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胸に秘めた想い

シャノン視点のお話です。本編第二章読了後に読むことをおすすめします。

 五月四日。


 明日はハーヴェイの誕生日だ。

 私は今、ハーヴェイに渡すための誕生日プレゼントとして、クッキーを作っている。

 ハーヴェイの幼なじみである私は、毎年、彼への誕生日プレゼントを用意しているのだ。

 ハーヴェイの方も、毎年、私の誕生日にはプレゼントをくれる。理由はわからないが。

 だけど私は、いつも不満に思っている事がある。それは――。


 毎年、手作りのハート型クッキーをプレゼントしているというのに、何故ハーヴェイは私のこの気持ちに気付いてくれないのか!?という事だ!


 手作りのハート型クッキーなんて普通、好きな異性以外に渡す訳ないじゃない! 何なのよ、あの鈍感男! 毎年「気付いてくれるといいなぁ。でも、ちょっと恥ずかしいなぁ」とか思いながら作ってる私が馬鹿みたいじゃない!

 私は、この憎たらしい気持ちをゴムベラに込め、思いっきりクッキー生地をかき回した。


 私は幼い頃から、ハーヴェイの事が好きだった。

 彼は私と同い年なのに、面倒見が良くて、お兄さんみたいで……。気が弱くて泣き虫でいじめられっ子だった私を、いつも守ってくれた。

 私の心に宿る気持ちが恋愛感情なのだと気が付いたのは、十代前半になってからの事だった。

 どうすれば、彼は私のこの気持ちに気付いてくれるだろう。

 一番早くて確実なのは、直接伝える方法だ。

 だけど私は、もしフラれたら今まで通りの関係ではいられなくなるのではないか、という不安から、それができずにいた。

 大人になって、変わったつもりだった。けど結局、根本的な部分は子供の頃から何も変わっていない。

 ――私は、臆病者だ。


「はあ……」


 思わず、ため息がこぼれる。

 このままでは何も変わらない、という事はわかっている。

 ――もういっそのこと、告白してしまおうか?

 だけど、あの鈍感男の事だ。恐らく、私の事を意識してなどいないだろう。

 けど、それでも私は――彼の事を、諦められなかった。

 告白する勇気も、諦める勇気もない自分が歯がゆくて、悔しくて、私は唇を噛んだ。


 * * *


 五月五日。


 私は、昨日作ったクッキーの入った袋を手に、ハーヴェイの部屋のドアをノックした。


「ハーヴェイ、いる? 私よ」


 しばらくして、部屋のドアが開き、ハーヴェイが姿を現した。


「シャノンさん。どうしたんですか?」

「あなた今日、誕生日でしょう? はい、これ」


 私は、クッキーの入った袋をずいっとハーヴェイに差し出す。


「あ! ありがとうございます! シャノンさんの作るクッキーって美味いから好きなんですよね」


 ハーヴェイは、笑顔で袋を受け取りながらそう言った。

 ――私は、思い切って自分の気持ちを打ち明けてみようか、と思った。


「……あ、あの、ハーヴェイ」

「はい、何ですか?」

「……」

「? シャノンさん?」

「……や、やっぱり何でもない。それじゃあ、私はこれで」

「? は、はい……」


 私は、足早にハーヴェイの部屋の前を離れた。

 ……結局、私は自分の気持ちを伝えられなかった。何て情けないんだろう。

 私は歩みを止め、自分の胸に手を当てる。

 そうだ……目標を決めないから、いつまでもズルズルと引きずってしまうんだ。

 例えば――そう、今年中に告白するとか。できなかったら、諦めるとか。

 そうだ、それがいいかもしれない。

 よし、決めた。

 この想いを今年中に、ハーヴェイに伝える。絶対に――。






【胸に秘めた想い 終】

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