第三話「マスター&パペッツ」
都会は雪で埋もれている。
街から離れ、二人車の中、目的地へ進む。
「そういえば・・・。」
リンカーンの一言が長らく続いた沈黙を破った。
「俺はテロリストになりたかったんだ。」
「初めて聞いたな、そりゃ。」
「俺は今の年齢になるまでの記憶もないし、今日の朝目覚めたら、いつの間にかお前と警察車両に乗って、走っている。お前から話を聞くまで、自分が何をするのかもわかってなかったんだ。自分が住んでる家の天井を見上げた瞬間、生まれたての赤ん坊の気持ちだったんだ。両親はいない、恋人もいない。真っ新な状態で俺は生まれた、ってな。目覚めた時、ある程度のことは覚えてたんだ。お前のこと、自分の職業、それだけだ。お前と俺が移動になった経緯も知らなければ、どこの警察署に向かっているのかも俺はわからねぇ。お前、一体なんなんだ?」
「怖がるこたぁねぇ。皆、恐怖を抱いて生きている。」
「そうだなー。だがな・・・・俺は恐怖はないんだよ。」
そう言うと、リンカーンはおもむろにハンドルを切り、路側帯を踏みつけ、道外れの大木に突っ込んだ。ワシントンは驚きもせず、声も上げず、ただ成すがままリンカーンと共に同じ運命を全うした。
煙を上げるボンネット、黒い煙は辺りの白雪に彩を与える。車のドアが開くと、頭から血を流したワシントンが出てきた。フラフラと歩きながら、雪上に自らの体を落としいれた。
「さすがだぜー。お前はー。」
頭上にはワシントンを見下げるリンカーンの姿があった。
「俺は今日生まれたことを記念して、好きな道を歩ませてもらう。ただ邪魔なものとしたら、ワシントンくん、お前だよ。」
ズドーン!
朝、目覚めたら、俺は記憶を全て失っていた。
だが、いつもの映画やアニメだったら、記憶探しの旅にでも出ることだろう。
だが、考えてみろ。
俺には何もない。記憶もなければ、親しい者もいない。
あー、親しい人間であった奴がいたが・・・。
まぁ、どうなろうと関係ない。
俺は真の自由を手に入れた。これは神様から貰ったプレゼントとして貰っておこう。
俺は今日からテロリストとして生きていく。
よぉ、リンカーンだ。
ようやく死亡者が一名だ。これから何人死ぬんだろうな?
次回「One」でまた会おう。