表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

10円玉

作者: いろは

机の上の10円玉。はしっこにあって、今にも落ちそう。横目で見ながらコーヒーを飲んだ。苦くて温かい。

少し前のドラマ「カルテット」で松たか子演じる真紀が、家出した旦那の靴下を片付けられないというシーンがあった。旦那が脱ぎ捨てた靴下は、脱ぎ捨てられた時のままで床にずっと置かれていた。真紀に片思いしている司から「靴下に恋をしている」と言われてしまう。

今の私も似たようなものだ。

あの日彼を待っている間に、彼の好きなブラックコーヒーを自販機で買った。110円すると思って財布からちょうど出して自販機にお金を全て入れた時に彼の姿が見えた。コーヒーは100円だった。いつもなら、お釣りのお金は財布にしまってしっかりチャックを閉めるのだが、熱いコーヒーを早く渡したくて、彼に遅いよって言いたくてコートのポケットにお釣りの10円を押し込んで彼に駆け寄った。

彼の手元には空いた缶コーヒーとタバコがあった。タバコをくわえて歩く少し不機嫌そうな横顔を見てたら遅いよも言えなかった。カバンに熱い缶コーヒーを押し込んだ。

どこでもいいって言ったからいつもの安い居酒屋に行った。適当に注文するねって言って頼んだ料理には、彼はあまり手をつけなかった。冷めたからあげを飲み込むのに苦労した。

彼を不機嫌にさせたものはなんだろう。彼の心を動かせたもの・人に嫉妬した。何かあった?が聞けなかった。何でもないってめんどくさそうに答えられるのが怖かった。

お店を出て駅まであんまり話さずに2人で歩いた。じゃあ、って言って彼は一度も振り返らずに改札を通った。


しばらくして、彼が会社の同期と付き合ったことを知った。彼と何気ない会話をしている時だった。あんま2人で会えねーわ、って言われた。

ふられたわって笑ってみた。彼も少し笑った。


机の上の10円玉。はしっこにあって、今にも落ちそう。横目で見ながらコーヒーを飲んだ。苦くて温かい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ