21 リングレントのアリシア
少し長いです。
リングレントから最新式の馬車がルドヴィーグ伯爵家のエントランスに到着した時、ルドヴィーグ伯爵家の従者達は度肝を抜かれながら総出で出迎えた。
アリシアが派遣した大きな馬車は二台続けて入って来ている。一台目は空のまま、二台目にはルドヴィーグ伯爵とその家族への贈り物が積まれていた。更に馬に乗ったリングレントの騎士が二人、護衛としてついており至れり尽くせりである。
「アリシア様の命でブルーナ様をお迎えに上がりました。私はルドック、そして私の部下のグラセルの二人で護衛致します」
ルドヴィーグ伯爵も丁寧に迎え二人の騎士を屋敷内に招き入れた。その間に従者達は荷物の入れ替えを行い、丸一日かけ全てを整えた。
出発の朝、ブルーナはルドヴィーグ伯爵の頬に感謝を込めてキスをした。みんなの見ている前で頬にキスをするなど初めての事でルドヴィーグ伯爵は驚いた。そしてその喜びも束の間「決して無理はするな」と娘を送り出した。リングレントまでの旅は少なくとも一週間かかると見ていい。ブルーナの体調だけが心配だった。
最新式の馬車は実に爽快だった。揺れも少なく車輪の音も心持ち小さく聞こえる。ブルーナは窓の外を眺め初めての旅路を楽しんだ。冷たい風は吹いていたが秋の森はまだ紅葉が広がり落ちた葉も多くあった。
昼間は街を抜け森を抜けまた街に入り、夜は宿を取ったが、それが叶わない場合は森の一角で馬車の中をベッドに組み換えてもらいそこで就寝した。
騎士や御者達は旅慣れていると見えて焚火を焚き、その近くで交代して火の番をしながら休む。窓からそのチラチラとした明かりが見え、ブルーナはそれすらも楽しんだ。
三日目の朝、この日は特に気温が下がった。エルダはブルーナの着ている服の上から更に厚手のショールを掛けてやる。
「少し疲れたのではありませんか?」
エルダの声にブルーナは窓から目線を離した。流石に一日中移動するのは身体に堪える。ブルーナは横になりたかった。揺れは我慢出来るが、土の上を走る車輪が石を踏むたびに大きな揺れが起こる。それに対抗するためには体力が必要だった。
「少しね……」
それでもブルーナはまだ頑張れると思っていた。だがエルダはカーテンを開き隣を走る騎士のルドックに急いで声を掛ける。
「お願いです。この馬車を寝台へ作り替えては頂けないでしょうか?」
騎士達はブルーナの状態を少し聞かされていた。エルダの申し出に彼等は馬車を止め、快く寝台へと作り替えられてゆく。
「体を休めながらゆっくり行きましょう」
ルドヴィーグ伯爵と同じ位の年齢のルドックがブルーナを安心させるように笑った。
寝台に作り替えられた後はブルーナだけを寝かせ、エルダは荷物と一緒にもう一台の馬車へ行くと言う。
「エルダ、ごめんなさい」
「何を言うのですか? 旅の間は眠りも浅いのですから。出来ればしっかりとお休みください。次に休憩の時に様子を見ますが、薬はちゃんとお持ちですか?」
「えぇ、ここに」
「水はまだありますね」
ブルーナはドレスのポケットを探った。そこにはあのケースがある。エルダは馬車の壁際にあるコルクの蓋の陶器の瓶を持ち上げ水の確認すると、エルダはそれをブルーナから離れた。
ブルーナは揺れる馬車の中で横になり目を閉じる。確かに横になると楽になった。そのまま旅は続いて行く。その日一日寝台にしたまま馬車は進んで行った。
四日目の朝、ルガリアードの国境を抜けた。ここまでの道のりは体調不良以外は驚くほど順調だ。休憩のために馬車が止まった時、扉が叩かれ開くとルドックが立っていた。
「ブルーナ様、少し降りませんか? 身体を伸ばすのにいい場所に来ました」
ルドックが手を貸してブルーナが馬車を降りると、馬車は小高い丘の上に止まっていた。そしてブルーナの目の前には広大な緑の土地が広がっている。
「まぁ……ここはもうリングレントですか?」
「えぇ、そうです。リングレントはルガリアードに比べ平地が多い。ですからこうして見渡す事ができるのです。この方向の更に先にリングレントの王都があります。王都に入れば今度は広い海が見えて来ますよ。これから三日以内には着くでしょう」
ルドックは地平線の奥を指差した。
「広いのですね……」
ブルーナは感嘆した声で呟いた。自分のいた家など微々たる小さな世界だった。目の前の広大な土地のもっと先に王都があり、更にその先に海があると説明を受け、ブルーナは自分がちっぽけな存在である事を認識したのだ。世界は広い。この世の中は見えない程広い世界なのだ。
「お嬢様、お入りになりませんと風邪をひいてはいけませんから……」
後から厚手のショールを持ったエルダがブルーナに声を掛けた。
「えぇ、でも、もう少しこの景色を見たいの……」
ブルーナはキラキラとした瞳をエルダに見せる。エルダは苦笑しショールでブルーナの細い肩を包んだ。程良い道幅のその場所で、騎士と御者達は休憩を取ることにしたようだ。のんびりと進んで入るものの座りっぱなしはやはりキツい。彼等は手足を伸ばし薪を拾い始めた。
「薪にするのはどのような木が良いのですか?」
ブルーナはルドックに話しかけた。
「おや、ブルーナ様。手伝って下さるのですか?」
「えぇ、出来る事はやって見たいのです」
ルドックはブルーナの好奇心のある眼に好感を持った。
「それは良い心がけです。では、このような細い枝と、あそこにあるような少し太い枝を合わせてくべたいのですが……枝は私がやるので、ブルーナ様は落ち葉を拾ってくださいますか?」
そう言いながらルドックは太い枝を取って来た。そして足を使い枝を折る。ブルーナがそれを見ていると彼の部下のグラセルが声を掛けてきた。
「ブルーナ様、ほらこうして両手で枯れ葉をかき集めるのです」
ブルーナに実践して見せるとグラセルはルドックの近くに枯れ葉の山を置いた。ルドックはその枯れ葉の山に枝を組み合わせ更に大きな山を作る。
「もう少し枯れ葉をください」
ブルーナはエルダと共に慌てて枯れ葉を拾い集めその上に乗せた。
「ここからが少しコツが要ります」
ルドックは腰に着けた小さな皮の袋から二種類の石を取り出した。そして屈み込み枯れ葉の前でその二つの石をカツッカツッと叩いた。すると小さな火花が散る。
「まぁ……いつも何をしているのかと思っていました。火が着くのですね?」
ブルーナは面白そうにルドックの手元を見ている。ルドックは笑い出した。
「私にもあなたより少し歳が下の娘が居るのですが、あの子が初めて火をつけるのを見た時と同じ顔をしていますよ。あの子が見たのは五歳の時ですがね」
尚も笑うルドックにブルーナは情けない表情をした。
「仕方ありませんわ。私は今が初めて見たのですから」
「それはそうですね」
ルドックは父親らしい大らかな笑みでブルーナを見ていた。グラセルも微笑ましいものを見るようにブルーナを見ている。
「火打石もやってみますか?」
「良いのですか?」
ブルーナはルドックに使い方を教えて貰うが流石にこれは出来なかった。ルドックがもう一度枯れ葉の上で叩くように擦り合わせると、落ち葉に着いた火種は直ぐに広がり小枝に燃え移った。そこに御者が近くの小川から水を汲んできた鍋を置き水を沸騰させる。エルダが荷物の中から木の柄杓とお椀を持って来ると、グラセルはそれにお湯を入れブルーナとエルダに渡した。
「身体が温まりますよ。お茶の葉があれば良かったのですが、生憎切らしてしまいました。次の街で買うまではお湯だけです」
「構いません」
グラセルは申し訳なさそうに苦笑したがブルーナは素直に嬉しかった。
「ありがとうございます」
二人が石に座りお椀のお湯を飲むと驚くほど美味しく感じる。不思議なものだ。開放感のある外で飲むとただのお湯でも美味しく感じる。そう言えばアリシアとピクニックへ行った時もそうだった。ブルーナはその時のことを思い出しフフッと笑った
「美味しい……」
思わず声に出したブルーナにルドックは笑って答えた。
「美しい景色の中ですからね。ただのお湯も旨くなるのです」
そうして旅は続き、王都の城壁が見えてきた時、ブルーナは初めて震える思いがした。大きな城壁の向こうに海が見えている。海はどこまでもその先全てに広がっていた。
「着きましたね」
エルダが笑顔で言う。ブルーナは頷きながらただ夢中で海を見た。馬車の扉が叩かれ、エルダが返事をし扉を開けるとルドックが笑顔で立っていた。
「見えますか? あれが海ですよ」
ブルーナはニッコリと笑った。
「はい、とうとう着いたのですね」
「えぇ、着きました。これから王都内へ入りそのまま王城へ向かいます。もう少しですよ」
「城へ向かうのですか?」
「えぇ、そうですよ」
ブルーナは少し驚いた。アリシアはどこに留まっているのか。普通ならばアルヴァンの家の離れ、もしくはアルヴァンの親戚の家辺りだと思うのだが……。
実はこの時ブルーナはアリシアがディオニシスの妃になる事をまだ知らなかった。アルヴァンとルガリアードのリナレス城で出会った時、彼は騎士だと言っていた。ブルーナは世間を知らず、それを信じたのである。
ブルーナの視界には堂々たるリングレントの城壁がある。もう直ぐアリシアに会える。その喜びはブルーナをはやる気持ちに駆り立てた。
城壁が開けられブルーナの乗る馬車が入って行くと、街はガラリと雰囲気を変えた。今まで通った街とは明らかに賑わいが違う。通りの石畳では人々が歩き回り、様々な音がしている。ブルーナは馬車の窓からずっと外を見ていた。ブルーナはルガリアードの繁華街にすらいった事はない。街と言うものは普段もこの賑やかさなのだろうか。
暫くすると、遠くに城が見え始めた。大きくどっしりとした城はルガリアードのリナレス城とは少し雰囲気が違った。リナレス城が繊細ならこちらは明らかに厳しい。城への門は大きく広く開けられ馬車は当たり前に中へ入って行く。
城のエントランスへ着くとルドックが城の衛兵に言葉を掛け扉をノックした。ブルーナは姿勢を正し馬車を降りた。それを確認し衛兵は直ぐに城の従者を呼んだ。
「ブルーナ・リアス・ド・ルドヴィーグ様と侍女のエルダ様ですね。こちらへどうぞ」
従者は先に立って歩き始めた。馬車の荷物は下働きの者達が外へ出し始めていた。ブルーナはエルダと共に従者の後をついて行く。
リングレントの城は大きな柱が並ぶ風通しの良い作りをしていた。温暖な気候が建築に影響しているのは一目瞭然である。開放的な廊下を行き、奥へと進む内に壁の様子が変わって来た。奥に行くにつれ豪華さがなくなりシックに纏められている。そして、従者は一つの部屋の前で止まり、部屋の扉を開けた。
部屋の中は天井が高く大きな窓があり、そのままで外が見えるようになっていた。その場所から見える物は恐らく中庭なのだろう、木々が整えられ気持ちよく整然と並んでいる。
「こちらの部屋をお使いください。もう暫く致しますとアリシア様がいらっしゃいますので……それまでお寛ぎください」
従者はサイドテーブルの上にあるお茶を準備し始めた。
「あぁ……それは私にさせて下さいませんか?」
その従者にエルダが慌てて言い、従者は礼をして出て行った。従者が出て行った後、ブルーナが不思議そうに口を開いた。
「ねぇ、エルダ……どういう事だと思う? ここはリングレントのお城でしょう? ここで結婚の儀を行うのかしら? リングレントでは貴族の結婚式は城で行うの? 国によって違うのかしらね……」
エルダも首を傾げた。
「さぁ……私には何とも……ただ、このお部屋は客間としても相当位の高い方がいらっしゃる場所だと思います。このような豪華な場所は知りませんから」
「……そうねぇ。私達には相応ではないわね」
ブルーナも部屋を見回した。天井は高く窓は広く、部屋の中の続き部屋には扉は付いていないが奥にも小さな廊下が続いている。恐らく、公爵クラスの爵位を持つ者が宿泊する場所なのではないだろうか。
「お嬢様、先ずはお茶を頂きましょう。ほら、アリシア様が木苺の砂糖漬けも用意してくださっていますよ」
「あら……」
エルダに言われブルーナは椅子に座った。そして木苺の砂糖漬けを一つカップに落とす。窓の外を見ながら旅の最中に体調が悪くなくて良かったと一息ついた。その時、扉が叩かれた。
エルダが扉を開けると満面笑みのアリシアが飛び込んで来た。ブルーナは慌てて立ち上がる。
「ブルーナ! 待っていたわ! 本当に心から待っていたわ!」
アリシアはブルーナに抱きつきギュッと抱きしめた。それを抱き締め返し、ブルーナは目を瞑りホゥッと息を吐いた。久し振りの友は変わらず美しく、はち切れんばかりの笑顔で迎え入れてくれる。それが何より嬉しい。
「こらこら、ブルーナ嬢が動けずに困っているではないか」
その後ろから声がした。ブルーナが目を開けるとアルヴァンが立っていた。こちらも以前の通り相変わらずのニヒルな雰囲気を纏っている。
「アルヴァン様……お久しぶりで御座います。この度は、ご結婚おめでとう御座います」
ブルーナがアリシアから離れ礼を尽くしながら挨拶すると、アルヴァンはにこやかに笑い返した。
「いや、こちらこそ遠い所を来てくれてありがたいと思っている。旅は滞りなく順調だったようだな。ルドックが貴女を褒めていた」
「褒める?……私は何もしておりませんが……」
「いや、好奇心旺盛な女性だと言っておったぞ」
アルヴァンはそう言って笑い出した。ブルーナが恐縮しながらアリシアを見ると、アリシアは幸せそうに微笑んでいる。それだけでこの二人がちゃんと信頼にあるのだと分かった。
「私は色々と準備がある。今日は挨拶に来ただけだが……アリシアは置いていく。二人で存分に話せばいい」
「ありがとう御座います」
アルヴァンは部屋を出て行った。
「ブルーナ、木苺茶を飲んでいたの? エルダ、私にも下さる?」
「勿論ですとも」
エルダはアリシアの分もお茶を入れた。
「ルティアはどうしたの? いないの?」
いつもアリシアの後ろにいたルティアの姿がないのを不思議に思いブルーナがそういうと、アリシアは溜息をついた。
「ルティアは大変なのよ。五日後が結婚式だから頑張り過ぎてしまってぎっくり腰を起こしてしまったの。それも今朝の事よ。ブルーナとエルダに会いたがっていたわ」
「あらまぁ……」
「それではお見舞いに行きませんと……」
ブルーナとエルダが心配顔になるとアリシアは苦笑した。
「いいのよ。少し頑張りすぎだもの。ゆっくり寝かせておくわ。五日も経てばよくなるでしょうから」
それからブルーナとアリシアは色々な話をした。
「そういえばアリシア。リングレントって面白い国なのね。貴族は城で結婚の儀を行うの?」
アリシアはブルーナの問いにきょとんとした表情になった。
「だって、リングレントに入ってから、そのまま城へ入って来たのよ。それに城の中に部屋まで用意されているなんて……驚いたわ」
ブルーナの言葉にアリシアは困った顔になった。
「ブルーナ……私、貴女に話してなかったのかしら?」
「何を?」
「私の結婚する方の事」
「聞いているわ。アルヴァン様でしょう? 先程いらしたわ」
「そのアルヴァン様の事……」
「アルヴァン様がどうしたの?」
アリシアは息を吐いて一口お茶を飲んだ。ブルーナは不思議そうにそのアリシアの行動を見ていた。何故すぐに話さないのだろう。
「そうか、分かったわ。貴女、お父上のルドヴィーグ伯爵とお話ししていないでしょう?」
「父と? 何の話? 必要以上に家族とは話さない事を貴女も知っているでしょう?」
アリシアはまた溜息をついた。
「これを機に話すかと思ったのよ。聞いていないなんて……計算違いだわね」
「だから、何なの? よく分からないけれど、アルヴァン様が問題なの?」
「そう、この国の王太子なのよ、あの方……」
「……え?」
サラリと言ったアリシアの言葉にブルーナの手が止まった。
——王太子? 王太子というのは次期国王になる人のことを言うのよ。アルヴァン様が? 王太子? いいえ、王太子の名前はディオニシスだったわ……。
ブルーナは次の言葉が出ないままアリシアを見つめていた。
「だからね。あの方はディオニシス・アルヴァン・デリュイ・エドゥワール・リングレント様、王太子なの。あの方リナレス城でお会いした時、自分のセカンドネームと側近の名前を語っていたのよ。酷いでしょう?」
ガシャンとお茶のカップがテーブルに落ちた。一気にブルーナの顔色が悪くなる。
「お、お嬢様? 大丈夫で御座いますか?」
エルダの声が聞こえた。何と言う事だ。ブルーナの頭の中で色々なものが浮かんだ。自分の身の回りの人間が二人も王太子に見初められたのだ。これ以上の驚きがあるだろうか。
エレーヌの事ではこれ程驚かなかった。自国の王子に見初められたからだ。それにエレーヌが嫁ぐまでには時間がある。だからエレーヌとは今のうちに時間をたくさん取ろうと思った。だがアリシアは……。
「……本当なの?」
「えぇ、本当なの」
零れたお茶を気にせずブルーナはカップを持った。そして一口飲む。
「……」
ブルーナの口の中で甘酸っぱい味が広がった。少し俯いたブルーナをアリシアが覗き込むと、ブルーナの目には涙が溢れていた。
「……ブルーナ? ねぇ、ブルーナ。どうしたの?」
「信じられない……どうしてこうも私は不幸なの? せっかく出来た親友は隣国に嫁ぐと思ったら、この国の王太子ですって? 王太子と結婚すると言う事は、城の外にはなかなか出られないと言う事でしょう? 出られないと言う事は里帰りも出来ない。里帰りが出来ないなら、殆どもう二度と会えないと言う事ではなくて?」
ブルーナの小言をアリシアは優しく笑った。
「大丈夫、私の権限で貴女を招待するから」
「そんな事って……またあの道のりを来なくてはならないわ」
「良いじゃない。会いに来てよ、ブルーナ。何ならあの馬車を貴女にあげるわ。貴女は私にとって特別である事をアルヴァン様も分かっているの」
アリシアが慰めるようにブルーナの肩に手を置いた。友の手は暖かい。
「ねぇ、ブルーナ。ちゃんと祝って下さるでしょう?」
ブルーナは頷いた。そう、寂しいだけなのだ。今にして実感が湧き起こった。友の幸せは嬉しい。だが同時にどうしようもない寂しさが沸き起こる。会わずにいた期間が長くても、会えばこうして直ぐに打ち解ける。この感覚がさらにブルーナを寂しい気持ちに追い込んだ。
だがアリシアは大事な友だ。ブルーナは顔を上げアリシアを見た。そう言えばまだお祝いの言葉も言ってはいなかった。涙を拭い少し赤い目を瞬きブルーナは一生懸命に笑った。
「おめでとうアリシア。貴女の幸せを一番に願うわ」
「ありがとうブルーナ……」
アリシアはハンカチを出すとブルーナの頬の涙を拭った。
アリシアの結婚相手がディオニシスだとわかったブルーナ。
寂しさが募ります。




