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カウントブランク  作者: 小平リオ
第1章 【終わりの始まり】
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第2話 一歩

「はぁー長時間で広範囲の力の使用はさすがのボクでも疲れましたね」


 暗い暗い森の中、暗い暗い廃屋から男が声を発する。伸びをしながらため息をついた。その男の隣にもまだ人影がある


「やっぱりボスはかっこよかったぜぇ」


 そんな会話になっていない言葉を発するのは、するどい牙をチラつかせながら悪魔のような笑みを浮かべて声を発する。そんな発言に呆れた顔しながら物怖じしない態度で言葉を返す。


「負けるわけがないでしょう…ボクたちの有利な盤面で有利な相手を向かわす、そんな戦略を完璧に構築する。彼の力ですよ未来を見通す我が()


そう感嘆した表情で自分達の後ろにある大きな扉を見て呟く。扉には絶対的に存在する()()という瞬間。そんな当たり前のものがこの扉には備わっていないかのようにも思わせる、重々しい雰囲気を纏っている。こんな廃屋には似つかわしくない重厚な作りの扉の前に先程の男と共に腰を下ろしている。


「難しく言うんじゃねーよぉ!フォン!ボスの未来を見る力はわかってるつもりだぜぇ。現にボスの言った通りの展開になったしなぁ」


「まぁ正直なところ、本当に未来を見れているのか分かりかねますがね。そうやってボクたちを()()()いるのかも」


「全く意味がわからねぇ…しかも欺きの冠のお前がいうのかよぉ」


 そんな強面のまま小首をかしげて不思議がる姿はさながら小動物のようだ。ここまで無言で遠く離れたところに腰を下ろしていた少女が、ため息交じりに喋りだした。


「もぉーうるさいのー。眠れないのー」


「すまねぇーすまねぇー。お前の頑張りあってこその作戦だったしなぁ。ゆっくり休んでくれやぁ。まぁ後はアイツがうまいことやってくれるのを待つか」


 暗い暗い森の中、暗い暗い廃屋で、狂気と恐怖を孕みながら異質な扉だけが静かに佇む…

 暗澹な空間はなおも続く。光も届かない森の中で…


◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□


 王の訃報は瞬く間に俺たちの国であるグラディオ王国全土へと広まった。今の現状はまさに混沌を極めている。市民は恐怖に震え、このグラディウス家の門の前で暴動が起きている始末。この国を支えていた英雄が突然に消えたのだから仕方のない事だ。

 そもそも俺たち8人の王子ですら、この状況を飲み込むことができていない。そんな誰もが冷静でいられていない中、やはりこの男たちは違った。第2王子であるアシロは、混乱している群衆を落ち着かせようと事態の説明を得意の喋り上手を披露する。


「皆さん落ち着いてください!今の我が国の状況を亡き王はどう思いましょう?それとも我々にとって王の存在とは無碍にしてよいものなのでしょうか?少なくとも私はそうは思いません。そうは思いませんよ…だってそうでしょう。我らは王の背中をずっと見てきた時には自由奔放で、時には勇猛果敢でいて温かい。そんな王を裏切っていいはずがない。皆さん一度落ち着いて、王を信じていたように、王を一番に信じていた我々を同様に信じてほしい」


 まるで用意してたかのような言葉と時に涙をにじませるその声音で市民たちの心をつかんでいく。俺の心が廃れてきているからか心なしか楽しんでいるようにも見えた。

 そんな演説を横目に俺たちは、昨日のように王子達が集められ第1王子のメリカーの下で前回の討伐作戦で何があったのか詳しく話されることとなった。まぁ正確に言うと全員いるわけではないのだが。


「これから事の経緯を説明する。そもそも我々は奇襲をしかける前提の上で作戦がたてられた、アシロの索敵のおかげでクラウンズギルドの現在地を割り出せたからだ。だからこその少数精鋭の編成となった」


 そう確かにアシロの能力は治療や索敵など援護能力に長けている。これまでも彼の力あっての作戦は何度もたてられた。

 そして幾度となく成功なせており、王への貢献ははかりしれない。今回もその能力がいかんなく発揮されるはずあった。


「だがなぜか、クラウンズギルドは予定の場所には姿を現さず。そればかりか我々は気づいたらちりじりになってしまった。これは相手のメンバーの空間転移のような力であると思われる。この時点で嫌な予感はした。まるで我々の行動が()()()()()()かのような行動だ」


 一体どういうことだ。有利で進むはずの作戦がふたを開ければ全くの逆。話を聞いているだけで混乱してくるのに、その場にいた彼らはどれほどまでの不安を抱えていたのだろう。しかしこの状況はある疑惑を生む。なぜ作戦がばれていたのか…

 その場にいる全員が息を呑む中1人その疑問を言葉にした。燃える瞳を持つ男シュウだ。


「おい、ふざけるんじゃねーぞ。アシロの野郎が裏切ったんじゃねーのか!今の話はそういうことだろうが!!そもそもおかしいと思ったんだ、アイツだけ軽傷で帰ってきやがったしな」


 今の話を聞く限りソーマ自身も同じ考えだった。自分だけでなく周りの王子達もざわめきだしてきており、この部屋の空間は不信感にで溢れていた。そんな中で桃色の短髪をもつ中性的な顔の第5王子のマドゥーロがシュウに加勢する。


「マドもそう思うなぁ~。みんなもそう思ってると思うよ?もちろんメリも含めてね。なのに行動を起こしてないって理由があるんでしょ説明してよ」


 自分を卑下するようだがソーマ達が感じる疑念をメリカーが感じていないわけがないはず、この部屋の漂っている不信感を感じ取っても顔色を変えないのが何よりの証拠だろう。確かにマドゥーロの言い分が真っ当だ。そこまで言われてやっと口を動かし始めた。


「君たちの言いたいことはもちろん分かっているが正直なところ私も判断を決めかねている。アシロと最も共に行動したのは私だ。そんな中で不信な点は特になかった…だからこの一件は私に預けてくれないか?もう少し様子をみたいんだ」


 アシロとメリカーは、きっかけは分からないが親友のような関係性だったと思う。友としていろいろ思うところもあるのだろう。この問題は実力と共に関係性からもメリカーに任せるのが一番なのかもしれないが、納得できる理由も乏しいのは確かだ。今はなにより問題がありすぎている。

 そんな中で危険分子が存在しているかもしれないという疑念は想像以上に重たいものだ。


「俺はお前ほど賢くはない、だからお前の考えていることなんて全く分からねぇ。様子をみる意味も分からねぇ。だけど王がいない今、俺は一番にお前を信頼している。任せていいんだな」


「……… 任せてくれ」


 メリカーの厚い人望がなせる技だ。正直問題を先送りにしているようなものだが、それほどまでにこの第1王子への期待は他の王子達からもされているというわけだ。王がいない今頼れるのは自分たちしかいない中で第1王子に期待が集まるのは必然といえば必然か。第2王子の件については一度置いておくとして、この作戦の話はまだ終わらない。


「それで~作戦の続きはどうなったのさ」


 マドゥーロがそう促す。


「そうだな…各々どこかに飛ばされたのだが、私が送られた場所は闇だった。なにも存在せず、なにも感じなかった。何か特殊な空間だと感じ、抜け出すためにあらゆることをした。その結果自分を傷つけることで闇を晴らすことに成功した。その代償が片目というわけだ。その後駆け付けたアシロと合流する形となった」


 ここでこの会議で初めて自分で声を出す。久しぶりに喋るので少し咳払いをはさみ自分の存在を主張する。


「すまん質問していいか?アシロはどこに飛ばされたとか言ってなかったのか」


「後で聞いたところ私と同様に気づいたらはぐれていたようだようだ。しかし私と違うのは、アシロがいたのは草原の上で目の前に牙を持つ1人の男がいたそうだ。そいつはアシロの力で回復できる程度の傷しか与えず、アシロ側からは一撃も与えられなかった。しかしどちらかというとただ時間稼ぎをしているようだったらしい。」


 メリカーとは敵の対処が違ったのか…援護をする役目のアシロだが、自らもある程度は戦える男のはずだ。しかしそれは相手が一般的な強さまでの話、もしメリカーにも匹敵する強さなら話は変わる。わざわざ軽傷にとどめているのもその強さ故に相手に与える傷の深さを心得ている可能性がある。 

 メリカーの対処が行動不能にしたところをみると有利な盤面を予め作っていたということなのだろうか…そもそもアシロの話が本当なのかも分かりかねるのだが。


「なるほどな、まぁそこの審議は一旦置いとくとして、そんな状態からどうやって合流したんだ?」


「戦いの最中に何かを察したかのように、物凄い速さで森の方に移動し姿を消した。それが時間稼ぎと感じた理由だと言う。その後アシロの力により私の場所を把握し合流といった形だ」


「その牙男の場所はわかなかったのか?」


 メリカーは少し考える素振りを見せた。


「もしここに裏切り者がいる可能性を考えると、自分たちの力を事細かく説明するのは難しい。しかし私を信じてくれる君たちを裏切る訳にはいかないか…アシロの力はそこまで万能ではないんだ。彼の力の真価を発揮させるには対象の血液が必要なんだ」


 確かに俺たち王子達の力は大まかには理解しているつもりだが血液か…なるほど、アシロが医療にも長けている理由はそこにあったのか、俺たち自身の血液を目にする機会はいくらでもある。だがそれだとクラウンズギルドの拠点を見つけた理由が分からなくなってくる。

 そんな思考に頭を悩ませているのを分かっていたのかの如くメリカーはこう言葉をつづけた。

 

「クラウンズギルドの拠点については私の力との共同だ。アシロの力でここ周辺の動物は彼の管理下にある。そして私自身の万物の声を聞く力を合わせ、徐々に範囲を拡大しやっと見つけたんだ」


 俺たちの知らないところで色々事が進んでいたらしい。何か落ち込んでくる…やっぱり俺はあまり信用されてないのかと余計な妄想を働かせ、だんだん表情が暗くなってきた。あぁそういうことだったのか…などと心がくじけそうになってきていると


「おいおい、大体おめぇーらの事は分かった。そっから大事だろうよ、王はどうなったんだ」


 そのようにシュウが催促する。


「もちろんアシロの力ですぐ向かったさ。着いたころにはこと切れていたんだ。誰よりも強かったはずなのになぜ…」


 涙で目を濡らしながらメリカーはそう答えた。王を殺した相手の情報や環境、何が行われていたのかなど、何も分からないままだ。王は確かに誰よりも強かったはずなのに。一体何がその場で行われていたのだろうか。全く情報が足りなすぎる現実を突きつけられる。


「王が負けるなんて何か理由があったはずなんだよー」


 悔しそうにそう呟くのは俺の隣で難しそうな顔をしながら話をよく聞いていたジグミルだ。まぁそんな考えて結局、感情論的な発言をするのが彼らしいなとしみじみ思った。

 だからといってソーマ自身が答えがでていないのだから発言したジグミルの方が偉いな。絶対に言葉にはださないでやるが。


「それに関しては調査中としか言えない。今のところはやはりクラウンズギルドの王だと思ってはいるが」


「ーーーーー」


 この場の全員が沈黙をする。各々今説明された討伐作戦の内容を聞いて頭を悩ませているのだろう。かく言う俺も事の顛末を聞いて情報の整理に考えむけていて発言する余裕もない状態だ。

 しかし問題は山積み、ヤツらが何を企んでいるのかも分からない、しかも裏切り者の可能性もあるときた。


「最悪は状況だな、こりゃ」


 思わず口にでてしまった。自分の中で考えがまとまらずに口から言葉がこぼれ落ちてしまった。恥ずかしい。。。


「まぁ今は難しく考えるのをやめよう。とりあえず今は情報確認という意味での会議だ。それと、、」


 この重苦しい空気を一度切ってくれたのは、やっぱりメリカー。さすが第1王子!と思ったがその言葉の終わり方は含みのある感じで締め括られた。


「それと?」


 思わず俺は聞き返す。


「今後についてだ、我々はこれから王の弟であるクライスト・グラディウスを探す」


  クライスト・グラディウス…詳しくは知らないが、今は亡き王ロビフット・グラディウスの弟。俺らの叔父にあたる人だ。

 しかしその実情よくわかっておらず、どんな顔でどんな風体なのかもよく分からない。そもそも王とは仲が良くなく、疎遠状態だったらしいが性格は王とは真逆の荒々しいものだったと大臣が愚痴をこぼしていたのを聞いたことがある。だがその実力は折り紙付きだとか。

 確かに今のグラディオ王国の現状を鑑みるに彼を呼ばない手は無いか。


「ソイツは確か中々のゴミ野郎だって噂じゃねーか。そんな奴どうするんだよ」


 クライストと負けず劣らずであろう口の悪さを披露しながらメリカーに文句を投げるシュウ。もしかしたらシュウはクライスト似なのかもしれないなと変な妄想をしていると。

 そんなシュウに真面目な顔をしたメリカーが真っ直ぐに目を見つめてこう告げる。


「彼の腕は王にも匹敵するほどものだったと大臣から聞いた。今の混沌とした状況に彼は絶対に必要なんだ。しかしアシロと協力して探してはいるのだが肝心の場所が分からない」


「まぁ理由は分かったが、どうやってソイツを探すんだよ?」


 その必要性は理解できるが場所も分からないとなると、どうやって探すべきか…。分からないということ事態が探す手掛かりになって居るのかもしれない。

 アシロの力でも見つからないと言うことは逆に動物の入る隙がない大国のような場所か、その力の範囲よりも遠い場所かとなる。それなりには絞られてきているという事になる。流石の用意周到さというべきか。


「見つからないことが逆に手掛かりになるかもしれないな。遠くにいた場合は関係ないけど」


 そのように思ったことをそのまま口に出した。


「そういうことだ。もしこの辺りにいて、かつアシロの力の範囲外となる場所は、ホーニン国、アドルク、ラオの三国だ。アドルクに関しては、この場にいないモレンが既に向かっている。彼が適任だからな、ということでホーニン国とラオには君たちが向かってほしい。」


 争いを好まない国として有名なホーニン国。それゆえに自国愛が強く他の国の人間をあまりよく思わない国だ。そして、ラオはあまり噂は聞かない田舎のような国のはず、確かにここからは少し離れているな。それから第4王子のモレンの()()()()場所であるアドルク。半人間しか入ることの許されない閉鎖された国。

 なかなか小難しい国が残ったというのが素直な感想だ。


「クラウンズギルドの目的が分からない以上、単独での行動は控えてもらいたい。そのためホーニン国へはシュウとマドゥーロが、ラオにはラームとソーマ、ジグミルに向かってもらいたい。勝手に決めてすまない。私とアシロはこの国に残る」


 第6王子のラームと一緒か、この場の会議にいないもう一人の男。自分の研究所にこもり機械イジリが趣味な奴だが付きっ切りのメイドが一人いてその子が代わりに会議に参加している。まぁ通信機器だとかいう機械でこの話を聞いているはずだが...


「お言葉ですがメリカー様。この役立たず二人組と一緒に行動する方が危険にさらされます」


「手厳しいねザビタ。大丈夫さソーマもジグミルもやる時はやる男だよ。今は危険な状況だ。単独ななるべく避けたいんだ」


 その短い金髪に端正な顔立ちからは想像もできないほどの毒舌だ。ラームぐらいしかまともに信用しておらず、このメイドの忠誠心たるや恐ろしいものがある。だがそんな言葉に気圧されている場合ではない!ここは男らしく強い言葉を使おうではないか!!


「まぁ俺たちにまかせろよ!」


ギロ--


すごく怖い顔をしています。どうしようジグミルさん...助けを求めようと顔を向けると、もうすでにジグミルは下を向いて目を合わせようとしない。1分前の自分が許せない。誰か助けてください。


<分かったよメリカー。でも俺の代わりにザビタに行かせる。俺の()()()()は色々もたせるつもりだけどね。まかせるよザビタ>


 どこからともなく声が聞こえてくる。ザビタの近くを飛んでいる小型の機械からだ。ラームの発明品の一つだろう。普通にすごいななんだこれ。


「ラーム様がそうおっしゃるのであれば」


 彼女が不服そうに呟く。


「各々すぐに取り掛かってくれ。本当に急な話ですまないが、事態は急を要するのだ。我々でどうにかこの危機を乗り切ろう」


 そんな言葉を最後にこの会議は終わった。それぞれやる事は異なる上に我が国もまともに機能していない。そんな中で休む暇もなく第1、第2の王子は王に最も近かった存在であるため国民にも少なからず頼りにされていた。その彼らがこの国を立て直そうと必死に対応している。

 そしてほかの王子達も動き出す。今はだれが裏切り者だとかの話はどうでもよかった。みんなの思いは一つのはずだ。この国を建てなおす。王の意思を無駄にしない。そんな共通認識のもと動き出す。この瞬間世界は動き出す。それは破滅への道ということに誰も気づかない。気づけない。

 




 

 

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