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嵐の夜(梨央編)・三

 ソールくんの家に泊まる事になった私は、彼の家のお風呂を借りた。

 ソールくんに「先にお風呂入ったら?」と言われたのだが、私は「時間がかかるかもしれないから」と言って、後回しにしてもらった。

 彼氏の家に泊まるという初めての経験に、私はかなり緊張していた。

 お風呂から上がった私は、先程まで着ていた自分の服に再び袖を通す。夏なので汗臭くないか心配だ。緊急時なので仕方のない事だが、それでもやっぱり汗臭いと思われるのは嫌だった。


「ソールくん……お風呂上がったよ」


 私はソールくんがいる部屋の前で、壁から覗き込むようにして、パジャマ姿でソファに座る彼に声をかける。

 ううっ、すごくドキドキするし恥ずかしい……。


「リオ……どうしたの? こっちに来れば良いのに……」

「う、うん……」


 ソールくんにそう言われ、私はおずおずと部屋の中に入り、彼の隣に座った。

 ソールくんのパジャマ姿、初めて見た……何だか新鮮だな……。

 ガチガチに緊張しつつも、頭の隅でそんな事を考える。


「……そんなに緊張されると、何だか僕まで緊張してくるな……」


 ソールくんの頬が、わずかだが赤く染まる。


「ご、ごめんね……」

「……ううん、良いよ。……そういうところも、リオらしくて良いと思ってるから」

「!」


 予想外の言葉に、私は自分の顔が紅潮するのがわかった。

 ど、どうしよう! この状況でそんな事言われたら……!

 私は両手で顔を押さえながら俯く。

 すると、ソールくんが珍しく声を上げて笑った。


「ふふっ、ごめん。……それより、その……寝る場所、なんだけど」

「えっ!?」


ソールくんの言葉に、私の顔は再び熱くなった。


「そ、そこで反応されると恥ずかしいから……」


 ソールくんも、また頬を赤らめている。……何だろう、この状況。


「あ、ご、ごめんね……」

「えっと……リオに二階のベッドを貸すから、僕はここのソファで寝ようかと思うんだけど……」

「あ……」


 あ、あれ? 何で私、がっかりしてるんだろう。ひ、ひょっとして私……ソールくんと一緒に寝たいだなんて思ってた、の?

 確かに、今は雨風の音がすごいし、雷も鳴っているので、不安だ。

 けど、そんな理由で誰かと一緒に寝たいと思うなんて……私、まだまだ子供だなぁ……。

 と、私の異変に気が付いたのか、ソールくんが私の顔を覗き込んだ。


「……リオ、どうしたの?」

「えっ!? あ、ううん、な、何でもないよ!」


 まさか「一緒に寝たかった」だなどと、そんな恥ずかしい事、口が裂けても言えるはずがない。

 しかしソールくんは、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、真剣な表情でこう言う。


「リオ……言いたい事があるなら、正直に言って。口に出さなきゃ伝わらない事もあるから」

「ソ、ソールくん……」


 私はしばらく悩んだ末――自分の気持ちを、正直に打ち明ける事にした。


「あ、あのね、ソールくん……わ、笑わないで聞いてね?」

「うん、約束する」

「あ、あの、私……ソールくんと一緒に寝たいと思ってる、みたいで……」

「えっ……!?」


 ソールくんが、驚いたように目を見開いた。


「あ、あの! 雨と風すごいし、雷も鳴ってるから不安で……。私のわがままだから、お、襲われても仕方ないと思ってる! だから……」


 私がそこまで言うと、ソールくんは照れつつも柔らかな微笑を浮かべ――そして、こう言った。


「……大丈夫、そんな事しないから安心して。……じゃあ、同じ部屋で寝ようか」

「……!」


 ソールくんのその言葉が、すごく嬉しくて。

 ――私は、気が付くと笑みがこぼれていた。


「うん! ありがとう、ソールくん!」


 * * *


 その後、しばらく他愛のない話をして、歯磨きを終えた私達は、二階の寝室で寝る準備をした。

 時刻は夜十一時。私がソールくんの家を訪ねてから二時間程経っているが、雨や風が止む気配はない。

 同じ部屋で寝る事になった私とソールくんは、どちらがベッドで寝るか話し合いをしていた。


「……ベッド、リオに貸すよ。僕は椅子で寝るから……」

「えっ!? だ、駄目だよ! ここはソールくんの家なんだから、ベッドはソールくんが使って」

「……そういう訳にはいかないよ。お客さんを椅子で寝かせるなんて……」

「大丈夫、気にしないで!」

「そう言われても……やっぱり、リオがベッドで寝るべきだよ」


 話し合いは平行線で、中々答えが見えてこない。

 そこで私は、思い切ってこんな提案をしてみる事にした。


「じ、じゃあ……ふ、二人一緒にベッドで寝ない?」

「えっ……!?」


 ソールくんの顔が赤くなる。……私達、今日だけで何回赤面してるんだろう。


「……リオってさ、時々すごく大胆だよね……」


 ソールくんが、困ったようにそう言った。


「ぜ、全然恥ずかしくない訳じゃないよ!? と言うか、すごく恥ずかしいけど……!」

「……うん、わかってる。けど、本当に良いの……?」

「……う、うん」


 私はソールくんを直視できなくて、目をそらしながら頷いた。


「……わかった。じゃあ、二人一緒にベッドで寝ようか」

「……うん。……は、恥ずかしいから背中合わせでいい?」

「……うん、それで良いよ」


 私とソールくんはベッドに入ると、背中を向け合う形で横になった。


「おやすみなさい、ソールくん」

「……おやすみ、リオ」


 ……とは言ったものの、緊張で胸の鼓動が早く、目が冴えてしまい、眠れそうにない。

 しばらくすると――背後から、ソールくんの規則正しい寝息が聞こえてきた。

 その寝息を聞いていると、何だか安心してきて、私も眠くなってきた。

 ――そうして私は、眠りに落ちた。

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