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閑章1:空はきっと繋がっている(*ビギナ視点)


「い、いやっ!! やめてくださいっ……!」


「ははっ、嫌よ嫌よも好きの内ってね!」


「そんなこと……! 助けて……先輩っ……!」


「助けになんて来ないって。特にアイツなんてとーっくの昔に死んでるって。もしかしたら、自殺したりしててな!」


「そ、そんな……そんなことはっ!」


「もう忘れなよ、あんなおっさんのことなんて。おっさんなんかよりも、俺の超絶テクニックで身も心も気持ちよくしてやるからさぁ」


「――ッ!?」


「大人しくしてりゃ、悪いようにしないって。なにせ俺はシールエット家の跡取りだ。魔法使いじゃなくなったって、お前ぐらいなんの不自由もなく養ってやるって。まっ、その代金として、たーっぷり楽しませてもらうけどな!」


「やだ……いや……先輩……!」


「ははっ!」


「いやぁぁぁぁぁーー!!」



……

……

……



 悪夢から目覚めたビギナは、窓から差し込む陽の光に顔をしかめた。

 きっと此処ギルドの独特の空気と匂いが、魔法剣士フォーミュラ=シールエットにされたことを思い出させたのだろうと思った。


 あの後、運よく痺れ毒の効果が切れ、フォーミュラを蹴り飛ばして逃げ出せた。

魔法使いにとって命の次に大事な“貞操”はなんとか守り切ることができた。

ボロボロな衣服のまま憲兵隊の詰め所へ駆け込み、ことの次第を泣きながら訴えた。そしてビギナの勇気ある行動は奏功した。


 これ以上騒ぎを大きくしたくはなかったシールエット家の計らいで、彼女はフォーミュラによる強姦未遂によって多額の慰謝料を貰うことになった。同時に、一党から離脱することが認められたのである。

しかし夢を砕かれ、大事な人との絆を断ち切られ、更に身も心も疲れ果てた彼女は、実家のあるショトラサへ戻って行く。これが、クルスに再会するまでのビギナのあらましだった。



 あの時のことを思い出すと、今でも恐怖で身体が竦んだ。フォーミュラに胸をねぶられ、太ももに触れられたことを思い出すたび、吐き気を催した。

 もう二度と、フォーミュラ達とは会いたくはなかった。顔さえも見たくはなかった。

 だけどアルビオンギルドの集会場に居る限り、有名な一党パーティーである彼らに会ってしまう可能性は高いと言わざるを得ない。


 それでもビギナは、恐怖におびえながらも、勇気を出して、毎日アルビオンギルドへ通うようにしていた。


 集会場の隅にある、窓際の日当たりの良い椅子。

 クルスは一人になると、そこに座って、ぼおっとしていることが多かった。

時々子供ような穏やかな顔でうたた寝をしている彼を、目覚めるまで見つめるのが好きだった。

誰にも邪魔されず、彼の匂いを目いっぱい感じられる幸福な時間だった。


 そんなことを思い出しながら、ビギナは彼が気に入っていた席で、彼の様に日々を過ごしていた。


 いつの日かまた、先輩クルスに会えるのではないかと思ったから。


 まだ自分の中にある想いの正体をビギナは分かってはいなかった。

だけども、また逢いたい、一緒に時間を過ごしたいという気持ちは揺らがなかった。

 離れ離れになって初めて、ビギナの中でクルスの存在がどれほど大きいものだったか思い知った。


 またいつか、一緒の時間を。今度こそは決して彼の手を離さずに。

今はお互いに違う世界で生きている。しかし空はどこから見上げても一緒。ならばまた巡り逢えるはず。


――空はきっと繋がっているのだから。


(先輩が好きだった席で、私は待ってます。貴方に逢えるその日まで……)


 ビギナは一人待ち続ける。

 クルスとの再会を信じながら、彼の好きだった席でずっと……


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