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戦うこと(*フェア視点)


(お嬢様が仰ったとおりだ。此奴はかなりの手練れ。面白い!)

 

 フェアはサーベルでフランを切りつけながらそう思った。

 フェアの斬撃は度重なる戦闘や、クルスとの訓練のおかげで、かなりの速さと正確さを誇っている。

しかし相手は魔神皇の精鋭が一人、フラン・ケン・ジルヴァーナ。


 フランは相変わらず人形のように顔色一つ変えずに、素手でフェアの斬撃を受け流し続けている。


 リーチはサーベルの方が圧倒的にある。有利なのは確か。しかしそれを感じさせないほど、事態は膠着している。

だが、全く隙がないわけではない。


「はぁっ!!」


 フェアは一瞬の隙を狙って、鋭い突きを繰り出した。


「ちっ!」


 さすがのフランも、舌打ちを上げ、飛び退く。

その瞬間をフェアは狙っていた。

 

「カハッ!!」


 美しい顔を大きく歪ませて、フェアは口から圧縮した胞子の砲弾"麻痺胞子弾パラライズシュート"を吐き出した。

 未だに宙にいたフランはそれを交わすことができず、黄色の煙弾に激しく殴打され、吹っ飛んだ。

 

(やったか!?)


 しかしフランは煙の中からよろよろと起き上がった。


「麻痺状態異常攻撃。胞子由来。そんなものは、ホムンクルスのワタシには効かない」


 フランは見せつけるように拳を握ったり、開いたりしてみせた。


 状態異常攻撃は通じない。これは純粋な力比べだとフェアは思った。

同時に既に死亡し、凍り付いているはずのフェア=チャイルドの身体が、熱を持ち、血肉が踊るかのような感覚を抱く。

 

「ふふっ……くははははっ!!」


 思わず高笑いをあげたフェアへフランは首を傾げた。

 

「何が面白いか、魔物!?」

「いや、すまない! お嬢様から規格外の強さと伺ってはいたが、まさかこれほどとは! さすがは五魔刃のお一人!」

「愉悦、快楽、興奮……何故だ? 多くの人間は、私を前にして、恐怖、後悔、絶望を抱く」

「確かにそうだ! おそらく大多数の人や魔物は貴様を前にすれば、慄くだろう。だがな!」


 フェアはサーベルを構える。体が熱く、強い興奮を覚えた。

 

「貴様のような強敵と出会い、武をぶつけ合えることに……今この瞬間、私は喜びを覚えている。なぜならば貴様を倒すことで、更なる力が得られるからだ!」

「……わからない。戦いは所詮人殺し。武は殺人の方法。魔神皇様が、ライン様が目指した世界にはいらない要素。憎むべきこと! 高めることに何の意味もない!」


 フランの表情が大きく歪む。明かな不快感の現れ。

この人形のような敵は、心底"戦い"というものを憎んでいるらしい。


「確かに貴様の言うとおりだ。戦いは人殺しで、武を磨くことは殺人法を鍛錬することやもしれん。しかし――!」


 フェアはサーベルをフランへ突きつけた。

 

「大事な仲間が危機に瀕した時、私はこの命を燃やし、救いたい! 私の武は私にとって愛する人々を守るための技。戦いこそ己を高め、大事な人々を守る私の力となるもの! 故に私は武を求め、力を欲する! 大事な仲間を守るために!」

「己の武を、他人で飾る。他人のためと言う――愚か!」


 フランは強い憎悪のみを瞳に宿し、フェアを睨んだ。


「武を欲する者は所詮、自分の存在を知らしめたいだけの愚か者。武はただの暴力。他人を、他種族をいかに効率的に殺すか探る方法。極めて動物的な、原始的な欲求。そんなものを望み、あまつさえ、他人のためと言い張って振りかざすお前は悪! ワタシにとっての最たる悪!」

「悪か……それでも私は構わんよ」


 今度はフェアからフランを睨み返す。


「武が悪かなんなのかなどと考えることに興味はない。仲間へ降りかかる火の粉は私が払う。だから、平穏を脅かした貴様を倒す! 倒した結果として得らえる強さを喜ぶ! そしてこれからも高みを目指す! どんな敵が来ようとも、皆を守れる力を手にするために! 私は悪といわれようとも、戦い続ける! 戦えることを喜ぶ!」


 フェアの意志を受け、フランはより一層、氷のように冷たい殺気を放った。

静かに、まるで被造物のように、綺麗に拳を構え、圧倒的な敵意をフェアへ向けてくる。

 

「戦いは否定されるべきもの。武を喜ぶものは、殺人を肯定する者。戦いを望むものは、戦乱の火種。悪鬼羅刹と相違なし。“自分は世界最後の殺人鬼となる”――それがライン様の御意思! ワタシは彼の意思を体現するために存在する! 故にワタシの意思はライン様の意思! よって、悪鬼羅刹たるお前を危険分子とみなし排除する!」 


 フランは“怒り”に似た感情を爆発させ、その想いのように拳で地面を強くうがった。


傀儡召喚サモンゴーレム!」


 穿った地面から灰色の魔力が噴出し、フランを飲み込み膨らむ。

 フランを呑み込んだ大地は巨大な腕へ、脚へと膨張してゆく。

そうして現れたのは、見上げるほど巨大な岩巨人ゴーレムだった。


「武を喜ぶ邪悪なお前を排除する! ライン様に認めて頂いた五魔刃三ノ刃の称号にかけて!」


 岩巨人の胸に埋まるフランは怒りを滲ませてそう言い放った。

 敵も全力。ならば――


「面白い! そちらが全力ならば、こちらも!」


 フェアもまたサーベルを地面へ突き立てた。


「生えよ、聖鎧せいがい! そして我が力となれ!」


 蔓がのび、フェア自身を飲み込んでゆく。

そしてフランの岩巨人と変わらない大きさの蔓で形作られた"植物巨人プラントジン"が姿を現した。


「小癪。武を喜ぶもの――殲滅!」

「フラン・ケン・ジルヴァーナ! 貴様を退け、私は更なる頂を目指す!」


 不毛の大地で、それぞれの"戦う意味"をもった戦士がぶつかり合った。


 戦いを否定する者、肯定する者。

 思想は破壊力を持つ力となって、争いの音が戦場へ響き渡る。


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