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悪い女のつくりかた  作者: 風花てい(koharu)
悪い女のつくりかた
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Emergence 8


 プロポーズを無下にされても、森沢は怒らなかった。


「理由を聞かせてくれるかな?」

 跪いた姿勢からゆっくりと立ち上がった森沢が、少し困ったような笑みを浮かべて明子に問いかける。


「理由は、その……」

 間近にある森沢の顔から逃げるようにうつむきながら、明子は口ごもった。明子が森沢を好いているかどうかは別にしても、彼と結婚しないほうがいい理由ならば幾つかある。


 例えば……


「まだ離婚もできていませんし……」

 口ごもりつつ、明子は、一番もっともそうな理由を森沢に告げた。これ以上もめることはないとは思うが、離婚ができなければ結婚もできない。今のところ人妻である自分が、森沢からのプロポーズを受けてしまっていいものなのだろうか。


「君は、まだ達也とやり直したいと思っているわけ?」

「そんなことはないです」

 誤解されたくはないので、明子がブンブンと首をふると、「じゃあ、問題ないんじゃないの?」と森沢が笑う。

「どうせ、君と結婚できるまで半年待たなくてはいけないんだ。離婚の成立が先かプロポーズを受けるのが先かなんて、たいした問題じゃないよ」

「そうかもしれません。けれど、その…… 私は何て言われてもいいんですけど……」

「君が何を言われるって?」

 森沢が鋭い口調で問い返す。 

「だから、私は、どうでもいいんですけど、だけど……」

「ああ、なるほど。そうね」

 言い出すことをためらう明子に、紫乃が得心したようにうなずいた。

「森沢さんと明子が結婚すると、明子の評判は、すこぶる悪くなるでしょう。『ふしだらなことで有名な六条源一郎の娘が、達也さんからあなたに乗り換えた』ってね。こちらの方は、もう再婚する気はなさそうだから」

 紫乃が、証拠写真を手にうずくまったままの達也に目を向けた。

「浮気したのは達也さんのほうなのに、事情を知らない人たちは、明子が彼を捨てたと思うでしょうね」

「あ、そうか」

「だから、私は、なんと言われてもいいんですけど」

 森沢から気遣うような眼差しをむけられた明子は、自覚しないままプロポーズを断るための有力な口実のひとつを自ら打ち消した。


「私のことは、どうでもいいんです。でも……」

「自分が世間から非難されるのはかまわないけれども、自分が勝手なことをしたせいで、紫乃さんや妹さんたちまで悪く言われるかもしれないって心配しているんだ」

 森沢の問いかけに、明子はうなだれたままうなずいた。

「でも、妹たちは、明子が幸せになるためならば、誰になって言われても平気だって言ってくれると思うわよ。私が結婚した時だって、そう言ってくれたもの。私も、自分がなんと言われようとかまわないのだけど……」

「うちも、かまいませんよ」

 弘晃が、申し訳なさそうな顔を向けた妻に、ついで明子に微笑みかける。

「紫乃さんのことは、明子ちゃんの心配事の中から除外してもいいですよ。紫乃さんを愚弄するものがあれば、うちが全力で彼女を守りますから」

「中村の本家だけでなく、一族をあげてね」

 中村の分家から弘晃の弟の元に嫁いだ華江も、力強く請け合ってくれた。 

「ありがとうございます」

 紫乃は百万の味方を得たような晴れやかな顔で、ふたりに微笑みかけると、「というわけで、わたくしへの気兼ねもいりませんからね」と、明子に告げた。


 それでも、まだ明子の心配の種は尽きない。

「でも、森沢さんだって……」

「え? 俺? 俺は別に……」

「なにを驚いているんですか? おそらく、あなたが一番悪く言われることになりますよ」

 戸惑った顔をしている森沢に、苦笑いを浮かべながら弘晃が脅しをかける。

「『喜多嶋グループを手に入れるために、プレーボーイのあなたが明子ちゃんをたぶらかした』ってね」

「なんだ、そんなことか」

 森沢は口をへの字に曲げた。

「身に覚えのない醜聞なんて慣れっこだから、今更、ひとつ増えたところで俺は気にしないよ。言わせたい奴には言わせておけばいい」

「でも……」

「まだ、なにかあるの? この際だから、思いつく限り全部言ってくれていいよ」

 『言っていいよ』と言われても、言いづらいこともある。明子は助けを求めるように姉を見つめた。紫乃は優しく微笑むと、「『森沢さんと結婚する気はないの?』って、今朝、わたくしはあなたに聞いたわね? その時にわたくしに話してくれたことを、思い切って森沢さんにも話しておしまいなさい」と、明子を促した。

「え、でも……」

「わたくしは明子の味方だし、今回のことは、達也さんが全面的に悪いと思っているわ。でも、あなたのほうに問題がなかったかといえばそんなことはないと思うの」

 紫乃の声が厳しくなる。

「人に不快な思いをさせるのが苦手で、人と争うのが苦手。わたくしは、あなたのそういう優しい気性が大好きよ。でも、波風を立てたくないばかりに、何も言わずに…… いいえ、 何も言えずに我慢することは、本当に良いことだったのかしら? 達也さんは他の人の気持ちにまで気が回らない方のようだもの。あなたが何も言わなかったから、達也さんはあなたの気持ちにも自分の間違いに気がつけなかった。あなたの優しさと気の弱さが、結局、ここまで事態をこじらせてしまった。そうは思わなくて?」

「そう……かもしれない」

 弁解できずに明子はうつむいた。


「それに、あなたに『好きです』って言われたうえで結婚を申し込んだというのに、上っ面の理由だけを話して断わるなんて、森沢さんにも失礼だわ。森沢さんだって、納得できないでしょう」

「うん。納得できないね」

 森沢が、紫乃に同調するように、ムスッとした顔で言い切った。しかも、聞くべきところも、ちゃんと聞いていた。

「ということは、上っ面の理由じゃない理由が他にもあるということかな?」

「わたくしが森沢さんに話してもいいのだけど……」

 紫乃が慈愛の籠もった眼差しを明子に向けた。

「これは、森沢さんの……というよりも、あなたの心の問題だと思うの」

「……。うん」

 姉の言うとおりだ。不安に思っていることを、今のうちに明子が森沢に打ち明けておかなければ、森沢が、どれほど明子を愛してくれていても、きっと、いつかうまくいかなくなる。 明子の不安が自分自身の幸せを壊すことになるだろう


「明子?」

 口を閉ざしてしまった明子に、森沢が呼びかけた。初めて彼女の名前を呼び捨てにする森沢の声の響きは、心が溶かされてしまいそうなほど甘く、優しいくせに抗いがたい強制力を伴っていた。

 明子は心持ち顔を上げると、森沢から目を逸らしたまま、「怖いんです」と、消え入るような声で言った。


「怖い? 俺のことが?」

「そうじゃなくて」

 明子は首を振った。

「そうじゃなくて。森沢さんの周りには、いつも沢山の女の方がいらっしゃるでしょう? どの方も、お綺麗で、才能もあって……」


 モデルにデザイナー、メークアップアーティストにファッションコーディネーター等々…… 

 森沢は大勢の才色兼備の女性たちと交流がある。


「もしかして、君は、俺が君と誰かと二股かけていると疑っているの?」

 森沢が慌てた。

「たしかに、知り合いに女性は多いけれども、彼女たちは皆、仕事上の付き合いがある人か友達でしかないよ」

「それは、森沢さんがそう仰るのならば、そのとおりだと思うんです。頭では、わかっているんです。わかっているけれども、でも、それでも気にしてしまうんです。あなたが好きだから……好きだから、だめなんです」

 いったんは大きくなった明子の声が、急に尻すぼみになった。

「おふたりは本当はどういう関係なんだろうとか、森沢さんにその気はないのかもしれないけど相手の方はあなたをどう思っているのだろうとか、あなたの側にいると、私は、そんなことばかり考えてしまうの」

 恥を忍んで明子は打ち明けた。

 一昨日の、たった数時間のパーティーを彼を一緒に過ごしただけで、そうだった。森沢に近づく才気溢れる女性たちと彼との関係を疑って、相手の才能と美貌を羨んで、金持ちの娘であることだけが取り得としか思えない自分と比べて落ち込んだ。森沢と誰かとの間で交わされた会話の端に登場しただけの女性の名前にまで、心乱された。

 彼と結婚してもいないうちから……というよりも告白もされてないうちから、こんな調子だったのだ。森沢と結婚などしたら、明子は、自分の心を律することができなくなるに違いない。 


「だから、『怖い』のか?」 

「私、自分がこんなに心の狭い嫉妬深い人間だなんて思ってもみなかった」

 明子は、ため息をついた。達也との結婚生活においても、彼女は大いに悩んだし辛い思いもした。だが、ここまで自分の醜い感情に振り回されることはなかったと思う。

「達也さんの時は、まだ我慢できたの。彼を好きになる前に彼に好きな人がいることがわかったから。だから、彼を好きになる前に諦めてしまえた。それでも、嫌なこと、沢山考えた。達也さんを恨んで、香坂さんを憎んで、いなくなってしまえばいいとさえ思った。達也さんとうまくいかないことよりも、そんなことを考えてしまう自分が嫌いだったし悲しかった。あなたと結婚したら、私、もっと酷い女になってしまいそうな気がする。 あなたに近づく女の人を片端から憎んで、そんな自分を憎んで……」

 そんな明子に、森沢は、いつかは愛想を尽かしてしまうだろう。明子は明子で自分を嫌う森沢を憎むようになるかもしれない。明子と達也の関係が壊れてしまったように、将来、森沢との関係も最悪な形で壊れてしまうかもしれない。それどころか、そこまで険悪な関係になっても、明子は森沢と別れることができないかもしれない。きっと未練がましく、いつまでも彼に執着するに違いないのだ。なぜなら、どれほど憎み合うことになっても、明子は彼のことを好きであり続けるだろうと思うから。

 そんなのは、嫌だ。怖いのだ。怖くてしかたがない。

「だったら、私は、今のまま…… あなたと何も始めないままのほうがいい。私のことは…… 私こそ、森沢さんの『お友達』のひとりでいさせてください。私のことなんか放っておいて、リナさんとか樹里さんとか、あなたの周りにいる、もっと素敵な方と恋をなさってください。妻じゃなくて友達だったら、たとえ森沢さんが恋多き男でも、私はきっと諦めがつくと思うから。あなたの幸せを笑って喜べると思うから」


 明子の話は、『だから、私のことは、どうか諦めてください』で終わるはすだったが、ふいに森沢が自分の胸元に押し付けるように明子を引き寄せたので言えずじまいとなった。

「森沢さん?」

「君は、どれだけ馬鹿なんだ」

 クツクツと喉を鳴らすような笑い声を立てながら、森沢が明子の耳元ささやく。

「数々の後ろ向きな発言はさておき、『嫉妬に狂いそうなほど好きだから結婚したくない』と言われて、諦め切れる奴がいると思う?」

「でも…… もう嫌なのだもの」

 森沢に顔を押し付ける明子の声がかすれた。 

「これ以上、傷つくのも傷つけられるのも、誰かを憎むのも、もう嫌なの」

「そうだね。君は、そういう人だ。優しくて、他人を傷つけることがなによりも嫌いで、怖がりで……」

 森沢が、聞き分けの悪い子供のように訴える明子の髪を撫で、頬を寄せる。


「でも、安心していいよ。君は、達也とのことがあったから、少しばかり臆病になっているだけだ。君は俺を傷つけたりしない。焼き餅ぐらい、俺にとってはなんでもない。いくらでも焼けばいい」

「でも……」

「そうか。俺は傷つかなくても、焼き餅を焼く君は、俺と誰かの仲を勘ぐって傷つくことになるよね?」

 森沢が笑いながら腕を緩めて、明子と目を合わせた。

「じゃあ、これから一生、君以外の女の人と口を聞かないようにする」

「できない約束をするのは、やめてください」

 声を詰まらせながら明子が咎めると、森沢が、何処まで本気だかわからない顔で、「俺は、本気だけど」と笑った。

「本気だったら、尚更困ります」

 自由な森沢を束縛したくないからこそ、明子は彼と結婚できないと言っているのだ。


「じゃあ、どうしようか?」

「ですから、私のことは忘れていただければ……」

「それは、できない相談だね」

 森沢が、明子の提案を即座に却下する。


「となると、次善の策として考えられるのは、君の不安をできるだけ取り除くことかな」

「取り除くって、どうやって?」

「そうだな。とりあえず、俺との関係が気になっている女性の名前を、ひと通りあげてみてくれる?」

 明子の質問には答えずに、森沢がたずねた。

「……。そんなの、誰だっていいじゃないですか」

「よくない」

 言い渋る明子に、森沢が厳しい顔で命じた。

「言いなさい。リナに樹里に、それから?」

「……。それから、『胡蝶』候補のモデルさんで、パーティーの時に唯さんと腕を組んでいらした妖精みたいに華奢で可愛らしい……」

「ティナだな。あとは?」

「同じく『胡蝶』のモデルさんで、森沢さんが入ってきてすぐに話しをしていた妖しげな雰囲気の人とか、それから、ローラにメアリにアンにべスに、よりこに、らんこに……」

「それで、全部?」

「喜多嶋の本社でコーヒーをいただいていた時にいらした、花柄のお洋服を着ていた……」

「それは、ルミ子さんだったらしい。以上? 他にも、まだ誰か?」

「……。以上です」

 促されるままに馬鹿正直に思いつく限りの女性の名を挙げてしまったことを恥ずかしく思いながら、明子はうなずいた。


「よし。それじゃあ、行こうか?」

 森沢が明子の手を取って立ち上がらせた。

「行くって、どこへ?」

「俺の潔白を証明しに」

 森沢が言った。

「君が焼き餅を焼いてくれるのは嬉しいけれども、疑われるのは心外ではあるからね。名前が挙がった彼女たちと俺とは色恋抜きのアッサリとした関係だってわかれば、君の心配のほとんどは取り越し苦労だってわかるだろうし、少しは安心して俺との結婚を考える気になるだろう?」

「それは、そうかもしれませんけど…… でも、あの? ちょっと? 今からですか?!」

「そう。今すぐ」

 戸惑う明子のことなどお構いなしに、森沢が彼女の手を引っ張った。 


「ああ、そうだ。そいつのことだけど」

 明子を連れて部屋を出て行きかけた森沢が、達也を見て立ち止まった。 

「後は任せてくれていいわよ。達也さんは、そもそも、わたくしがお呼びしたお客さまですからね」

 紫乃が快く後始末を引き受ける。

「明子のことを頼みます」

「心得ました」

 森沢は、ちょっと気取った口調で答えると、「行くよ」と、再び明子の手を引っ張った。抵抗しても無駄だろうと判断した明子は、潔く森沢についていくことにした。部屋を出る間際振り返ると、打ちひしがれたような顔をした達也と目が合った。


「さよなら」 

 声にならないほど小さな声で、明子は達也に別れを告げた



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 明子と森沢が出て行った応接室には、中村家の人々と達也が残った。


 紫乃は、床に座り込んだままの達也に近づくと、彼の前に正座をした。妹を苦しめた憎い相手であれ、彼がこの家の客であることに変わりはない。

「本日は、急にお呼びだてしただけではなく、幾つかご不快な思いもさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」

 礼儀正しく三つ指を立て、紫乃は、達也に深く頭を下げた。

「い、いえっ! 滅相もありません! こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした」

 紫乃の態度に慌てたのか、達也は、弾かれたように座り直すと、頭を床にこすり付けた。

「やっと気がつきました。僕が…… 本当に僕が悪かったのです。まったく、我ながら、どうしようもないことしてましたね」

 『本当に、どうしようもない。とんでもない大馬鹿だ』 と、達也は、自分に言い聞かせるように何度も繰り返した後、紫乃たちに暇乞いを告げた。


 紫乃と弘晃に送られて外に出てもまだ、達也は、ひっきりなしに謝り続けていた。

「後日、改めてお詫びにうかがいます。明子…… いえ、明子さんにも、今度こそ、ちゃんとお詫びしたうえで、これからの、その……、手続きなどについてお話させていただきたいと、そう、お伝えいただけますか?」

「伝えておきます」

 紫乃は約束した。

「それで、あの…… 念を押すこともないと思うのですけど、先程あなたがおっしゃっていた、『どちらが先』とか『後』とかいう事についてですが、そういうことを他の場所で言うことは、できれば控えていただきたいと思うのですけど」

「もちろんです」

 達也が顔を赤らめた。

「頼まれてもできませんよ。結婚式の時の私の様子を知っているのは、六条家のみなさんやうちの親族ばかりではありません。言いふらして恥をかくのは、むしろ私のほうですから」  

「その通りだ」と言う代わりに、紫乃は彼に微笑みかけた。

「本当に、つくづく私は馬鹿でしたね。『最初から諦めていた』という明子の言葉を聞いて目が覚めました。僕は、初めから彼女を裏切っていたのに、そのことに気づきもしなかった。自分から夫婦になる努力を放棄したのに、彼女に『やり直そう』だなんて、全く恥知らずというかなんというか……自分が情けないです」

 達也はそう言うと、紫乃たちに頭を下げ、森沢に殴られたせいで腫れた頬を押さえながらタクシーに乗り込んだ。


「沢木。それはいいよ」

 タクシーの姿が見えなくなった途端に、手拭でほっかむりした箒を手にした坂口を伴い、塩壷を持って現れた老執事を弘晃が制した。

「ですが……」

「やめなさい。喜多嶋さんは、今度こそ充分に反省しておられたようだから。大丈夫だよ」

 彼は、未練がましく塩壷に手を突っ込んだままの執事に釘を刺すと、坂口に塩だらけの路上を掃除しておくように命じた。 


「それより、沢木」

「小田切部長に連絡ですね?」 

 元は中村物産の第一線で活躍していた老人は、心得たように微笑んだ。

「うん。たぶん、2、3日中に動きがあると思うから、準備しておくように言っておいて。それから、坂口」

「六条社長の方針が固まり次第連絡をくれるようにと秘書の葛笠さんにお願いしてありますが、こちらから連絡してみます。それから、礼服のご準備もできてます」

 坂口が掃除の手を止めて、几帳面な顔で報告する。


「礼服?」

 口出しすべきではない仕事の話だと思っていたら自分の実家がらみの企みであるらしいと気が付いた紫乃が、弘晃に詰め寄った。

「正直におっしゃってくださいな。うちの父は、あなたまで巻き込んで何をするつもりなの?」

「う~ん。まあ、いろいろと」

「弘晃さんっ」

「部屋に戻ったら詳しく説明するよ。その前に、今日ここであったことを、君からお義父さんに電話してあげてくれるかな? 明子ちゃんが森沢さんと幸せになれそうだということや、喜多嶋さんが明子ちゃんの話を聞いて、ようやく本気で反省する気になったことも含めて」

「今すぐがよいの?」

「できれば。明子ちゃんが幸せになれるとわかれば、お義父さんはホッとするだろうし、君の報告によってお義父さんの気が少しばかり変わるかもしれない。彼の怒りが少なくなれば、喜多嶋グループや平和主義者の明子ちゃんにとって、より望ましい結果をもたらすことになるかもしれないからね。だけど……」


 弘晃が、達也が去っていった方角に同情するような眼差しを向けた。 

「やっと反省する気にはなったとはいえ、既に時遅し……というか、喜多嶋さんの苦難が減ることはないかもしれないけどね」


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