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#1-00 新しいキセキ

 3年生の卒業式が終わり、少し人気が少なくなった学校。

 人工が少なくなったのを利用して、昼休み、私は中庭でお弁当を食べていた。

 独りで寂しく。


 ぼっち陰キャの私に普段中庭でお弁当なんてとてもじゃないが無理。

 でも今日は、どうしても中庭にいないといけない大きな理由がある。


 それは、“憧れの人に会えるかもしれないチャンス”だということ。

 この学園には普通科の他に芸能科という特別な学科が存在する。

 数々の綺羅星の如く輝く芸能人達を排出してきた、別世界のような学科。


 年に1度この時期に、普通科の生徒の中から原石を探しだし、1人だけ芸能科に転入させるという制度がある。


 その制度こそが、“スカウト制度”。


 スカウトマンを務めるのは芸能科卒業生の超人気芸能人。

 芸能人が普通科の敷地に訪問し、原石を見つけだすというTV番組だ。


 それが今日。

 しかも今年のスカウトマンは大人気アイドルの好昇 咲菜(こうの さな)さん。

 私が大好きなアイドルだ。


 TVとかで見ただけで生で見たことはないけど、私はグッズ集めをするほど大ファンなんだ。

(本当はライブにも行ってみたいけど、なんとなくハードルが高い。)


 そんな憧れの咲菜さんが来ているのなら、遠くからでも良いから一目見たい。

 そんな理由で咲菜さんが原石を探しに来そうな中庭でお弁当を食べている。


 咲菜さんは4年連続でスカウトマンを務めているが、毎回必ず中庭に来ている。

 実際、去年の原石の男の子は中庭で見つかった。

 だから今年も中庭に来てくれるのでは……?絶対来てほしい。

 そんな期待を込めてもぐもぐとお弁当を口に運んでいると、


「はいはーい!今年も中庭に来たよ~。去年秋季(しゅうき)くんを見つけたのも、此処だったよね、懐かしいな~。」


 よく通る声が聞こえて、私はばっと顔を中庭の入口に向ける。

 案の定。

 カメラに向けて元気よく言う好昇 咲菜さんがそこにいた。


 あっちを向いていて顔は見えないが、あの声、毛先の切り揃えられた長い縹色のツインテール。

 間違いなく咲菜さんだ。


「さぁ、この中にミラクルスターはいるかな?」


 “ミラクルスター”は原石のこと。

 このTV番組は“ミラクルスター発見スカウト”という名称だ。


 カメラや何やらよくわからない機材やらを持った大人の人達(スタッフさん?)に囲まれた咲菜さんはぐるりと中庭を見回す。

 一瞬だけ、ぱっちりとした瓶覗色の瞳と目が合った。


 …………やばい、めっちゃ可愛い。

 生咲菜さんやばい。


「うーん…………。そこの君!ちょっといいかな?」


 どうやらよさそうな子を見つけたようだ。

 誰だろう?あそこにいる子達とかかな?

 よく目立つ可愛い子達。芸能人なれそー。


 咲菜さんはこっちに向かって歩いてくる。

 あれ?じゃあ私の後ろの方にあるベンチに座ってお弁当を食べている2人組かな?


「君だよ、君!ベンチに座って1人でお弁当食べてる1年生ちゃん!」


 キョロキョロとまわりを見回す。

 ベンチは全部で6つある。

 そのうち使われているのは4つ。

 うち2つは2年生だし、私以外に1人で食べている子なんていない。

 私が混乱している間に咲菜さんが目の前に!


 わぁっ!こんなに近くで咲菜さんを見れるなんて!

 って感激している場合じゃない。

 …………え?私?


「君、名前は?」


 咲菜さんが超近距離で微笑む。

 夢?これは夢かな?


「おーいもしもーし。咲菜は咲菜でぇーす。君の名前はー?」


 放心状態でフリーズしている私の前で、咲菜さんはひらひらと手を振る。

 頬をつねる。痛い。

 本当に私だ………。咲菜さんが目の前で私に話しかけてきてる………!!

 違う、名前。

 名乗らないと失礼だよね。


 山田 未無未(やまだ みなみ)です。


 と、聞こえたかどうかわからない程の小さな声で言う。


「うんうん。未無未ちゃんね。オーケー。」


 咲菜さんはうんうんと頷くと、微笑んだ。


「頬をつねるなんて、夢だと思ったの?面白いね~、現実だよ〜!」


 ばれた。しかも現実を突きつけ(?)られた。


「未無未ちゃんはお弁当なんだねー。誰が作ったの?お母さん?お父さん?」


 えと…………自分、です。


 小さな声だがちゃんと聞き取って、咲菜さんは「すごー!学生時代、咲菜は絶対できなかったなー。今もだけど。」と笑う。

 優しい。

 できればカットしてほしいけど、もしオンエアされたら私の声入らなくないかな?

『字幕を頼りに』ってこと?


「咲菜は料理あんまり得意じゃないからなー。朝起きれないからお弁当とか絶対無理だよー!未無未ちゃん凄いね。」


 咲菜さんのキラキラ笑顔が近い。

 私明日死ぬのかな?


「あ!唐揚げじゃん、おいしそー!揚げ物って難しくないの?すごいね!……よかったら一個ちょうだい?」


 私が頷いてお弁当箱を差し出すと、咲菜さんが私のお弁当箱に入っていた唐揚げをひょいとつまむ。

 食べやすいように1口サイズにして、プラスチックの可愛いピックで刺した唐揚げ。

 咲菜さんは元気よく「いっただきまーす!」と言うとぱくりと食べた。


「んー!おいひぃ~。咲菜唐揚げ好き大好きなんだぁ。」


 唐揚げを頬張りながら頬に手を当て、とても美味しそうに微笑む咲菜さん。可愛い。


 ……じゃなくて、咲菜さんが私の唐揚げを食べてるー!?

 咲菜さんが唐揚げが好きなのは知ってる。前にTVで言っていた。

 私が唐揚げをお弁当に入れているのもその影響。

 でも、まさかその咲菜さんが私の唐揚げを食べてくれるなんて、誰が予想できただろうか。


『咲菜、唐揚げ大好きだからついつい沢山食べちゃうんです。』


 って前雑誌のインタビューで載っていた。

 揚げ物沢山食べてこのスタイルな意味がわからないけど。羨ましい。


「未無未ちゃん料理上手なんだね。ありがと。めっちゃ美味しかった!」


 唐揚げを飲み込んでにこっと笑う咲菜さんの目線が、ふと私の横においてある保冷バックにいく。

 きっと何気なく、たまたまだと思う。

 でもやばい。シンプルな白い保冷バックだが、ただ1つだけシンプルではない箇所がある。


「わあぁ!これ咲菜じゃん!去年の冬に抽選で100名様にプレゼントしたSD(スーパーデフォルメ)キーホルダー!何で未無未ちゃんが持ってるの?」


 そう。私の宝物“限定SD咲菜キーホルダー”を付けているのだ。

 2等身ミニキャライラストの咲菜さんが凄く可愛くて応募してゲットしたキーホルダー。

 あの頃は毎日神社にお参りに行っていた。

 懐かしいな~。


 そのキーホルダーを今咲菜さん本人が指でつついている。

 どうしよう。この機会に「ファンです!握手してください!」とか言えたらどれほどいいだろう?

 おそらく人生で今しかない咲菜さんと話せるチャンスを、ファンとしてモノにできたら。

 でも、私にはそんな度胸はない。


「…………えーと……もしかして未無未ちゃん、咲菜のファンだったり?自分で聞いて違ってたら恥ずっ!!」


 少し不安そうに、でも笑いながら言う咲菜さんに何度も何度も頷く。

 何も咲菜さんが恥ずかしがることはない。だって私はファンだから。

 そもそもそんなにレアなキーホルダーをファン以外がつけてないだろう。


「マジ?」


 こくり。


「マジなの!?嬉しい握手しよーう!!」


 咲菜さんは弾けるような笑顔で私の手を握りぶんぶんと振る。

 お、お弁当落ちる……。

 というか咲菜さん神……!

 握手してくれるなんて感激。


 普通はファンの私から咲菜さんにお願いするべきなんだろうけど、咲菜さんの方から握手してくれるなんて。

 神対応神ファンサ!!


 咲菜さん以外と力強い。私よりも華奢なのに、私よりも力がありそうだ。

 当たり前……なのかな。


 私はいつも学校に通って、終わったら家でなんとなく本を読んだり、「高校を卒業したら、そこそこの学校に行くんだろうな」なんて思いながらなんとなく勉強をしているだけ。


 咲菜さんはどうだろう?

 なんの苦労もなく今の地位にいる訳じゃない。

 きっと学生時代からアイドルになるために毎日毎日、沢山踊って、沢山歌ってたんだ。


 歌って踊ってただけじゃないかもしれない。

 きっと何曲もぶっ通しで踊るための体力づくりだってしてる。

 毎日毎日努力してきたんだろう。


 なんとなく人並みにやっているだけの私より、少なくとも体力はある。

 咲菜さんがこんなに輝いているのは、アイドルだからってだけじゃない。


 “夢や目標に向かって努力しているから”


 “今この時間を楽しんでいるから”


 だ。


 きっとこの世界の大半の人はそんな微かな、それでいてしっかりとした輝きを持っているんだ。


 …………私も、何かを一生懸命できるかな?

 今はまだ、何かはわからないけど。


「じーっ………………。」


 手の振りは止まったものの、まだ手を握ったまま咲菜さんは停止する。

 物凄い近距離で、私の顔を見ている。

 澄んだ瓶覗色の瞳に、平凡な私の顔が映っているのが見える。

 見られ慣れていないから恥ずかしい。


「うんうん。やっぱりキラキラ……。」


 咲菜さんは私から離れると小さな声で呟く。

 それから、ぱっと顔を上げた。

 その表情は晴れ渡ったような清々しい笑顔で、瓶覗色の瞳は宝物を見つけたようにキラキラと輝いていた。


「見つけたよ、きめたよっ!未無未ちゃんは原石だ!

 ――――――今年のミラクルスターだよ――――――!!」


 …………へ?

 小さな声にもならない声が私の口から漏れる。


 この咲菜さんの一言で、私の人生は一変してしまった。

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