異世界の話は一旦これにて
ーーーコツン、コツン
「ああ、なんと嘆かわしい事でしょう。一度だけでなく二度も…!あの悪魔達に辛酸を舐めさせられるなんて。悪魔は神が堕落した姿。ならば神は!悪魔に同情し味方しているのだろうか……」
まるで歌劇を観ているかの様だ…。
綺麗な顔立ちに切れ長の目、黒く長い髪を後ろでひと結びし、同じく黒い燕尾服、それに相反するかの様に白い綿手袋。埃一つない磨かれた革靴。その左目の下には#(いげた)模様のペイントが泣きぼくろの様にある。
コツン。
男は大げな身振り手振りをし続ける。
「しかし我々は屈しない…!崇高たる王の為に!女神アルテナの光指す限り」
天を仰ぐかの様な姿。
「相も変わらず大層なお出迎え痛み入ります、レーゲンワイズ殿」
執事の様な格好をしているこの美男子は、王のただ1人の側近であり、唯一この国で王に発言できる人物なのだ。
「ガオウ騎士団長、よくぞご無事で」
「異世界での戦況を王にお伝えしたいのですが、謁見は叶いますでしょうか?」
「その問いの答えは、死者に再び命の火を灯す様なもの、太陽を冷たく凍らせようとするもの」
また始まった。
レーゲンワイズは劇の様に頭に手をやり大げさに比喩表現をした。
「……つまりは、此度も叶わぬという事ですね」
「ガオウ騎士団長、王はとても傷心しております。それは凛とした可憐な花が萎んでしまう様な悲しき事です。貴方のやるべき事は一刻も早くあの悪魔達を断罪しその首を王へ捧げる事です」
「……仰る通りです」
「報告など無用です、ガオウ騎士団長。貴方の油断、判断ミス、戦力不足が今回の敗因。王は失望していましたよ」
「…………」
やはり監視しているのか。
「ですが私は貴方に期待をしています!王直属の騎士団長として、これ以上の失態は王のみならず、私も悲観してしまう事をお忘れなく」
「肝に命じます」
「では、次の出撃に備えて下さい。おってまたご連絡致します」
ニコッとレーゲンワイズは笑った。
その笑みには色々なものが含まれていた。
ーーー僕はあの男が不好きだ。
雲の様な掴めない空気感、王を心酔する思想、そしてなによりあの大げさな喋り口調。
15年前のクーデターを企てたのもあの男なのではないかと城の人間達から噂されている。
ガチャン。
鉄製の扉を開け中に入る。
僕は城を離れ、城下町の外れにある鍛冶屋に入った。
「済まないイノ、剣をまた一つ拵えてくれないか」
中には色々な武器が壁に飾られていて、奥には鉄を打つ火床がある。そこで鉄を打っていた男が手を止めこちらを見て驚いてた。
「ええーー?ガオウさんまーた剣ダメにしちゃったん?」
灰色のサロペットを着用し、火を扱う為か手首までしっかり作業用の長袖が覆っている。安全用の手袋、靴、ゴーグルを身につけ、ボサボサ頭のオレンジ色の髪の毛が鳥の巣の様に飛び跳ねている。
僕達騎士団の剣を作ってくれている鍛冶屋のイノ、この店を一人で切り盛りしている。
「堪忍して〜な〜。戦いの度に毎度毎度折ってくるから、あれいつもより結構頑丈に作ったんやで〜」
「今回は折れたんじゃなく折ったんだ、僕が仕方なくな」
包帯を巻いた左腕を見せながら言った。
「ええええーーー!あれ素手で折ったん!?バリやばい怪力やんけ!!」
イノはゴーグルを外し、目を見開いて言った。
「だから今回はいつもの2倍支払う」
「ん〜、まぁこっちとしては売り上げになるからエエねんけど…」
「では、宜しく頼む」




