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みんなのあなた


「そうっす! こんなに疼いたのは初めてっす! そういうことしたこともない癖に、頭ん中は先輩とそういうことすることでいっぱいなんす! もうおかしくなっちゃいそうなんっす!!」

「そ、そういうこととは……」

「こういうことっす!」

「おわっ!?」


 ゼラの足払いがクルスを転がした。地面へ倒れたクルスへ、ゼラは覆いかぶさる。

ついにバチン! とボタンが弾けて、ゼラの大きな胸が晒された。更に顔は赤く、息はまるで走った後のように荒い。

 熱い吐息と甘いゼラの匂いが容赦なくクルスへ降りかかってくる。


「別にウチのことが好きじゃなくたって構わないっす! ウチが先輩を勝手に好きになっただけっす! それでもウチは精一杯頑張るっす! 先輩が気分良くなってくれるよう頑張るっす!」

「ゼ、ゼラ、落ち着け! 君の気持ちはわかった! 俺は君のことが嫌いじゃない! むしろ、好きと言ってもらえて嬉しい! だから……」

「マジっすか!? 本当っすか!? 好きなんすね! 良かった! ウチめっちゃ嬉しいっす! めっちゃ頑張るっす!!」


 どうやら火に油を注いだだけのようだった。

 クルスは逃れようとジタバタを続ける。しかしビムガンの膂力から簡単に逃れられそうもない。


「ウチ初めてだけど、なんとなくどうしたら良いかはわかるっす! だから先輩はただウチに身を任せてくれりゃそれで良いっす!」

「ま、待て! こういうことは順序という――」

「どおーりゃぁー!」

「わふっ!?」


 突然、そんな声がどこからともなく聞こえて、クルスに覆いかぶさるゼラを吹っ飛ばした。


「この淫乱ビムガン! 何考えてるの!? 馬鹿じゃないの!? 色々すっ飛ばし過ぎよっ!!」


 ゼラを蹴り飛ばしたのは、一体どこから現れたのか、ラフレシアのセシリー。

顔は怒りで歪みつつも、真っ赤に染まっている。


「ビギナ殿、お気を確かに! お嬢様が止めてくださいましたよ!」

「ああ、ううっ……ゼラが、先輩と……さすがにそこまでするとは……!」


 フェアに肩を借りつつ、顔面蒼白のビギナも現れる。


「ゼラねえ様は何をしようとしていたのだ?」

「もうちょっとベラが大きくなったらわかることだから、今は考えないようにしましょうね?」


 最後にベラに車椅子を押されつつ、ロナが姿を現した。


 今日一日、背後から感じていた"複数の気配"はどうやら彼女達だったらしい。

さすがにこの状況は非常にまずい。


「ロ、ロナこれは……なんだ、その!!」


 クルスは慌てふためき、


「ふふ……」


 ロナは笑顔を崩さない。しかしゼラを悪くいうのも絶対だめである。


「この状況は!!」

「どっせーい!」


 ロナの足元から無数の蔓が飛び出した。

 蔓は瞬時にクルスへ絡みつき、拘束された。もはや、逃げられない。


「わ、悪かった! これは俺が! ゼラに責任は無い! 信じてくれ!!」


 遮二無二、クルスは謝罪を叫ぶ。

目の前にまでやってきたロナは更ににっこり微笑んで、


「ふふ、クルスさん覚悟してくださいね?」

「あ、ああ、良いぞ。俺だけで済むのなら、なんでも! それで君の気持ちが晴れるのなら!」

「クルスさんの覚悟わかりました……みなさぁーん! クルスさんはこれで動けません! この隙にみんなでキスしちゃいましょう!」


「「「「「はぁっ!?」」」」


 ロナの発言に、一同は間抜けな声を上げながら、首を傾げた。


「ロ、ロナ!? 君は一体何を!?」

「覚悟してるんですよね? 何されても良いんですよね? だったら黙って、このまま大人しくしていてくださいっ!」

「う、むぅ……」


 ロナはいそいそと車いすを反転させて、未だに唖然としている一同を振り返り大きく手を振った。


「ほらみなさん、早く早く! クルスさんが待ってますよー!」

「そういうことならウチが一番っす!」


 真っ先にゼラが駆け出し、


「ふざけんじゃないわよ、ビムガン! 私が先よ!」


 セシリーも負けじと走り出す。


「わ、私も!! キスくらいなら!! それぐらいならっ!」


 ビギナも錫杖を投げ捨て、向かってきた。


「さっ、ベラもおいでー!。キスってわかるー? クルスさんが大好きならいらっしゃーい!」

「おう、わかるし、クルス大好きなのだ! 僕もするのだー!」


 ロナに促されてベラも飛び出す。


「ほら、こんなチャンス滅多にないわよ! フェアも来なさいよ!」


 既にクルスの隣をしっかり押さえたセシリーは、ぽつんと一人でいたフェアへ叫ぶ。


「わ、私も!? いえ、しかし……」

「良いから来なさい! 命令よ!」

「そ、そうですか、御命令とあらば……」


 フェアも顔を少し赤らめながら、小走りで近づいてくる。


 最後にロナが振り返って来た。

青く透き通るような瞳が、クルスを優しくみつめてくる、


「ロナ、これは……?」

「クルスさん、貴方の周りには、貴方を愛してくれる人がたくさんいます」

「……」

「だから安心してください。貴方はもう一人ではありません。いつまでも貴方を必要としてくれる方が、こんなにも大勢いるんです」


 12の瞳が一斉にクルスを映し出す。

どの瞳にも信用と信頼、そして強い愛情が感じとれ、胸が熱くなる。

 クルスはロナを愛している。しかし同時に、こうして今目の前にいる皆のことを大事に感じているのだと、思い知る。

 誰も欠けて欲しくはない。ずっと皆で共にありたい。この幸せな時間を守り続けたい。


 強くそう思ったクルスは――


「皆、ありがとう。皆の想いに応えられるよう、これからも頑張らせてもらう――さぁ、来いっ!」


 覚悟の言葉。そして煌きだす、12の瞳。


「さぁ、みなさん!」

「先輩、失礼しますっ!」

「これからはウチのこともよろしくっすクルス先輩!」

「チューなのだぁー!」

「私のはじめてあげるんから覚悟なさい!」

「お嬢様の御命令ですので……御免!」


 頬やおでこへに六つの柔らかな唇が添えられ、何とも言えない幸福感が沸き起こった。


(まさか、こんな状況になるとは……)


 かつては仲間に捨てられ、何もかもをも失ったEランク冒険者のクルス。

しかし今の彼には大事な仲間であり、守りたい6人もの大事な娘たちがいる。

 

 ずっとこのまま、こうした変わらぬ時間をロナや皆と過ごして行きたい。

ずっとこのままで、こうして共に有りたい。


 切なる願いだった。

しかしそんな願いへ影を落とすように、たった一つだけ冷たい唇の感触を得る。


 ロナのものだった。


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