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五話

 帰宅して、すぐに自分の部屋へと入って行った。

 みなみの頭の中はまた悠里のことでいっぱいだった。

 明日、遊びに行くとしたらどうすればいいのだろう。最近であれば同じクラスのさやかとしか出掛けたことはなかったし、そのときだって目的地は本屋だったり志望校のイベントだったりと、遊びを目的にはしていなかった。

 大切に持って帰ってきたレシートを見る。相変わらずサンドイッチとパックの飲み物だけの印字、しかしその裏側には悠里の文字で書かれた数字とアルファベットが並んでいる。

「どうしよう…」

 念のため母親に明日の予定を確認しよう。もしかしたら自分も参加しなければならない何かがあるかもしれない。

 レシートをなくしてしまわないように引出の中にいれ、自分の部屋を出る。

「ねぇ、お母さん。

明日って何か予定ある?」

「明日?特に何もないけど…どうかした?」

「どうもしないけど、ちょっと出掛けてもいい?遊びに行こうかと思ってて…」

「いいんじゃない?ずっと勉強ばっかりだったもんね。学校の友達?」

 みなみは少し固まってしまう。友達かと言われればそうではないような気もするし、しかしどういう関係かと言われればそれも困ってしまう。学校の、というところは間違っていないのだから否定するのもおかしな感じがする。

「まぁ、そんなところかな」

「どこに行くの?」

「まだ決まってない、遊びに行っていいか聞いてから返事しようと思ってたから、そのときに聞くよ」

「そう、じゃあ行先がわかったら教えてね」

 母親は何かに勘付いているようだった。それ以上深く聞いてくることはなかった。


 改めて考えた。

 自分と悠里はどういう関係なのだろう。

 友人というのとは少し違う。けれど赤の他人でもない。勉強を教えてもらったりはしていたが、先生と生徒というにはフランクすぎる気がする。

 明日、遊びに行こうという悠里の真意は何なのだろう。

 つい一か月前までは男性と話すことすらほとんどなかったみなみが、明日、その男性と二人で遊びに行くことになりそうなのだ。

「…どうしよ…」

 男と遊んだのは小学校の頃が最後だ。それも一対一ではなく、複数人のグループで集まって鬼ごっこをしたりサッカーの真似事をしたりしただけだ。

 スマートフォンに悠里のアドレスを入力し、タイトルに名前を入れる。

 本文にはまずこんばんは、とだけ入れた。

 行きたい気持ちは強かったが、自分が行ってもいいのだろうかと思う気持ちがそれよりも強かった。見た目もイマイチな自分が、悠里の隣にいてもいいのだろうか。

 しかし今回を逃してしまえば、悠里と会える機会すら失ってしまうような気がする。

 意を決してみなみは本文を作り始めた。

『こんばんは。

返事が遅くなってごめんなさい。

明日、是非一緒にお出かけさせてください。』

 シンプルな短いメールを作るのに三十分も要した。みなみが父親以外の男性に送る初めてのメールだ。もう一度内容に間違いがないかを確認して、ようやく震える指で送信ボタンを押した。

 ほっとしてスマートフォンを机の上に置く。明日のための用意を始めることにした。

 服装はどうすればいいのだろう。いつも制服で会っていたが、私服となると難しい。父親や母親からも言われ続けていたが、おしゃれには全く興味がなかったみなみが持っている服は多くない。

 スカートで行った方がいいのだろうか、それとも動きやすいパンツスタイルの方がいいのだろうか。

それに合わせた鞄はどうすればいいのか、靴は…

 何もかもが初めてなのだ、何もわからない。

 クローゼットと十分近く睨めっこをしていたとき、机の上でスマートフォンが鳴った。

『こんばんは、メールありがとう!

お母さんには怒られなかった?笑

明日、11時に駅で待ち合わせしよう。疲れない服装で!

慣れない服は着ないこと、靴も!!』

 今のみなみを見透かしているかのようなメールだった。11時に、駅。

 普段履いているお気に入りのスニーカーを履いて行こう。ジーンズは流石にまずそうだから、動きやすく涼しい七分丈の黒いパンツに夏らしいビタミンカラーのカットソースタイルのTシャツを合わせれば子供っぽくなり過ぎないはずだ。

 鞄はハンドバッグとショルダーバッグを並べてみたが、両手が空いている方がいいと思い、ハンドバッグをクローゼットに片付けた。

『こちらこそ、ありがとうございます。

11時に駅前ですね、遅刻しないように行きます。』

 メールの返事も素っ気ないもの、しかし今回はさっきよりも短い時間で作り上げることができた。すぐに送信する。

 鞄の中の持ち物を準備する。ハンカチやポケットティッシュは忘れていないだろうか。他に何かいるものはないだろうか、いやしかし無駄なものを持っていって重くなり過ぎるのも困りものだ。

『みなみちゃん、メールかしこまりすぎ!

絵文字とか使っていいよ。笑


じゃあ明日、何かあったらまた連絡して。

行先を聞かれたら隣の駅のショッピングセンターで買い物って言って出ておいで。

今日は早く寝ること!あと、明日は勉強のことはいったん忘れること!』

 メールの最後には歯を見せて笑う絵文字がついていた。




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