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妙な疑惑・一

梨央視点のお話です。本編第三章読了後に読むことをおすすめします。

 八月十二日。


 喫茶店・陽光にて。

 全ての仕事が終わった後、私は一人、テーブルで頭を抱え込んでいた。

 私がこの世界に来てから、四ヶ月程経った。

 その間、ずっと悩んでいる事があるのだ。それはーー。


 この世界には、漫画、アニメ、ライトノベル、ゲームなどの娯楽がないという事だ!


 オタクである私には、これは正直かなり辛かった。

 私の趣味に近い、この世界での娯楽と言えば、読書(当然ながら漫画やライトノベルではない)とゲーム(ゲーム機を使う物じゃなくて、トランプとかボードゲームとか)くらいだ。テレビはないし。

 カードゲームやボードゲームは、たまにルールを教えてもらって遊ぶ事がある。しかし、読書に関しては、漫画やライトノベル以外の本は私には難しいんじゃないかと考えてしまい、中々手を出す気になれないのだ。

 ああ……あのアニメ、もう終わっちゃったよね? 最後どうなったんだろう……。あの少年漫画の続きも気になるし……あ、そういえばあの乙女ゲームももう発売日過ぎてるな……面白いのかな……。

 あれこれ考えていると、何だか無性に二次元が恋しくなってきた。


「ああー……」


 私は変な声を出しながら、テーブルに突っ伏した。

 と、そこに制服姿のシャノンさんがやって来る。


「リオ。どうしたの? 何だか落ち込んでるみたいだけど……」

「うん……ちょっとね」


 こんな悩み、誰にも言えないよ……。


「どうしたんですか? 私達で良ければ、相談に乗りますが」


 シャノンさんに続いて、ケントさんもやって来た。


「いえ、大丈夫です。ごめんなさい、ご心配おかけして」

「ソールくんと痴話喧嘩でもしましたか?」

「えっ!? ち、違いますよ!」


 私は、自分の顔に熱が集まるのを感じた。

 ど、どうしよう。変な風に誤解されても困るなぁ……。オブラートに包んで話してみようか……?

 私は、思い切って話してみる事にした。


「……えっと、実は、その……私が以前住んでいた世界にあった娯楽がこの世界にはなくて、それで悶々としてるって言うか……」

「そうなの……。それって、どんなもの?」

「え、えーっと……」


 私は、どう説明しようか悩んだ。


「……そう、小説! 若い人達や子供でも読みやすいように工夫された小説、とか……あ、後、小説の内容を絵で表現したもの、とか……後、映像が流れる機械、とか」


 ……自分で説明してて、何が何だかよくわからない。こんなつたない説明で伝わるかな……。

 すると、シャノンさんが顎に手を当て、首を傾げた。


「うーん……女性向けの恋愛小説なら、私、何冊か持ってるわよ。若い子でも読みやすい方だと思うけど……後で見てみる?」

「! ほ、本当に!?」


 シャノンさんの言葉に、私は食い付いた。椅子から勢い良く立ち上がり、シャノンさんの目を見る。

 私の食い付きように驚いたのか、シャノンさんは目を丸くしていた。


「え、ええ。リオの好みかどうかはわからないけど、読めそうだったら貸してあげる」


 恋愛小説は私の大好物だ。ラノベだけど。

 ……でも、これを機にこの世界の小説を読んでみるのも良いかもしれない。


「ありがとう、シャノンさん!」


 私はシャノンさんの手を取り、ぶんぶんと振った。


「小説でしたら、私も持ってますよ。若い人でも読みやすそうなものを何冊か見繕って、後で屋敷に持って行きましょうか?」

「ケ、ケントさんまで! 良いんですか!?」


 私は勢い良くケントさんの方を振り返る。


「はい。明日は全員出勤なので、他のみなさんにも聞いてみてはいかがですか? 官能小説とか持ってるかもしれませんよ?」


 ケントさんは、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらそう言った。


「え、かっ……!? そ、そんなの読みませんから! それに私、まだ十六ですし……!」


 か、かかか官能小説だなんて……! それは十八歳以上の人が読むものだよ……!


「ソールくんとか、意外と持ってるかもしれませんよ?」

「えっ!? そ、そんな訳ないじゃないですか……!」

「どうでしょう。ちょうど、そういう物に興味を持ちそうな年代ですし」

「えっ……!?」


 確かに、十代男子と言えば、そういう物に興味を持つお年頃だ。

 ……いや、今のはケントさんの冗談だ、うん! で、でも、もし本当に持ってたらどうしよう……! い、嫌だっ……!


「シ、シャノンさん、どうしよう! ソールくんが……!」

「リオ、落ち着いて。ケントも、それ以上冗談を言うのは……」

「ハーヴェイくんも、怪しいかもしれませんね」

「えっ……!?」


 ケントさんの言葉に、シャノンさんの顔色が悪くなる。


「ケ、ケント……な、何言ってるのよ。ハーヴェイがそんな物持ってる訳……」

「わかりませんよ? 人は見かけによらないと言いますし」

「あ……」


 シャノンさんが、カタカタと震え出した。


「あ、あの男……! そんな物持ってたら、タダじゃおかないから……!」


 突然、シャノンさんがものすごい勢いでこちらを振り向いた。


「リオ! 今日、帰ったらすぐハーヴェイに確認して、明日になったらソールに確認するわよ!」

「う、うん……!」


挿絵(By みてみん)


 ーーこうして私達は、ソールくんとハーヴェイさんが、官能小説を持っているかどうかの確認をする事になった。

 ーー私達の様子を見て、ケントさんが楽しんでいるとも知らずに。

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