嵐の夜(シャノン編)・二
「そう言えば、シャノン」
「ん? 何? ハーヴェイ」
ハーヴェイが不意に私の名前を呼び、こんな事を口にした。
「リオがこの世界に来てから、俺達二人だけでは飲まなくなったよな。酒」
「そう言えばそうね……」
リオがこの世界に来る前は、私とハーヴェイの二人だけでお酒を飲む事がたまにあった。
それを思い出し、私は久々に二人きりで飲みたいな、と思った。
「ねえ、今から飲まない?」
「おっ、良いな。じゃあ、俺が厨房でもらって来るから、シャノンは部屋で待っててくれ」
「ええ、わかったわ」
ハーヴェイはベッドから立ち上がり、部屋を出て行く。
私は、酔った勢いでハーヴェイとちょっとしたハプニングが起きたりしないだろうか、などとひそかに期待していた。
私とハーヴェイが付き合い出してもうすぐ一か月になるが、彼とはあまり恋人らしい事をしていないような気がする。
手を繋いだり、キスをしたり、彼が昔のように普通に話してくれるようになったり、優しくしてくれたり、という変化はあった。
けど、手を繋いだのもキスをしたのも一回だけだし、二人で出かける事はたまにあるが、それだけで何もしてこない。
そういう意味では、今回のお泊まりとお酒は大きな進歩にして大きなチャンスだと言える。
そんな事を考えていると、私の胸は自然と高鳴った。
しばらくして――。
「ただいま。厨房で、牛乳で割って飲むと美味しいって言う果実酒と牛乳もらって来た」
そう言って、ハーヴェイが戻って来た。
ハーヴェイは、持って来た果実酒と牛乳をテーブルに置き、再び部屋を出て行く。多分、グラスを取りに行ったのだろう。
私は椅子に腰かけ、ハーヴェイが戻って来るのを待つ事にした。
* * *
「「乾杯」」
お酒と牛乳を注いだグラスを手に、私達は乾杯した。
そして、ゆっくりとグラスに口を付ける。
桃と牛乳の甘みが口いっぱいに広がり、アルコール独特の喉が熱くなるような感覚がした。
「……うん、これ、すごく美味しいわ!」
「ああ、そうだな」
私もハーヴェイも、自然と笑顔になる。
ハーヴェイはこう見えて甘党で、私が作ったお菓子なども喜んで食べてくれるのだ。
そうだ、お菓子と言えば――。
「ねえ、ハーヴェイ」
「ん? どうした?」
「私、毎年あなたの誕生日になるとクッキーを贈っているでしょう?」
「ああ、ハート型のやつか。あれも美味いよな」
ハーヴェイがさらっと「ハート型」などと口にする。
こ、こいつ……私が一体どんな気持ちでハート型のクッキーを作ってたと思ってるの!?
内心そう思ったが、顔には出さないようにする。しかし――。
「? シャノン、どうした? 顔が引きつってるぞ」
やはり付き合いの長い彼には通用しないようで、あっさりそう指摘される。
「……ねえ、ハーヴェイ。あのクッキーの意味、わかる?」
「意味……?」
ハーヴェイは不思議そうに首を傾げる。やっぱりこいつ、わかってない……!
「もう……ハーヴェイの鈍感! あのクッキー、もう十年くらい贈り続けているのに、一度も考えた事ないの?」
「? あ、ああ……」
ハーヴェイの鈍感っぷりに、怒りを通りこして呆れる。
「はあ……あの形には意味があるのよ。……あなたが好きっていう気持ちを込めて、あの形にしたの」
「えっ……!? そ、そうだったのか!?」
ハーヴェイが目を見開いた。……どうやら、本当に気付いていなかったらしい。
「ごめん、気付かなくて……。って事はひょっとして、十年前から俺の事を……?」
「ええ、そうよ。正確に言うと、もっと前からね」
「そ、そんな昔から……」
「……けど、もう良いの。こうして、あなたと両想いになれたから」
「シャノン……」
気が付くと、私達は微笑み合っていた。
その後、私達は和やかな雰囲気の中、お酒を飲み続けた。




