#1-15 期待の新星//第5話
「――――お隣よろしいでしょうか、山田未無未さん。」
とにかく顔がいい亜麻色髪の先輩に聞かれて、私はこくこくとぎこちなく頷く。
先輩は「ありがとうございます。」と柔らかい笑顔を私に向けながら、私の隣に腰を下ろした。
品のある動作1つ1つに吸い寄せられるように目が勝手に注目してしまい、そのまま先輩から目が逸らせない。
イケメンオーラというか、なんというかそういったものを感じる。
その視線は気づかれていたようで、先輩は口を開いた。
「自己紹介が遅れましたね。僕は神楽 美和人、アイドルで、生徒会庶務をしています。所属ユニットは――――ごめんなさい、まだ言えないんでした。気軽に美和人と呼んでいただけると、嬉しいです。」
えへへと可愛らしい笑い方で誤魔化す先輩――美和人先輩。
すぐ近くで聞こえる声は優しい柔らかさがあって、美和人先輩だけの魅力がある気がした。
可愛い顔もできるのか、美和人先輩……。
この人、きっと物凄く人気なアイドルなんだろうなぁ。
万人受けしそう。
「未無未さん――でいいですか?」
私がこくりと頷くと、美和人先輩は「ありがとうございます。」と丁寧に言って笑った。
「未無未さんも通学同じ電車だったんですね。今まで全然気が付きませんでした。」
苦笑交じりに言う美和人先輩に、私はふるふると首を横に振る。
私はいつももう一本遅い電車だったから、美和人先輩がいつもこの電車で通学しているのなら私を見かけた事はないはずだ。
というか、もし同じ電車だったとしても、美和人先輩が普通科の地味顔女子を気にかけたりしないでしょうに。
美和人先輩は私を見て、何故かふふっと噴き出す。
何で?
私の視線から疑問を感じ取ったのか、美和人先輩は「すみません。」と笑ったまま謝る。
「未無未さん、面白いですね。ジェスチャーゲーム?をしているみたいです。僕は結構好きですよ、そういうコミュニケーションも。でも――――」
私、そんなに面白いかな?ジェスチャーゲームて。
美和人先輩、顔がいいんだからそんなナチュラルに「好きですよ。」とか言っちゃダメです。
誤解されますよ~。
「僕は言葉で伝えるのも大切だと思いますよ。折角の、貴女だけのな声が台無しでしょう?」
優しく微笑みかけてくる美和人先輩に、流石にドキッとした。
心臓の鼓動が速くなったのが分かる。
おおおお落ち着け私、あなたは少女漫画の主人公じゃないでしょう?
朝の電車の中、隣の席、肩が触れそうな距離。
イケメンな先輩の優しい言葉と柔らかい笑み――――。
なんだこの少女漫画的シチュエーション!?
これでもし私じゃなくてくるみんみたいに可愛い女の子だったら――うん、完全に少女漫画。
こんな状況に恥ずかしげもなく持っていけてしまう美和人先輩はなんなんでしょうか?天然?天然たらしってやつ?
恐ろし。
「……たく、何よく知らねー女といちゃついてんだよ美和人!」
「ふぇわっ……?」
今機嫌悪いですオーラ全開の秋季先輩が美和人先輩の肩を力強く叩く。
美和人先輩は暫し呆然としたように秋季先輩のしかめっ面を見つめていたが、その端正な顔がみるみる紅く染まっていく。
「そう、見えました……か?」
「完全にお前がそいつ口説いてるようにしか見えなかったよ。」
少しぎこちない仕草で聞き返した美和人先輩は秋季先輩の返事を聞いた瞬間、ばっと席を立ち、私に向かって深く頭を下げた。
サラサラとした亜麻色の髪が揺れて流れる。
「ご、ごごごめんなさい!!」
美和人先輩勢いがありすぎて、私は目を丸くして驚いた。
あまりの驚きに、はぁ……?と小さな吐息のような声が漏れてしまった程だ。
はぁ↑?じゃない、はぁ↓……?。
「ほ、本当にすみません!初対面の異性がいきなり馴れ馴れしく接して、距離も近くて嫌でしたよね?怖かったですよね?恥ずかしかったですね?」
慌てたように早口でまくし立てる美和人先輩に、そんな事ないと必死で首を横に振る。
「ごめんなさい!僕、なんか距離感がおかしいみたいで……。」
「るせーんだよ、お前、一旦その口塞げ!」
「ひゃい。」
秋季先輩に静かだけど力強く言われ、美和人先輩は素直に両手を口に当てる。
――可愛いかよ。って言葉はこういう時に使うのかな、多分。
「地味女。」
秋季先輩はさっきまで美和人先輩が座っていた席にどかっと腰かけると、不愛想なまま口を開いた。
ん?地味女って私の事かな!?
確かに私地味だけど、そんなドストレートに言う?
これは渾名なの?悪口なの?私の名前が分からないだけかな。
「こいつ、頭はいいけどアホなんだよ。どアホ。アホだけど悪い奴じゃねぇから。」
「秋季、アホって言い過ぎじゃありません?僕の事嫌いなんですか?」
「その口塞いでろつったろ、喋んな。」
「……ひゃい。」
眉を下げて納得いってなさそうな美和人先輩が抗議するが、またもや口を塞ぐ事になる。
……なんか、可哀想になってきた。
「……ま、別に俺はかんけーねぇけどさ。美和人はともかく、お前とはもう話すこともないだろうし。…………おい美和人、もう口開けていいぞ。席も返してやるよ。」
「はい、ありがとうございます?」
ダルそうに席を立った秋季先輩は、後ろの車両と繋がっている方へ歩き出す。
てっきり前の位置に戻るものだと思っていたので、少し首を傾げてしまう。
「何処に行くんですか、秋季?」
それは美和人先輩も同じだったらしく、こてんと首を傾げて秋季先輩に聞く。
秋季先輩はゆっくりと振り返ると、私の目を睨むように見つめて――――いや、睨んで言った。
「――――――こいつの顔、みたくねぇんだよ。……イライラする。」
「え、待ってください秋季!?」
美和人先輩の静止も聞かず、秋季先輩は私達に背を向けて後ろの車両に移動してしまった。
電車の進行方向とは逆に、自分が踏みしめている地面の意思に逆らって。
評価、感想、ブックマークを期待しています……!




