序(side YUI)
今日は結婚式。
「だからって、私が白い服を着る理由なんかないのにね」
鏡の中に写る白いワンピースを着た自分を哀れむように、私は鏡に向かって弱々しい笑みを浮かべてみせた。
結婚式の白い衣装は、花嫁のもの。
今日の私は、花嫁どころか、結婚式の招待客でもない。
今日結婚するのは、私が愛していた人。
彼と永遠の愛を誓うのは、私ではない誰かだ。
彼の花嫁となる人がどういう人なのか、私は知らない。
けれども、その人は育ちの良い人で、その人のお家があの人のお家の役に立つ人なのだろうってことだけはわかっていた。
そういう人じゃないと、彼のお嫁さんにはふさわしくない。
だから、もう息子には近づかないでほしい。ずっと前に、彼のお母さんが、私にそう言った。
だから、それだけは絶対に確実。
『あの男の隣で花嫁として祝福を受けるのは、お前のはずだったのに……』
彼が結婚することがわかってから、母は、私のところに来ては嘆いていく。
でも、私は、そんな恨み言をいうつもりはなかった。
あの恋は、もう終わったのだ。
だけど、昼間の仕事を終えた私の足は、勝手に披露宴の式場であるホテルのほうに向いていた。
今日だけ、ほんの一目だけでいい。
遠くから、彼を見るだけ。
奥さんになる人と並んで歩く彼の姿に、「幸せになってね」って言えば、今度こそ私の気も済むはずだ。
今度こそ本当の意味で彼に「さよなら」するのだ。
今日だけ。
ほんの一目だけ。
本当に、そのつもりだった。