嵐の夜(梨央編)・二
ソールくんの家に向かう途中。
ポツ、と、顔に冷たいものが当たり、足を止めた。
ーー雨だ。
ハーヴェイさんに「にわか雨に気を付けた方が良い」と言われたので、ソールくんの家に向かう前に、一旦屋敷に帰り、傘を持ってきていた。
私は傘を差すと、ソールくんの家に向かって再び歩き出す。
風も強くなってきたみたい……急がなきゃ。
私は、歩く足を早めた。
しばらく歩いて、ソールくんの家に着いた。
私は傘を閉じると、家のドアをノックした。
お願い……どうか元気な姿で出て来て、ソールくん……!
そう、強く祈っているとーー。
ガチャリと、家のドアが開いた。
そしてーー不思議そうな顔をしたソールくんが、姿を見せた。
「リオ……? どうしたの? こんな時間に……」
「ソ、ソールくん……! うっ……」
ソールくんが無事だった! 良かった……!
感極まった私は、思わず涙ぐみながらソールくんに抱き付いた。
「えっ!? ちょっ、リオ!? 急にどうしたの……!?」
ソールくんは、状況を理解できていない様子だ。
とりあえず私は、ソールくんの家に上がらせてもらう事になった。
* * *
「……はい、お茶」
「ありがとう、ソールくん……」
ソールくんは二人分のお茶を持ってくると、私の反対側の席に着く。
「……それで、どうしたの? 何かあったの?」
「ソールくん……今日、何の連絡もなしに仕事を休んだから、何かあったんじゃないかって、心配で……」
「……え? ……仕事?」
ソールくんは、不思議そうに首を傾げた。
「今日は私、ケントさん、ソールくん、ハーヴェイさんの四人の予定だったんだよ」
「えっ!?」
ソールくんは、慌てた様子で壁に貼ってあるカレンダーを見た。
そして、驚いたように椅子から立ち上がる。
「あれ!? 今日、何日だっけ……?」
「今日は八月十四日だよ」
しばらくして、ソールくんは顔に手を当て、呆れたようなため息をついた。
「はあ……僕、馬鹿だ……カレンダーに今日のだけ書き忘れてたみたい」
「そ、そうだったんだ……」
ソールくんが仕事を無断欠勤した意外な理由に、私は拍子抜けした。
「……でも、ソールくんが無事で本当に良かった。私、ソールくんが熱中症で倒れたんじゃないかーとか、色々考えちゃって……」
「リオ……心配かけてごめん。ケントとハーヴェイにも、後で連絡して謝らないと……」
「ふふっ、そうだね」
ソールくんは私の方を見ると、こう言った。
「……リオ、送って行くからそろそろ帰った方が良いんじゃない? 雨も風も強くなってきたし……」
「うん、そうだね。雷とか鳴らないと良いなぁ……私、雷って苦手なんだ」
「……そうなの?」
「うん。音と光が怖くて」
と、その時。
ゴロゴロ……と、私の苦手な音が鳴り響いた。
「うっ……雷鳴ってる……! 早く帰らなきゃ……」
私は急いで椅子から立ち上がる。
帰り支度を済ませ、ソールくんと共に家を出ようと、出入口のドアを開けるとーー。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
ものすごい雨と風が、私達を襲った。
ソールくんは、慌ててドアを閉める。
「……こんなに雨風が強いと、帰るのは危険かもしれないな……」
「そ、そうだね……」
私達は、顔を見合わせた。
ソールくんは顎に手を当て、しばらく思案した後ーー何故か、頬を染めた。
「ソールくん? どうしたの?」
「えっ!? あ、いや、あの……えっと……」
ソールくんは、何か言いたそうに私の目を見る。
しかし、すぐに目をそらしてしまった。
「ソールくん?」
ソールくんはしばらく黙り込んでいたが、やがて意を決したように口を開いた。
「……あ、あのさ、リオ」
「うん、何?」
「……ご、誤解しないで! 変な意味じゃないからね!?」
「? う、うん」
「……あのさ、その……もう夜も遅いし、雨風も強いから……その、もしリオが嫌じゃなければ……う、家に……泊まって、行かない?」
「えっ……!?」
ソールくんの言葉に、私の顔は一気に熱くなった。
「い、嫌なら良いよ!?」
「う、ううん! 嫌じゃないよ! むしろ……」
「えっ……!?」
「! や、やっぱり何でもないっ!」
私達は、恥ずかしさのあまりお互いの顔を直視できなくなり、俯いた。
……何だろう、この状況。き、気まずい……。
とりあえず、私はソールくんに確認する事にした。……恥ずかしいけど。
「あ、あの、ソールくん……ほ、本当に良いの? と、泊まって行って」
「……う、うん、良いよ」
「……じゃあ、その……お言葉に甘えさせてもらうね」
「……うん」
そんな訳で、私はソールくんの家に泊まる事になった。




