ソールの誕生日・一
梨央視点のお話です。本編第二章読了後に読むことをおすすめします。
「え!? 明日ってソールくんの誕生日なの!?」
「ええ、そうよ。知らなかったの?」
七月十九日。
仕事から帰ってきて、シャノンさんと共に部屋に戻る途中で、私は彼女からそんな事を聞いた。
「し、知らなかった……。ど、どうしよう。何かプレゼントしたいけど、もうお店閉まっちゃってるだろうし……。明日買いに行って、ソールくんの家に渡しに行くっていう手もあるけど……」
「それなら、お菓子はどう?」
「お菓子?」
「ええ。私、お菓子作りが趣味なの。もしリオさえ良ければ、今から作り方を教えてあげるわ。そうすれば、明日の誕生日に間に合うでしょう?」
「でも私、今までお菓子とか作った事ないんだけど……うまくいくかな?」
お菓子作りは、難しいと聞いた事がある。全くお菓子作りの経験がない私に、うまくできるだろうか。
そんな事を考えていると、シャノンさんが私の肩に手を置いた。
「大丈夫よ。私が一から教えてあげるから」
「でもシャノンさん、明日はハーヴェイさんとデー……」
「!? ち、違うわよっ!」
シャノンさんがそう叫ぶと同時に、私の肩に鋭い痛みが走った。
「痛っ!」
「え? あっ、ごめんなさい! だ、大丈夫!?」
「う、うん」
シャノンさんが私の肩から手を離すと、痛みは引いた。どうやら、私の肩を掴んでいる手に相当力を入れていたらしい。
「ほ、本当にごめんなさい。それで、どうする?」
「うーん……」
私は、顎に手を当てて思案する。
とても魅力的な提案だが、私はシャノンさんの事が心配だった。
彼女は今、自身の呪いの事で頭がいっぱいなはずだ。
私は、シャノンさんに無理だけはして欲しくなかった。
しかし、そんな私の心を見透かすかのように、シャノンさんがこう言った。
「リオ。私なら大丈夫だから、心配しないで。ね?」
「シャノンさん……」
「ほらほら、早くしないと時間なくなっちゃうわよ?」
「う、うん。じゃあ、お願いしてもいい?」
「ふふっ。任せて」
そう言って、シャノンさんはウインクをしてみせた。
* * *
「で……できたーっ!」
魔法のオーブンからパウンド型を取り出し、私はそう叫んだ。
あの後、私達はキッチンを借り、二人でパウンドケーキを作っていた。
しかし、一回目は何故か生焼けになってしまったので、今私が持っているのは二個目だ(ちなみに、失敗した一個目はまた焼いて私達二人で美味しくいただいた)。
「うーん、でもちょっといびつだなぁ……」
「初心者にしては上出来よ。後は冷めるまで待って、ラッピングするだけね」
「うん、そうだね! ありがとう、シャノンさん」
「ふふっ。どういたしまして」
その後、私はラッピングを終えたパウンドケーキを手に、上機嫌で自分の部屋へと戻った。
明日、ソールくんの家に行って、ケーキを渡そう。喜んでくれると良いな。
その晩、私は心地よい胸の高鳴りを感じながら、眠りについた。