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喪失の時(*選択肢あり)


「なに、これ……? なんで……?」


 倒れたロナを見て、ビギナは声を震わせた。


「ねえ様? な、なんで急に寝るのだ……?」


 ベラは困惑した表情を浮かべ、


「なんてことを……くっ!」


 フェアは奥歯を噛み締めた。


「お、おいおい……なんなんっすか、くそっ!!」


 ゼラは砂浜を激しく叩き、


「なに考えてんのよ、ロナぁぁぁ!!」


 セシリーの大絶叫が響き渡った。


 五人は訳がわかないと言った様子でロナ抱きかかえるクルスへ視線を注いでいる。

しかしこれはクルスとロナが当初から想定していたことだった。

そしてこの結末は二人だけの秘密だった。


 魔女を倒すことは容易ではない。たとえ、セシリー達が損害を与えて、制御をかけた闇属性魔法でも倒せるか否か。

だからこそロナは、最後の手段とて"破邪の短刀"を用意していた。

 残り少ない自分の命を、破邪の短刀へ注ぎ、タウバを倒す。皆の未来を守るために。


 クルスはロナを抱き抱え、砂浜を一歩一歩踏みしめる。

 水平線の向こうへ、日が沈みかかり、世界を朱色に染め上げた。

柔らかい潮風が、ロナの髪を靡かせる。


「風が気持ちいいですね……」


 ロナは薄目を開けて、沈みゆく夕日を青い瞳に映す。

儚く、しかし美しい彼女の姿に、クルスはこみ上げて来る何かを感じ取った。


「最期のわがままを聞いてくださってありがとうございます……」

「……」


 ロナの命が消えかかっている。クルスはそれが分かっている。そしてそれを承知の上で、ここにいる。

 彼女は残り少ない命を、皆の未来のために使う決意をした。

そしてクルスは苦悩の末、そうすることを認めて、彼女に協力することにした。


 全ては愛する人の願いを応援するため、願いを叶えるための決断だった。

だからこそ、この結果も受け入れた。受け入れた筈だった。


 しかし、クルスの瞳から涙が零れ落ち、頬へ軌跡を刻んでゆく。

そうなって初めて、自分が強がりで、彼女の死を認めていたのだと思い知った。

 そんな彼の気持ちを悟ってか、ロナは頬を優しく撫でてきた。


「泣かないでください……泣いちゃダメです……」

「……!」

「クルスさんはもう一人じゃありません……貴方の素晴らしさを認めてくれるビギナさんにセシリー、ベラやフェアさん、そしてゼラさんが側にいます……」

「……」

「みんなだけではありません。もっと多くの人が貴方を必要とし、そして愛しています。その愛に応えてあげてください……もっとたくさんの人を幸せにしてあげてください……」

「やはり、君は樹海を出た時から……?」


 ロナは言葉の代わりに微笑んでみせた。


 ロナがビギナや皆の存在を認めたのは、この時に備えてのことだった。

自分が居なくなろうとも、同じように彼を必要とする人がいるようにする。

遅かれ早かれ、たとえタウバとの戦いがなかったとしても、こうした結末は必ずあったのだとクルスは思い知った。


「それが君の、ロナの願いなんだな?」

「……はい。愛した貴方が、多くの人に愛されて、これからも生きて行く。それが私の最期の願いなんです」

「……」

「楽しく、そして幸せな時間をありがとうございました……」


 もはやこれまでだと悟った。しかし彼女を失いたくないのもまた事実だった。



"ロナの意思を最後まで尊重し、彼女の死を受け入れるか?"


 それとも、


"ロナの意思を否定してでも、彼女の生を叫ぶか?"


 相反する意見がクルスの中で渦巻く。激しい葛藤を生み、胸中は嵐のように荒れ狂う。

しかし選ばなければならない。どちらか一方の答えを。

 クルスは意思を固めた。そして彼の選んだ、答えは――



「ダメだ……」

「えっ……?」

「やはりダメだ! ロナ、死ぬな! 俺を一人にするな! 俺はまだ君といたいんだ!!」


 情けないとも思った。彼女の気持ちを踏みにじっている自覚もあった。しかし叫ばずにはいられなかった。涙を流さずにはいられなかった。たとえそれが届かぬ願いだったとしても、それでも尚彼は彼女との別れを惜しみ、涙を流し続ける。


「クルスさん……」

「ようやく一緒に海が見られたんだ! 次はどこがいい!? どこへだって連れってやる! 君の見たいとこ、行きたいところへ連れてゆく! どこだろうと必ず! だから……っ!?」


 ロナはクルスへ顔をよせ、唇を塞いで黙らせた。

 氷のように冷たくなった唇の感触が、悲しく、そして切ない。


「ありがとうございます。でも、その言葉は皆さんに言ってあげてくださいね……」

「ロナ……?」

「…………」


 ロナの手がクルスの頬からするりと落ちた。

まるで眠るように瞳を閉ざす。


 波が打ち寄せ、クルスの叫びをかき消す。

それでも彼は叫び続ける。

叫ばなくては居られなかった。


 しかしどんなに大声をあげても、名前を叫んでも、彼女は目を開けず、静かに身を委ね続けている。

 

「ロナぁ……!」


 涙は枯れ果て、声もかすれ、心もまた愛する人を失った衝撃で壊れかかっていた。

 

 その時、悲しみに暮れるクルスの背中へ誰かが歩み寄ってくる。

振り返るとと、そこに居たのは――



【選択】



*お好みのエンディングへお進みください。全て読んでも支障はありません。


・クルスの後輩、ビギナだった → ビギナEND(116部)


・マンドラゴラのベラだった → ベラEND(117部)


・ラフレシアのセシリーだった → セシリーEND(118部)


・マタンゴのフェアだった → フェアEND(119部)


・ビムガンのゼラだった → ゼラEND(120部)



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