに頑張っているのに。


 広場の中央にある噴水から噴き出す水に映る私の顔は、笑顔とは程遠い。

 眉は下がって、唇は一直線に引き結ばれている。

 主体的に見ると、情けない顔。客観的に見ると、可哀想な顔。


 その大きすぎる差を改めて実感すると、何故か泣きそうになってしまう。

 可哀想な顔が、もっと可哀想になった。

 こんなんじゃ駄目だ。分ってる。

 分かってはいるのだが、それを意識すると余計に笑えなくなる。


「そのチラシ、1枚貰ってもいい?」


 不意に声をかけられて、びっくりしてしまった。

 私がそっちを見る前に、声の主はすっと私の手に握られていたチラシを抜き取った。

「あ……。」と声を出そうとしたけど出なかった。みたいな感じでぽかんと口を開けている私の顔を、声の主は覗き込んできた。


「ありがとっ!」


 にかっと明るく笑ったその人はとっても美人で、私は小さく息を呑んだ。

 私の顔を覗き込むために軽く腰を折り曲げなければいけない程の長身の、スレンダーな3年生。

丈の短いスカートから細くて長い足が伸びている。


「へぇー。面白そうなイベントだねー。」


 チラシを見ながら漏らした声は女性特有の艶のあるハスキーボイスなのだが、はきはきとしている。

 小さく呟いているだけなのだろうが、発声がいいからかバッチリ聞こえている。


 少し切れ長だけど全く吊り上がっていない紅みがかった瞳。

 後ろで1つに束ねられた茶髪は少しまとまりが悪いが、それすらも魅力的に見える。

 先輩、というよりもお姉さん、という敬称が似合いそうだ。


「チラシ配り、初めて?最初は緊張しちゃったり、上手くできないこともあると思うけど、頑張って。そのうち慣れると思うから!」


 私の腕の中に残っている大量のチラシを見てか、お姉さんは苦笑い気味に言った。

 お姉さんは少し考えるような素振りを見せると、楽しそうに微笑んだ。


「お手本がてら、ちょっとだけ手伝ってあげるよ。」


 お姉さんがひらりと身を翻して私に背を向けた。

 すうぅと息を吸い込む音が聞こえてきそうな程、お姉さんは大きく息を吸い込んだ。

 そして――――。


「~♪」


 広場中に響き渡るような声で、歌い出した。

 リズムをとるために動いていた足のトントンという音が、次第にステップに変わる。

 スカートを、ブレザーの裾を、髪をなびかせて踊る。


 楽器の音は一切なくて、今この歌を構成している音はお姉さんの歌声とステップを踏む音だけだけど、それでもとっても素敵な歌だった。

 かっこいい。シンプルにそう思った。


 この歌が聞こえたのも、そう思ったのも私だけじゃないようで、広場にいた多くの人がお姉さんに注目する。

 通行人の幾らかは足を止め、座ってスマホを操作していた人が顔を上げ、向かい合っておしゃべりしていた人達が、口を動かすのを止める。


 最後の一節を、余韻までしっかり残してから、お姉さんは違う意味で声を張り上げた。


「私の即興ミニライブ、どうだった?ついでと言っては何だけど、チラシ、貰ってくれない?」


 言うに合わせてお姉さんは私を――正確に言えば私が持っているチラシの束を指さす。

 お姉さんに注がれていた視線が、一気に私に流れ込んできた。


 その視線に思わず怯んでしまいそうになるが、ぐっと堪えてチラシを両手で握りなおす。

 チラシの上部が私側に来るように向きを変えて、両腕を前習えのように伸ばす。

 そして、深々と頭を下げた。

『受け取ってください』声にならないその言葉が、せめて気持ちだけでも伝わるように。


 すっと、誰かがチラシを1枚抜き取った。

 1度顔を上げて、ありがとうございますという気持ちを込めて軽く礼をする。


 どんどん私の周りに人が集まって来て、1枚、また1枚とチラシが減っていく。

 オロオロしながらも1人1人にチラシを配っていくと、私が抱えていたチラシの束は全てなくなっていた。


 お姉さん、凄い。


 私に渡されたチラシの数はみんなの半分だったけど、これだけチラシが減らせたのはお姉さんのお陰で、私は何もしていないに等しいけど。

 それでも、空っぽになった腕の中を見ると嬉しくなった。

 みんなに少しでも近づけた気が、少しでもみんなの役に立てた気がした。


 お姉さんにお礼が言いたかったけど、もう何処かに行ってしまったみたいで見当たらなかった。

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