表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

二週目の魔王様

作者: 不思議な蓮

ジャンル分けのどれに当たるのか分からなかったので、本編と同じにしました。

補足しておきますと、勇者が異世界転移人です。

「ふっ、ここまで来たか、勇者リョウヤよ。どうだ? 世界の半分をやる、私の仲間にならないか?」

「有名なセリフキター! 本当にそれっていうものなんだな、答えはもちろんノーだ。それにイエスって答えたらバッドエンドになって初めからって言うのも知ってるからな!」

「馬鹿なヤツめ、大人しく我に従っていれば命も助かり、広大な領地も手に入れられたというのに……」

「お前を倒して世界を救い、俺は真の勇者となる。それで後腐れなくして元の世界に帰るんだ! いくぞ、ガク、カズヒロ!」

「「おう!」」

「私はお前が何度死んでも蘇り、私を殺すまで向かってくることは知っている。ならば! 永遠に貴様らを殺し続け、教会から復活する気が失せるまでやり続けるのみよ! いくぞ、勇者共!」



▽ ▽ ▽



なぜ私は生きている? 私は確かに三回目の奴らとの戦いに負けたはずだ。クソッ、あそこでかいしんのいちげきさえくらわなければ……

まぁいい、もうすぎた話だ。これ以上悔やんだところで過去が変えられるわけでもないし、今私が生きていることこそが重要なのだ。そうすれば、まだ魔族の民を守ることが出来る。


ふむ? 新しい魔法が使えるようになっているな。なになに、『記憶魔法』? 世界の理から付与されたもの、だと? 訳が分からないが使ってみるか。


「『記憶魔法』」


MP消費もない、か。これはかなりしょっぱい魔法なのかもしれんな。


『今謎に思っていることをお答えください』


詠唱者に語りかけてくる魔法だと? こんな魔法は初めてだ、面白い。相当愉快な気持ちにさせてくれるではないか。


「なぜ私は生きている? 私は確かに勇者達に殺されたはずだが」

『それに関する答えが含まれる世界の記憶を再生します、目を閉じて下さい』


ふむ、こうすれば良いのか? おぉ! 瞼の裏に光景が浮かぶぞ!

これは……私が殺された直後の話か? 勇者が人間どもの国で帰還の準備を進めているな。おっ、声も聞こえてきたぞ、かなり高度な魔法だな。


「あー、これでリョウヤも帰っちゃうんだね」

「しゃーないやろ、そもそも異世界人であるリョウヤがここまでしてくれたって言うことに感謝すべきなんや」

「いや、元の世界の友達に似ているふたりを放っておくわけにもいかないしな。その結果何度も死ぬことになったが、最終的に勝てて良かったよ」

「そっちの世界では僕の妹も生きているんだろ? 戻ったら伝えてくれ、失ったらもう二度と戻ってこないんだから、絶対に守ってやるんだぞ、って」

「同じような人間だっちゅーなら、言われんでもそんぐらいやってるやろ、なぁ、リョウヤ?」

「あぁ、安心してくれ、向こうのお前もお前に負けず劣らずシスコンだったから。じゃあ、俺帰るわ。上手くやってくれよ?」

「分かった、じゃあね」

「ほんじゃ、向こうのワイにもよろしゅう頼むわ」


うむ、やはり勇者は元の世界に帰っていくようだな。魔王なき世界での勇者はかなりの過剰戦力であり、世界のバランスを崩す存在でしかないからな。勇者ある所に魔王あり、魔王ある所に勇者ありだ。

つまりだ、私がいるということは勇者がまだ残っているということか? おっと、まだ続きがあった。どれどれ?


「なぁ、カズヒロ。少し話を聞いてくれないか?」

「どうしたリョウヤ? 帰らないのか?」

「いや、帰ろうと思ったらだな、選択肢が見えたんだ。一つは普通に帰る、もう一つは巫女が仲間になるかもしれないこの世界でもう1度やり直す、というものなんだ」

「それのどこに僕が関係あるって言うんだい?」

「いや、ワイにはもう分かったで。その巫女ちゃん、ユカリちゃんのことやろ?」

「あぁ、そうなんだ。つまりだ、俺がもう1回死ぬ苦しみを何度か味わえば、この世界では死んでしまったゆかりちゃんを取り戻すことが出来ると思うんだ」

「えっ!? それは是非そうしてもらいたい! けど、そうするとリョウヤは今回みたいに辛い旅をしないといけないんだろ? それは悪いよ」

「いや、俺もゆかりちゃんが死んでしまっているって言うのは心残りだったんだ。それをやり直すチャンスがもらえて、お前が望んでるって言うならもう1回やってくるよ」

「ホンマのところはこの男しかいないパーティーじゃなくて、女の子もいる華やかなパーティーで世界を巡りたいっちゅーのがあるんやないか?」

「リョウヤ? 妹に手を出すつもりでそう言ってるんだったら、俺が今ここで魔王となって、お前を返さずに殺し続けるよ?」

「ガク、適当なことを言うな。元の世界で俺もゆかりちゃんと仲が良かったから、一緒に回りたいって言うのはあるが、そこまで思ったことは無い

だから、俺はもう一周してくるわ。お前らと出会うのも出来るだけ早くできるようにするし、カズヒロに出会うまでにゆかりちゃんを救ってみせるさ」

「頼んだよ、リョウヤ」

「そのままワイのことを忘れるっていうのは堪忍な」

「願わくば、強くてニューゲームで楽に行きたいもんだぜ。じゃあな、2人とも。また会う時まで」


ふむ、世界の記憶とやらはここまでのようだな。つまりあれか? 私は女1人を取り戻すためだけに奴らにまた殺されないといけないってことか? また魔族の民を蹂躙されなければならないのか?

巫山戯やがって! 魔族の民一人一人にも家族がいるのだぞ! それを世界を救うため、だとか、人族を守るため、ではなく一人の女と自分の楽しい旅のためだと!? 冗談も大概にしろ!


しかし、だ。今ので面白い情報も手に入った。この世界は勇者が召喚された時まで戻ったということはだ、やつは今弱い状態であり、今なら殺し続けることが可能ということだ。

ならば、私が直々に始まりの街に出向き、永遠に勇者を殺す! 勇者側から私を殺すための大義名分を捨ててくれたのだ、私がそういったルールを完全に無視したところで問題はなかろう。

待っておれ勇者よ! お前の初めての敵は、可愛い可愛いスライムではなく、凶悪で最強の私だ!



▽ ▽ ▽



あの後すぐに始まりの街に出向き、出待ちをしているのだが、あまりにも勇者が遅い。何かあったのか? むっ! そんなことを考えていると、ようやく出てきた。今の考えが勇者の言う“ふらぐ”というものなのか、覚えておこう。


「遅かったではないか、勇者リョウヤよ。待ちくたびれたぞ」

「何で最初の敵がスライムじゃなくて、魔王なんだよ!? やっぱ二週目は失敗だったか? 始まるなり世界の理とかいう奴から、『ゆかりはこの世界には今回来ないことになった。この世界を救ってもう1度やり直すように』とか言われるしよ。テンションダダ下がりだよ、この野郎!」

「ふっ、貴様がこの場で私を倒すことができない以上、お前が世界を救い、三週目に突入することなどない! 行くぞ勇者よ!」


私はいきなり炎系最強の呪文をリョウヤにぶつける。確か最初のこいつのステータスだと、これで50回は死んだはずだ。装備もまともじゃなく、ひのきぼう、おなべのふた、かわのふく、みたいだからな! フハハハハ、勝ったな!


「いきなりなにすんだこの野郎!」

「ば、ばかな! なぜ生きている!?」

「確かにステータスは最初の頃まで下がっちまったからな、相当弱っちいよ、俺は。だがな、二週目特典なのかは分からないが、おなべのふたが、ミスリル製になったんだよ!」


はぁ!? ミスリル製のおなべのふただと? 誰だそんなもったいない使い方をした大馬鹿者は! 意味がわからん!

しかし、ミスリルといえばだ、対魔法は完璧で手も足も出ないが、対物理はそこまでではない代物だ。見たところかわのふくはそのままのようだし、一気に近づいて爪で切り裂いてくれるわ!


「はァァァ!」


ガキンッ!


「何故だ! なぜかわのふくごときに私の攻撃が通用しない!」

「かわのふくはかわのふくなんだがな、インナーがオリハルコンを不思議技術で布にして作ったものらしいんだ。悪かったな、正直俺もやりすぎだと思う、この装備じゃ村人でさえ、魔王のお前に勝てるもんな」

「ふ、ふん! まだ負けてない! そんなひのきぼうごときで私に攻撃が通るものか!」

「あぁ、これなぁ。見た目はひのきぼうなんだよなぁ」


勇者がゆっくりと近づいて、思いっきり殴りかかってくる。“いったーん”の間に行われる攻撃は確率以外では避けてはいけない、という世界の理が存在するのだ、意味がわからん!

しかし、やはりひのきぼうで殴られたごときではわしにダメージは入らんな! 感覚もないわい!


「……なぁ、魔王。お前気づいてないのか?」

「ダメージが入らなかったからってそんな虚言を吐かんでもいいぞ。お互いダメージを与えられないというのなら、私はここを動かなければ良いだけだからな」

「いや、そうじゃなくてだな、殴られた場所を見てみろ」


よそ見をしたところでダメージは入らないんだ。少し見てみるか……


「って、なんじゃこりゃァァァ!」


殴られた軌跡に沿って私の体が消滅していた。何が恐ろしいかって、消える前のままで姿勢を保つことが出来、かつ動くことが出来ないことだ。


「これ、ひのきぼうじゃなくて、世界樹の棒らしいんだ。攻撃力自体はひのきぼうと変わらないんだが、魔族系統には麻痺効果と消滅効果があるらしいんだ。正直これらの装備を召喚した時に出せよって話だよな」

「ふ、ふざけるな! そんなもの貴様がよく言っていた“ちーと”ではないか!」

「なぁ、お前もそう思うだろ? 俺もこの回の攻略でこれらを使うつもりは全くなかったんだ。貰える金も1000000ゴールドだったから、普通の装備を買って、記念に最初の装備でスライムでも倒すかってときにお前が来たんだよ。だから、悪く思わないでくれ」


最悪だ、このまま私が敗れれば、魔族の民がまた蹂躙されてしまう……それだけは避けなければ!


「勇者よ! 私は消滅させてもらって構わない。だから、そうしたらこの世界を救ったと思い、次の周回に飛んでくれ! 私も負けたと思えばきっといけるだろう!」

「あぁ、それが出来るなら願ったり叶ったりだからいいぜ、じゃあな、魔王」

「あとは頼んだぞ、勇者よ……」


意識が掻き消える。ふっ、この世界での私はおしまいか……本当に短い生涯だった……



▽ ▽ ▽



「あれ? 次の周回に行けねぇじゃん。チッ! 仕方がねぇ、最短距離で魔王城まで行って全員ぶち殺すか」


この周回の世界では、血に染まった勇者によって1週間で魔族は絶滅させられたらしい……

この作品は、今書いている『下剋上少女』という作品で、主人公が選ばなかった方の世界の話ですが、本編を読む必要など全く無くしてあります。独立した短編ですからね。

しかし、よろしければ読んでいただけると、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ