ウソツキ異世界への転移
「私は女神です。あなたはまだ死ぬはずではありませんでしたが手違いで死んでしまいました。なのでお詫びに、あなたの注文通りの異世界へご案内しましょう」
「だったら女の子のにモテて俺が超強くて運も超よくてなにをしても成功するような異世界がいい」
「うーん、難しいですね。条件が一つ二つ減れば検索のしようもあるのですが、あなたの天佑――スキルポイントですとどれかが可能ならば、どれかは不可能となってしまいます」
「お詫びって言ったんだからなんとかしてくれよ」
「うーん……あ、そうだ。では、こういうのはいかがでしょう? 『ウソツキだらけの異世界』というのは」
「どんな世界なの?」
「その世界の人たちは本当のことが絶対に言えないのです。なのでちょっと人付き合いに難があるでしょう。けれどそこならばあなたの持ったスキルポイントでも『モテて超強くて運もよくてなにをしても成功する』ことが可能かと思います」
「ふーん。世界がおかしいぶん、必要なポイントが少なくても伸び率が大きいみたいなこと?」
「まあおおむね。ですが、大事なのは『あなたが幸せと感じるかどうか』でしょう?」
「そうだな。それに絶対に嘘しかつかないなら、それは正直者と一緒だろ?」
「そうかもしれません」
「じゃあ、その異世界に転生させてくれよ。あ、でも赤ん坊からやり直しもめんどくさそうだな」
「では、あなたの今の年齢のまま転移ということにしましょう。出自とスタート地点は選べませんがよろしいですか?」
「わかった」
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「ここが異世界か! 向こうにでっかい城塞みたいなのがあるぞ! 街かな? とりあえずあそこに行ってみよう!」
「キャアアア!」
「女の子の悲鳴だ! よし助けに行こう!」
「誰っ!? 誰でもいいからとにかく助け――うわっ!? なにその顔!? 気持ち悪っ! アンタ人間!?」
「かわいいけど口が悪い子だなあ……っていうか、あれ? 女の子にモテるはずじゃ……ああ、そうか、そうだった。この世界は『ウソツキだらけ』なんだったな! よーし、俺の力を見せてやる!」
「ちょっと、あいつはすごい強いモンスターなのよ! あんたの力じゃ絶対に勝てないわ!」
「ええっと、『ウソツキだらけ』だから――ってことは君、俺の力がわかるのか。そう、俺は神様によってものすごい力を手に入れたんだ! こんなヤツあっというまだ! それっ!」
「えっ、まさか一撃で!? その力といい、その顔といい、本当に人類なの!?」
「ん? 今のはどういう意味になるんだ? ……まあいいや。とにかく、このへんは危ないみたいだし、よければ目的地まで護衛として同行してもいいよ。どうかな?」
「イヤよ。モンスターか人間かもわからないような顔をした、ものすごい力を持ったヤツが突然来て『同行してもいい』だなんて、そんなの下心があるに決まってるもの。気持ち悪い」
「ええと、つまり『オッケー』ってことか!」
「……」
「ああ、ちょっと、先行くなよ! ……ようし、神様からもらった力は万全みたいだ。これからこの世界でガンガンのしあがって、モテモテになるぞ!」
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「女神よ」
「おお、なんですか、神の最長老、大神よ。昼休みに、下々の神たる私のような者のところまでご足労くださるとは……」
「先ほどの手違いで死なせてしまった青年は、希望に添う世界に転移させられたのかね? 妙に我が強そうな青年だったから、クレームでもつけられないか、不安でね」
「それが……彼の持つ天佑では、『女の子にモテモテ』『超強い』『運がよい』『なにをしても成功する』という四つの条件を満たせる世界が存在しなかったのです」
「ふむ?」
「一つ二つ条件を減らしてくれれば、どうにかなったのですが、どうにも退かない様子でしたので、こちらで勝手に調整させていただきましたよ」
「つまり、どうしたのだね?」
「『超強い』と『運がよい』は、どうにか満たすことができました。結果として、だいたいのことは成功できるでしょう」
「……」
「ですが『女の子にモテモテ』がどうにも無理だったので、そこで彼には『ウソツキだらけの異世界』と偽って、普通の世界に送り出しました」
「……ふむ」
「これで、転移先の異世界で女の子に『嫌い』と言われても、彼の中では『好き』と言われていることになります。これできっと、彼は幸福と感じると思います」
「そうか。万事うまくいったということだね」
「はい。大事なのは『彼が幸福と感じるかどうか』であって――幸福に客観性は必要ありませんからね」
「よろしい。では、昼休みが終わったら次の案件にかかってくれたまえ」
「はい。人々に幸福な人生を」
「ああ、人々に幸福な人生を」