#1-19 期待の新星//第9話
床に肩をぶつけた痛みに声にならない声をあげ、身悶える私。
体の上に乗っかっていた重みが消え、幾らかましになった。
女の子に重みとか言っちゃだめだ。
「ごめんなさい先輩っ!私前見てませんでした……。大丈夫ですか?」
ついた手から床の冷たさを感じながらのっそりと上半身を起こすと、ぶつかって来たであろう1年生の女の子が顔の前で両手を合わせている。
その向こうにプリントの束を胸に抱いて小走りで近づいてくる同じく1年生の女の子。
「怪我してませんか?立てます?」
心配してくれているのであろう慌てた1年生ちゃんに、大丈夫だよ。と笑みを作って首を横に振る。
私に外傷がないのを確認すると、「「よかった……。」」と安心したような2つの声が重なる。
2つの声はよく似ていて、ぴったり重なった声は1つに聞こえる。
「本当にごめんなさい。とーか、後ろ向いて走ってたので……。」
「足とか大丈夫ですか?アイドルが踊れなくなったら大変ですよ!」
私、アイドルじゃないんだけどな……。と内心で苦笑する。
どうして私はアイドルだと思われるんだろうか。
改めて見ると、1年生ちゃんは2人ともとても可愛い顔をしている。
というか、殆ど同じ顔してる。
淡めのピンク色の髪を逆の位置でサイドテールにして、中心に花の形を模したシュシュで結んでいる。
ぱっちりとした瞳もピンク色で、ボタンの開いたブレザーの下に着たカーディガンもピンク色。
細かく言うとぶつかってきた子の髪とカーディガンは薄桃色、瞳は桜色、シュシュは桃の花びらっぽい。
もう1人の子の髪とカーディガンは薄桜色で瞳は桃色、花びらは桜っぽい――といった感じだ。
背丈も同じくらいで可愛い。双子かな?
「みなみんは大丈夫みたいだよー。君は大丈夫?みなみんが心配してると思うよ?」
私の手を掴んで助け起こしてくれながら、直輝は平然と問う。
力強く引き上げてくれる手は男の子らしく骨ばっていて、少しドキッとした。
直輝の言う通り私は、相手に怪我がないか心配していた。
でも、直輝よく分かったな……。
手を掴む直輝の手はあったかくて、その温もりと優しさが私の心まで温かくしてくれた。
「はい、とーかは大丈夫です!未無未先輩を下敷きにしちゃったので……。」
下敷きにしたことは全然いいし怪我がなくてよかったけど、この子も私のこと知ってるのか……。
「未無未先輩――で合ってますよね?スカウト制度の。」
桜色のカーディガンの方の子にこくこくと頷く。
やっぱりスカウト制度かあ。
「ほらほら、自己紹介は?自分は知られてるのに相手のこと知らないって、みなみんすごく居心地悪いと思うよー。おれは気陽直輝、“RePeat's”の直輝だよ!」
「わたしは“RePeat's”の関繰来。よろしくね。」
「わわっ、確かに自己紹介してなかったですね。すみません、アイドルなのに……。」
桃色カーディガンの子が少ししゅんとして肩を落とすが、すぐににこっと花が咲いたように笑う。
この子もアイドルなんだ……。アイドルが多いって言ってたね。
「ユニット、“Blossoms”の双葉 桃花です!」
「同じく“Blossoms”の双葉 桜花、とーかの双子の姉です!」
2人は隣に並んで肩をピタリと合わせ、髪を結んでいる方の手で可愛らしくピースをする。
明るく笑って、決め台詞らしくはきはきと言い切る。
「「桜が姉で、桃が妹、双子の双葉です!!」」
THEアイドル~といった感じの自己紹介に、私達は3人揃ってパチパチと拍手を送る。
可愛い。やっぱり双子だったみたい。
私にぶつかって来た子が妹の桃花ちゃん、後ろにいた方の子が姉の桜花ちゃんだということだ。
「可愛い自己紹介ね!2人は急いでたみたいだけど、時間は大丈夫?」
「全然大丈夫です!別に用事があったわけじゃないので……。」
「私達、これから今度出るイベントのチラシ配りをするんです。早く始めた方が、沢山の人に配れるかなって思って。」
「よかったら先輩方もどうぞ。」
桃花ちゃんは桜花ちゃんと同じように持っていたプリント(チラシだった)の束から3枚抜き取って渡してきた。
そのチラシは、半ばに折り目がついていて、くしゃくしゃになっている。
桃花ちゃんもそれに気が付いたようで、「あ……。」と呟いた。
「あ、す、すみません……。えへへ。」
「こっちは曲がってないので、どうぞ。」
誤魔化すように笑う桃花ちゃんの隣で、すかさず桜花ちゃんが自分が持っていたチラシを渡してくる。
私とぶつかった時に曲がっちゃったのかな?申し訳ない……。
「私達は曲がったやつで大丈夫よ。綺麗なのは、本物のお客さんのために取っておいて!」
そういってくるみんは曲がってしまったチラシを受け取り、私と直輝にも渡してくれる。
チラシの上部には大きな字で『イースターマーケット』と書いてある。
開催日は今週の日曜日。
ハンドメイドがメインのイベントだけど、ステージも少しあるみたいだ。
「へえ、面白そう!2人で出るの?」
「いえ、3年生の先輩と一緒です。3人で“Blossoms”なんです!」
チラシに小さく書いてある“Blossoms”の文字を指差して直輝が聞く。
なりたてホヤホヤの1年生だけでは大変そうだと思ったけど、先輩がいるなら心強いだろう。
「先輩達も是非お越しください!あと、やっぱり綺麗なチラシを受け取ってほしいです。配りきれないくらいあるので……。」
今2人が抱えている量だけでも沢山あるけど、桃花ちゃんが言うにはまだまだあるらしい。
こうやって時間を奪ってしまっているし、手伝いたいけど……。
「ねぇ、それおれ達も手伝っていい?」
「「え、いいんですか!?」」
双子ちゃんは嬉しそうに言うが、「貴重なお昼休みなのに……。」と申し訳なさそうにしている。
「いいよいいよ。お昼休みは毎日あるからね!いいよね?」
「わたしはいいわ。みなみんもいいわよね?みんなでやった方が沢山配れるし、みなみんにとってもいい経験になると思うの。」
私は大きく2度頷く。
力になれるかはわからないけど、力になりたいのは確かだ。
双子ちゃんは心底嬉しそうに顔を綻ばせ、「「ありがとうございます!」」と言った。
9月5日のPVがすごく多くてびっくりしました。ありがとうございます!
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