嵐の夜(梨央編)・一
梨央視点のお話です。本編第三章読了後に読むことをおすすめします。
八月十四日。
その日、ハーヴェイさんと共に出勤してきた私は、ある事に気が付いた。
「あれ? ソールくんは?」
今日の仕事は確か、私、ケントさん、ソールくん、ハーヴェイさんの四人だったはずだ。いつも早い時間に来ているソールくんがいないなんて、珍しい。
「ああ、今日は珍しくソールくんが来てないんですよ。連絡もないですし、昨日も特に何も言ってなかったですし……ちょっと気になりますね」
ケントさんは、腕を組みながらそう言った。
どうしたんだろう。何かあったのかな……。
知らず知らずのうちに不安が顔に出ていたのか、ハーヴェイさんが私の肩をポンと叩いた。
「大丈夫だよ。あいつの事だ、魔法の研究に没頭しすぎて寝過ごしてるだけかもしれない」
「……うん、そうだね」
私は心配をかけまいと、笑顔を作ってみせた。
大丈夫。ちょっと遅れるだけかもしれない。ソールくんが遅刻するという、レアな場面を見られるかもしれないし。
私は、心の中でそう自分に言い聞かせ、女子更衣室へと入った。
* * *
「おかしいですね……」
「そうだな……」
「……」
全ての仕事が終わり、帰宅時間。
ーー結局、今日一日、ソールくんが陽光に姿を現す事はなかった。
熱中症で倒れてたらどうしよう、とか、高熱で倒れてたらどうしよう、とか、私の胸は不安でいっぱいだった。
「リオさん……大丈夫ですか?」
「……」
「おーい、リオ?」
ハーヴェイさんが、私の顔の前で手を振る。
「え? あ……何?」
「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
よほど顔色が悪かったのか、ケントさんとハーヴェイさんが、心配そうな表情でこちらを見ていた。
「う、うん、大丈夫だよ。ごめんなさい、心配かけて。……私、今からソールくんの家に行って来る」
「そうか。じゃあ、俺達も一緒に……」
「ちょっと待ってください、ハーヴェイくん」
「ん? どうした?」
ハーヴェイさんがそう問いかけると、ケントさんは意味ありげにニヤニヤと笑い、こう言った。
「リオさん一人で行かせてあげましょう。二人の愛の邪魔をするのは野暮でしょう?」
「えっ!? ち、ちょっと、何言ってるんですかケントさん!」
私は、顔から火が出そうになった。
「恋」という言葉ならまだ良いが、「愛」などと言われると、何だか恥ずかしい。
「という訳で、私とハーヴェイくんは家に帰ります。ソールくんの安否が確認できたら連絡してください」
「も、もう! ケントさんったら……!」
「まあまあ。……あ、そうだリオ。夕方頃から雲行きが怪しかったから、にわか雨とか気を付けた方が良いぞ」
「う、うん。わかった」
こうして私は、ソールくんの家に向かう事になった。