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女になりたかった女より女な男


「あらあら。船乗りなのに船酔いだなんて情けないこと」


エイブラハムは紅茶を優雅にすすりながら、船酔いしているユウに呆れた様に言った。


「う、うるへぇ〜。酔っちまうもんはしゃーないだろぉ」


ユウは呂律があまり回ってない様でフラフラしながら反論した。


海は大好きなのに船酔いする海賊系勇者。しかも自分の船で。

なんか可哀想だなぁ。



「いやっほーーーい☆」


ザバーーン!

そんなユウをよそにシャルルは海へダイブした。


「あへへ!お魚さん達と一緒に泳ぐのだーー☆」


なんて自由奔放な奴だ。

戦闘の時はなんか一瞬かっこよかったのに、やっぱりコイツは頭ぶっ飛んでいる。





船には俺とエイブラハム、そしてグロッキーなユウとラヴィニア。ある種2人っきりという事で、俺は気になっていた事をエイブラハムに聞いてみる事にした。


「なあ。エイブラハムは、その…、なんで男なのに女のカッコって言うか、ドレス着てるんだ?」


デリケートな所なのかもしれないし、言葉選びが難しいが俺はその疑問が気になってならない。勿論他の2人も気になるが。


「そんなに辿々(たどたど)しく聞いて頂かなくて結構ですわよ」


エイブラハムはニコッと笑い、ティーカップをソーサラーに置いた。


「…わたくしはですね。御伽話のお姫様になりたかったのですよ」


昔の事を話す様に中空を眺め、彼は語り始めた。


「この世界にもありますでしょう?一国のお姫様が別の国の王子様と恋に落ち、悪い魔女にさらわれたお姫様の為に王子様は戦い魔女を倒し、めでたく2人は結ばれてめでたしめでたし…。わたくしはこんな世界に憧れたのですよ。男であるわたくしが女であるお姫様にキラキラとした感情を抱く様になりました」


キコキコとエイブラハムが座るロッキングチェアーが揺れる。


「わたくしの生まれた家は山奥の田舎の農家で、そう言ったきらびやかな世界とは無縁でした。ましてや一人息子でしたので親の農業を継ぐ為、毎日畑仕事をして男らしく育ってきました。裕福な家庭ではなかったので、その時読んだその絵本もボロボロでした。ですが、その本の中の世界はとても色鮮やかで美しく、わたくしの汗や泥を綺麗に洗い流してくれるものでした」


彼は目をつむり、思い出に浸っているかの様に優しく語った。柔らかそうなピンク色の髪が潮風にフワッとなびく。


「こんなキラキラとした世界で、命を賭しても守りたいと思われる様な存在になりたい!だから、お姫様になりたいと思ったのですよ。わたくしはその事を両親に打ち明けました。当然大反対するお父様お母様と喧嘩し家を出ました………」


少し憂いを帯びた表情になったと思ったが、直ぐにニコッと笑い


「そうしてわたくしは見ての通りの(よそ)いになったのですよ」


女性より女性なその男性は自分のルーツを語ってくれた。



「そう…だったのか」


俺はまさかそんな過去があるだなんて知らなかった。言葉は悪いがただそういう癖があるだけなのかと思っていたからだ。


「ふふ。世間からしたら変な人間である事は間違いですわよ」


「いやぁ、まあ、そんなことは……。ただ、なんでそこから勇者になろうって思ったんだ?」


格好のルーツは分かったけど、そこから勇者になろうって思った理由がこれもまた謎であった。


「それはーーーー」




ドーーーーン!!

何かがぶつかった様なそんな大きな音が鳴り響き、俺たちの会話を断ち切った。

衝撃と高波により船が大きく揺れた。


「ぬわっ、だーーっ!なんだなんだ!?」


グロッキー状態だったユウが跳ね起きた。


俺達の船から遠くに鳥の様な集まりが見えた。

それは遠くから見たら鳥の様だが、数多のドラゴンであった。ドラゴンの上には兜を被った騎士達が乗っていた。


「目標確認。殲滅せよ!!」


先頭のドラゴンに乗り、漆黒の鎧に仮面型の防具(面頬)を着けた騎士の号令が響く。


戦いが、また始まるーーーー。

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